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突然だが、神愛さんと流星さんは今日も今日とてラブラブだ。
部室の中はもちろん、廊下でも中庭でもいっちゃいっちゃいっちゃいっちゃ、最初はよくいる仲の良すぎる女子高生同士だと誰もが思っていたようだが、やがてだんだんと認知されていき、そして今では学校の風景に溶け込んでいる。慣れとは恐ろしいものだ。
「よう、ぽこ」
「あ、おはようございます流星さん」
僕が思わず背伸びして、彼女の背中の後ろにあるものを確かめた。やっぱり野球バッドだ。野球でも始めたのだろうか。また彼女がもててしまう。
「どうしたんです、それ。素振りでも」
「いや、私の神愛がラブレター貰ったんだ。それで、今からそいつをかっとばしに」
「流星さん、しっかりしてください、人を打ってはいけません」
どうどうとどうにか流星さんを落ち着かせ、詳しく話を聞くと、神愛さんの下駄箱にラブレターが入っていたらしい。実に古風すぎて悪戯かと思われるが、あの神愛さん相手じゃ出した方も本気だろう。
「別に、普通に断るだけでしょう。神愛さんには流星さんがいるし。それで、どうしても相手がしつこいようなら、流星さんが助けに行けば…平和的に」
「お前、本当にそう思うか?」
「はい?」
「神愛は、あいつ、神がかり的に惚れっぽいぞ」
「そ…れはっ」
流星さんには申し訳ないが、それは否定できない。確かに流星さんは格好いい、それは認めざるをえないが、それにしたって惚れる早さが早すぎる。彼女の武勇伝(恋愛)を聞いたところによれば、神愛さんは別に女性が好きなわけではなくて、要は男女問わず年齢問わず好きになった人が好きなのだ。恐ろしいほど、直情的に。
「ここで私より強引に男が迫ったら…正直、私に勝ち目はない。体的に」
「あなたたちにはそれしかないんですか?絆とかなんとかないんですか?」
「いいか、ぽこ、よく覚えておけ。男の攻めと女の攻めが勝負して負けるところは、一番はやはり(放送禁止用語)だ。指や道具では、しょせん本物には敵わない。お前もいつか不能になったときのために覚えておけ」
「その知識を思い出さなくていいように努力します」
「よし、ちょっと行ってくる」
お、やっと神愛さんのところに行くのかな、と思ったら、彼女はなぜかカバンをがさがさやっていた。
「性転換っていくらかかるんだ」
「何を生やしに行こうとしてます!?」
よかった、今世紀最大のイケメンが誕生するところだった。危ない危ない。ちょっとほっとしたら小腹が空いた、購買に行くと僕は大好物のカレーパンを買った。二つ。一つはなんとなく神愛さんにあげようと思った。お嬢様カレーパン食べるのかな、いやお嬢様かどうかは知らないけど。
カレーパンをかじりながら、神愛さんをあてもなく探しながら歩いていると、中庭に出た。葉が作ったように舞う中、神愛さんの向かいに、真っ赤な顔した男子生徒。これでもかってくらいの告白現場だ。
「好きです!僕と付き合って下さい!」
「え、え、あのっ」
そして今正に告白してる!
僕はあわあわしながら、それでもその場は去れずにいた。覗いてるみたいで感じ悪いかな、いや実際覗いてしまってるんだけど。男子生徒の方を見る、どこにでもいる普通の男子生徒だが、表情から、言葉から、真摯さがうかがえる。悪戯ではない。
「一生、幸せにします!」
「…っ、一生?」
やばい、早くも揺らいでる。確かに揺らぎやすい言葉ではあるけども。どうしよう助けに行こうかな、余計なお世話かな、僕がもだもだやっていると、ふと、爽やかな風がやってきた。
「神愛?何やってんだ、こんなところで」
「…正義さん!」
超イケメン登場、正義さんだ。これにはさすがの告白相手も引いていた。ただならぬ雰囲気に、性格までイケメンの正義さんは全てを察したように、神愛さんを見た。
「邪魔したな」
「あ、あの、正義君…私をここから攫ってくれないかしら。私、このままだと、彼に…」
あれ、おかしいな、僕、とうとう日本語も分からなくなっちゃたかな。神愛さんは一体、何を言ってるんだろう。そして正義さんが、何だかよく分からない顔をしている。そして、その顔のまま、恐らく言われたまま、神愛さんの手を取ったそのときだった。
「神愛!!」
「…っ、流星お姉様!」
本命イケメンキタコレ、流星さんが颯爽とかけつけてきた。正義さんのときと違ったのは、明らかに神愛さんのテンションが違う。喜び過ぎて、気のせいか花が飛び散って見える。流星さんは駆けつけてくるなり、神愛さんの唇を舌を入れながら奪った。まあ、要はべろチューだ。これは告白してきた男子にとって最大のトラウマとなっただろう。ちなみに僕は、この光景に慣れている自分の方が怖い。
「お、お姉さま…私…」
「何も言うな。分かってる」
「お姉さま!」
一体何が分かったというのか、本人たちにすらよく分かってないんじゃないだろうか。相思相愛の恋人たちには何を言っても届くまい。
「さあ、帰ろう」
「はい!」
こうして2人は肩を抱き合い、どこかへと去って行った。まさか本当に帰ったりはしてないだろうが、だとしたら部室だろうか。しばらく部室には近づかないようにしよう。
「うわああああああ!!」
哀れ名もなき男子生徒は泣きながら去っていき、残された僕は、背伸びして正義さんの肩をぽんと叩いた。
「…美味いな」
「はい」
イケメンと食うカレーパンは美味しい、美味しかったが、なぜかちょっとだけしょっぱかった。




