5☆
ああ、今日はいい日だ。竹取さんと登校出来る。たったの五分だけど、そんなの関係ない。
「あ!ぽこ太君、おはよー!」
「おはようございます!!」
ああ今日も可愛い僕の天使、あれでも今日はちょっと様子が違うな―何だろう、あ、イヤリング、してる!
「先輩、耳―」
「あ…あ、これ?昨日、衝動買いしちゃってね。小さいのなら大丈夫なはずなんだけど…やっぱり駄目かな?怒られちゃうかな?」
可愛い、竹取さんの耳についてるものならもう何でも可愛い、米粒でも可愛い、いっそ耳になりたい―散々気持ち悪いことを考えがら、僕はゆっくりと口を開いた。
「きっと大丈夫だと思います!外すのもったいないですよ、すごく可愛いし!」
よし言えた、噛めずに言えた、可愛いって言えた!
「えへへ、ありがと」
うわあもう超可愛いな、ああもう可愛いって毎日言いたい、出来れば好きだって言いたい、もっと出来ればお付き合いしたい―えへえへ気持ち悪く笑いながら、僕は竹取さんと楽しく登校した。楽しすぎて、後ろのマヤさんの殺気に気付かなかった。
「こんにちは、ぽこ太君!!」
「こん…」
マヤさんだ―あれ、珍しい、ポニーテールをしてる。
「今日はポニーテールなんですね」
「う、うん、変かな」
「いや、似合ってますよ」
「…そ、そう…」
何だろう、真っ赤になったけどもじもじしたまま動かない。まだ何かしゃべりたそうだけど、言えないみたいな顔してるな。この人のことは相変わらずよく分からない。
もしかして―まだ感想が足りないんだろうか。
「運動部みたいですね」
あ、違うな。何だろう、何て言ってほしいのかな。可愛くて似合ってるけど、僕なんかから可愛いって言われても嬉しくないだろうしな。というかいつもの下ろした髪の方が個人的に好きなんだけど、僕の感想なんてアテにしないだろうし―でもこの人が他の男子と話してるの見たことないしな。
「可愛いですけど」
「!」
「いつもの髪の方が僕はいいです」
しまった、これは言うべきではなかったかな。真っ赤な顔して震えだしてしまった。怒った、怒ったかな、僕が様子を見ていると、マヤさんはいきなり窓から身を乗り出したため、僕が慌てて止めた。
「離して!ここから出して!恥ずかしくてこんなところにいられない!!」
「落ち着いて下さい!落ち着いて!すいません、僕なんかが出しゃばってほんとすいません!!」
疲れた。
マヤさんを落ち着かせるべく部室に連れていったら、流星さんと神愛さんがまたいっちゃいちゃしてたため、居合わせた正義さんとその場を去った。あらぶるマヤさんを引き取ってくれてよかったけど。
「正義先輩もすいません、何か付き合わせて」
「いや、いい。あの部屋に発情期がいるのが悪い」
発情期―確かにな。所詮童貞の僕がいくら考えても分からないが、あんなこと毎日(多分)してて疲れないんだろうか。女の人同士だとまた違うのかな。て、いかんいかん、これ以上想像すると、セクハラになってしまう。
「ぽこ太、お前、マヤと付き合ってるのか」
「………はい!?」
「いや、いつも一緒にいるから」
「そんなこと」
あれ、そういえば、何か、一緒にいる機会多い気がする。竹取さんより多くないだろうか。周りからもそういう勘違いされてるんだろうか。それは困る。それで竹取さんが少しも気にしてなかったらもっと困る。
「付き合ってません!僕は」
「あ、ぽこ太くーん」
あぶねー!!
竹取さん降臨、心臓が飛び出るかと思った。ああ朝以来だけどもう可愛いな。
「ご飯食べた?今日ね、今日ね、学食のミートボールが私だけ一個多くて」
「うざい。」
ん、なんだろう、すごい異国語が聞こえた気がする。誰がうざいって?気のせいか、正義さんが竹取さんを睨みつけてる気がする。竹取さん泣きそうだし。
「…じゃ、じゃすちぃす君…いたの…」
「いたよ。つうか人の名前噛むなよ。萌えか、萌えてほしいのか。あいにく俺は虫唾が走るわ。高校生にもなって何がミートボールだ、お前、絶対自分のこと可愛いと思って」
「こらー!!」
僕は思わず2人の間に割って入って怒鳴りつけた。
「な、何言ってるんですか!竹取さんはそんなんじゃ」
「はあ、お前こそ何言って………ははあ」
ん、何だろう、何か納得されたようなため息をつかれた上に、どこかに行ってしまった。て、今はそんなことより竹取さんだ。うわあ、すごい泣いてる。
「うええええ」
「ああ竹取さん泣かないで!」
「あ、ありがとう、ぽこ太君…正義君、私のこと、嫌いなのかな…」
「いえ、そんなこと…そうだ、あの人は硬派なんです!小さくて可愛い子に冷たくするけど、いざというときは、守ってくれます!格好いいんです!!」
あ、しまった、かなり恥ずかしいことを言った。
「格好いいんです!」
僕がもう一度正義さんを褒めたたえると、ようやく竹取さんが笑ってくれた。
「あ、ありがとうぽこ太君。じゃあ、私、そろそろ教室行くね」
「はい、また部室で」
よかった彼女が笑って去ってくれて、ほっと自分の教室に帰っていく僕は、竹取さんが教室に入っていくなりどんな扱いを受けているのか、分かるわけもなかった。
眠気と戦う授業が終わって、ようやく放課後、部室だ部室だ。軽い足取りで部室へ急ぐと、一応ノックした。すると返事はないが、変わりに、太郎さんの笑い声と神愛さんの高い声が聞こえてきた。
思春期の脳内が一気に加速した。ま、まさか、とうとう、太郎さんと神愛さんが―
「太郎さん!流星さんに殺されま」
「きゃー!きゃー!!」
「あっはっは、見て見て、血デロデロ。あれ、ぽこ太君だ。やっほー」
やっほー、僕が手を振り返すと、部室内はピンク色ではなく、大変平和だった。太郎さんがパソコンで見ているB級ホラー映画に、神愛さんがひたすら怯えている。珍しいメンバーだ。ていうか、太郎さん、多分暇なんだな。
「見て見て、また、死んだ」
「楽しそうなところ申し訳ないんですが、止めてあげましょうよ。神愛さん怖がってますよ」
「きゃー、きゃー!」
太郎さんに指差されてて神愛さんの様子を見ると、彼女は叫びながら、怯えながら、ちらちら部室扉の方を見ている。鈍い僕にも分かった、流星さんに駆けつけてきてほしいのだ。
「僕はこんな映画より、女の方がよっぽど怖いけどね。ここの部の女子は特に」
「流星さんですか?あの人、ちょっと迫力あるだけでいい人ですよ」
「ぽこ太君はそのままでいてね…ああ、そう、彼女もまた例外だった」
「ぽぽぽぽこ太くうん」
「ふぎゃああ!!」
びっくりしたびっくりした、映画よりびっくりした、いや僕ホラーは平気なはずなんだけど、いやちょっと待て、目の前のマヤさんだ。部室のカーテンかぶって、小刻みに震え続けている。
「マヤさん、どうしたんですか!?」
「怖くない、怖いくない、お化けなんていないもん」
「いやいや、めちゃくちゃ駄目そうじゃないですか!太郎さんいい加減…いねえ!!」
ツッコミがタメ口になってしまった、まあいいか本人いないし。神愛さんもいない、あれ、ってことは何、僕とマヤさんだけ?こんな怯えたマヤさんと僕だけ?
「マヤさん、ほら、映画はもう終わってますよ」
「う、う、うー…」
ふっ
「きゃああああああああああ!」
「うわあああああああああああ!!」
部室の灯りが急に消えたことより、どちらかといえばマヤさんの悲鳴と衝撃に驚いた。部室の外から笑い声が聞こえる、太郎さんだ。あの人絶対わざとだな。ていうか―ていうか―
「きゃあああああああ!!」
「まままマヤさ」
何。この、僕の顔を覆っているのは。頭をすごく抱きしめられてる―ってことは。これ、あれだよな、深く考えないようにしてたけど、どう考えても、ていうか深く考えなくても―
お胸!!
やばいやばいやばいこれはやばい、鼻血どころか色んなものが出そう、ていうかこの状況絶対まずい、マヤさんのお胸に僕の顔がダイブしてる。しかもすごい抱きしめられてるから身動きが取れない。ていうか前々から思ってたけど、この人、力強いんだよな。心臓よりも先に頭がい骨が駄目になりそうだ。
「マヤさん、落ち着いて!あと出来れば離して下さい!僕が死にます!」
「うわあああああああん!!」
駄目だ完全にパニくってる。とにかく部屋に電気つけないとまずい。僕の作戦はシンプルだった。頭を一気にずり下げて、すり抜けて、電気をつける。完璧かと思われたが、しょせんは僕の考えることだった。
ずるっと頭を下げて自由になったまでは良かったが、そのままバランスが崩れ、マヤさんは後ろに倒れこんでしまい、その勢いのまま、また僕が抱きしめられた。
「きゃああああ何!?」
「うわあああああすいません僕です!!」
ていうか何ってこの状況が何、また抱きしめられちゃったよ!そしていつもどうして顔がお胸に行くんだ!ああ身長差か五月蠅いな、こんなに身長離れてないよ!
どうしようどうしよう、もがけばもがくほど、マヤさんのお胸にすり寄ってしまう変態体制になりかねん、僕は必死で耐えた。脳内から湧きあがるとんでもないものに負けないようにしなければ、僕は流星さん2号になってしまう。誰か助けて―
「流星さん!!」
「呼んだか」
それは、本当に正義の味方みたいなタイミングで現れてくれた。灯りをつけて、冷静に、僕たちを見降ろし、からかうことも驚くこともせず、静かに小さな箱を投げて去っていった。その箱を見て、僕は顔から火が出るかと思った。女子高生がこんなもの買うなよ。
「良かった、灯りがついて…マヤさん大丈夫ですか」
気を抜くと胸囲を重視しそうで僕が必死で顔を見ると、彼女は真っ赤な顔で、また、不思議に笑っていた。
「ありがとう…また助けてくれたね」
助けたのは流星さんですよ、その言葉が上手く出なかった。真っ赤になった僕の顔は、しゃべることがしばらく敵わなかった。




