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それは、今朝は竹取さんが迎えに来てくれないらしいと知るなり、朝食のかりかりパンを悲しみのあまりしっとりパンにしてしまった朝のことだった。
「やっだ~☆遅刻遅刻ぅ」
僕は何かの手違いで古き良きラノベの世界に迷い込んだのかと思った。目の前にはパンを咥えて走ってるマヤさん。この場合トーストが鉄板なのだが、彼女はなぜかフランスパンだ。おまけにかなりでかい。でかくて痛いのであろう、涙目だ。
どうしようものすごく声がかけたくないが、同じ部の先輩で無視はまずい。僕が極力気にしないようにして挨拶をしようとすると、マヤさんは僕に気付いたのかなぜか僕に魚雷のように突っ込んできた。僕がとっさに避けると、彼女は地面に派手に転んだ。痛そう。
「何で避けるのよ!」
「いや、避けるでしょう普通!」
かなり痛そうなマヤさんが涙目だ、僕が手を伸ばすと、彼女は真っ赤になり、僕の手を振り切り泥まみれのまま走っていった。忙しい人だ。
「う、う、パン咥えてぶつかる作戦失敗しちゃったぁ」
「な、泣かないでマヤちゃん!次頑張ろう!」
「やっぱり私転校生じゃないからかなあ?いちごパンツじゃなかったからかなあ?」
「落ち着いて!マヤちゃん!とにかくパン食べながら登校はもう止めよう、危ないから!」
先生、質問です。先生いないけど。部室の中で竹取さんとマヤさんは何の話してるんでしょうか。分からんけど。制服だいぶん汚れたみたいだし、心配でついてくるんじゃなかったかな。女の子同士の会話って聞いちゃいけない感がある。
「そんなまだるこっしいことしてないで、とっとと告白してこいよ」
ん、あれ、流星さんの声だ。彼女がいるなら僕も入りやすいかな。流星さんも生物学上は女子だけど。
「それが出来れば苦労しません!何か…何か、ありますか!?」
「………体?」
「いやですわ、流星お姉さまったら」
「すとーっぷ!えっちなことは駄目です!駄目ぇ!」
「ちょ、ちょっと待って下さい!えっちって何ですか?2人って本当にそうなんですか、え!?」
よし、ものすごくどうでもいい話をしている。竹取さんの声でえっちって聞けたし、もう満足。ノックをして扉を開けると、皆驚いていた。メンバーは声の通り、流星さん、神愛さん、マヤさん、竹取さん。マヤさんが激しく後ずさっているが、もう彼女のオ―バーリアクションには慣れた。
「おはようございます。マヤさん、派手に転んでましたけど、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫!うん!て、いうか…聞いてた?」
「断片的に。何言ってるか分かりませんでしたけど。内緒話なら、もっと小さい声の方がいいですよ。じゃあ、僕、授業に行きますので」
「あ、ありがとう!!心配してくれて!!」
リアクション大きいけど声も大きな人だなあ、僕が手を振ると、マヤさんはまた顔を真っ赤にしていた。
「ぽ~こ~太!!」
「うわっ」
教室に入ってくるなり、教室の男子たちに羽交い絞めにされる。このあだ名もずいぶん馴染んだ。
「今、この学校で誰が可愛いかって話しててさあ!そしたら、みんなお前の同好会にいる女子ばっかり!ラインナップが羨ましすぎるぞ!」
「みんな可愛いじゃんか!紹介しろよ!合コンしようよ!誰も男いないんだろ!?」
「………まあ」
確かに、男はいない。『男』は。流星さんと神愛さんは禁断のラブでラブラブだし、マヤさんは悪い人ではないのだがちょっとかなりアレだし、竹取さんは言わずもがな。誰が紹介などさせるか。あれ、そういえばマヤさんって彼氏いるんだろうか。とりあえず竹取さんに紹介駄目絶対、僕はなけなしの脳をフル回転させた。
「仲良くしてもらってるけど、それでも先輩だぞ?いきなり合コンして下さい、ってかなりハードル高いだろ」
「う、ま、まあ、それはそうだけどさあ」
「そうだ!同好会に見学行くのはどうだろうか!」
「お、いいなあ!星を見ながら…神愛先輩と愛を…」
そこまで言うと級友たちがきゃあきゃあ女子中学生のように騒ぎ出す。僕たちの同好会は、名前から天文学同好会と勘違いされやすい。同好会の名前はボスの名前だし、活動内容は見学するまでもなく、ただダラダラと遊んでるだけだ。これはいけない。この様子を見学されたら、放課後、野獣たちのたまり場になる。主に竹取さん狙いの。
「僕たちは星なんて見ない、ただの風紀委員の手伝いだよ。面倒臭いぞお」
そこまでいうと、掃除当番もさぼりたいお年頃(同じ年だが)の男子たちは黙りこんだ。かなり悔しそうな顔の向かいで、僕は勝利の笑みを隠せずにいた。よく頑張った僕の脳。
「ぽこたくーん」
「はーい」
呼ばれて廊下に顔を出すと、太郎さんが笑って手を振っていた。
「ちょっといい?」
「はい」
僕は喜んで廊下へ出た。級友たちの視線の痛いこと痛いこと、僕はちょっと勝ち誇った気分でいた。
「いきなりだけどさ。部内で誰か付き合ってたりする?やってる声が聞こえるって苦情きたんだけど」
そして途端後悔した。まさかあのイケメンと竹取さんが―なんて妄想してしまうほど僕は現実逃避したかった。そんなの、流星さんと神愛さんしかいない。おまけに僕は、内緒にすると約束してしまった。
「さ、さあ。僕にはさっぱり」
「そっか、まあ、知らないなら仕方ないか。偵察がてら覗きに行っていい?神愛さんが淹れてくれた紅茶、美味しかったんだよね」
この人絶対紅茶が飲みたいだけだな、思いながら僕は言われもしないのについていった。部室に行って、神愛さんたちのにゃんにゃん(古)の証拠でもあったら即効始末しよう。昨日の野球の話しながら太郎さんと部室に向かい、扉が開け放たれると、まだ明るいうちから、流星さんと神愛さんが、ナニでソレでアレだった。
「うわああああああああ!!!」
びっくりしていたのは太郎さんだけで、流星さんと神愛さんは相変わらず冷静で、僕は一緒に叫んで出来れば倒れたかったけど出来なかった。
「うわもう参った参った前代未聞前代未聞」
流星さんと神愛は服を着終わり、太郎さんは座り込んで頭を抱えてしまった。気持ちは分からんではない。当の本人たちは、煙草吸ったりお茶淹れたりしてるし。
「はい、紅茶です。気持ち落ち着きますよ」
「誰のせいだと思ってるんだい。ありがとう、いただきます。神愛さん、パンツ履いた?」
「前々から言おうと思ってたんだすけど、流星さん鍵かけましょうよ。ないなら作りましょうよ」
「仕方ないだろ、そこに神愛がいたんだから。ぽこ、灰皿取って」
「煙草止めろよ、せめて。君、卒業する気ないでしょ流星さん。あとぽこ太君も灰皿取らない、そして嘘つかない。彼女たちが付き合ってたの知ってたね」
僕が謝ろうとすると、流星さんに後ろから首を抱きしめられた。煙草とエロの残り香が、思春期には毒過ぎる。
「こいつに口止めさせたの私だ。何か罰則あるなら私が」
「お姉様!」
「はい、そこ惚れ直さない。まあ…校則には、不純異性交遊のことしか書いてないしね…いや女同士でも駄目だろうけどね…まあ万が一ばれても、おおかた君が無理やりやったってことになるでしょ。そしたらまた停学だね」
「はは、何年生かな」
「無理やりなんかじゃありません!今日の道具だって、私がリクエストして」
うわ、神愛さんの口から道具って。僕が恐る恐る怖い者見たさで見たら、やっぱり後悔した。あれが神愛さんの―興奮どころか僕が痛くなった。主に心が。
「うわ、これで遊んでほしいとか彼女に言われたい。流星さん、今度調教方法教えてよ」
「高いぞ」
「太郎さん、あまりお姉さまと仲良くしないで下さい」
「皆さん、授業行きましょう???」
やっと部室から出られた、部室を出てからも流星さんと太郎さんは盛り上がり(エロネタで)、僕の後ろを寂しそうに神愛さんがついてきていた。
「はあ、お姉さま取られちゃったわ」
「大丈夫ですよ。僕から見ても、お二人は完全な相思相愛です」
「ぽこ太ちゃん本当に優しいね…私ね、好きになった人はみんな私と付き合ってくれるのだけれど…みんな浮気したり、逃げたりしちゃうの…だから、お姉さまもいつか…」
神愛さんが泣きだしてしまい、僕は慌てて背伸びして頭を撫でた。僕は今までろくろく恋愛したことないし、もちろん彼女なんていたことない。だが、少なくても、目の前にいるこの人は十分過ぎるほど魅力的なことくらいは分かる。
「じゃあ、僕は無責任なことは言いません。でも、これだけは約束します。万が一、流星さんと別れるようなことになったら、僕と朝まで紅茶を自棄飲みしましょう」
「ぽこ太ちゃん…ありがとう!そのときは是非、私と」
「それは全力でごめんなさい」
思わず光の速度でお断りしてしまったが、彼女は「うふふ、振られちゃった」とふわふわしながら去っていった。もしかしたらすごくもったいなかったかもしれないが、僕の童貞力では彼女とはつり合い取れないだろう。
むにっ
「いひゃ!?」
いきなり頬を思いきりつねられた―僕が顔を頑張って振り向かせると、後ろにいたのは同部のイケメンだった。
「ど、どうしたんでふか」
「何か腹が立った」
イケメンでもストレスたまるのかな、僕が好きにさせていると、ふと彼が生徒手帳が落とした。解放された僕が拾うと、名前は、正義と書いてあった。あれ、この人もキラキラネームのはずだよな。
「すいません、見ちゃって。まさよしさん?せいぎさん?」
「ジャスティスだ」
「格好いい!!」
「ありがとよ」
悲しいことで一つ賢くなった。キラキラネームでも、イケメンは格好いいな畜生。あの人こそ彼女いないんだろうか。好きな人とかいないんだろうか。
「いいじゃん、ちょっとだけ」
「お茶するだけだから―」
「や、止めて!離して下さい!!」
校門外でものすごく分かりやすくナンパされているのはマヤさんだった。相手は大学生らしき男、おまけに2人。当然相手になるわけがない。先生でも呼びに行こうかと思ったが、近くに車がある。乗せられでもされたらまずい。僕は思い切り息を吸い込んだ。
「うわああああああああああああ!!!!」
「は、な、なんだこいつ!」
「おい、黙れ!」
「うわああああああああ!!!」
僕の正に馬鹿みたいな大声のおかげで人が集まってきた。先生はまだ来てないようだが、たまらず男2人は逃げていった。良かった逃げてくれて、僕が咳き込むと、涙目でマヤさんが走り寄ってきた。
「あ、ありがとうぽこ太君」
「いえ。すいません、格好悪い助け方で」
「そ、そんなことない!しゅ、すぐくかっこいかったよ!!」
「………」
「噛んじゃった!!」
僕が吹き出すと、恥ずかしくて赤くなってただろうマヤさんはもっと赤くなった。
「いや、すいません伝わりました。言われ慣れてないから、すぐに理解できなくて。ありがとうございます…マヤさん?おーい」
僕が話しかけてもマヤさんは微動だにしないため、僕が額に軽く何度もチョップを入れるが、それでも駄目だ。そんなに怖かったのかな、僕がとりあえず腕を引いて校内へ戻ろうとすると、ますます彼女は固まって重くなった。




