3☆
キラキラネーム同好会、名前を流星同好会。星座でも研究してるのかと見せかけて、実際は最強留年巨乳流星様が適当に支配してるただの暇つぶし部になっている。
最近では部員が全員集まることはなく、とりあえず僕だけは毎日顔を出している。お茶を飲んだり、しゃべったり、宿題をしたり、携帯をいじったり。適当に時間を潰して帰る。週に五回は竹取さんが来てくれるし、違う日にイケメン王子(そういえば名前聞いてない)や流星さん、神愛さんも来るので、一人だけの日はほとんどなかった。
そして、その日は本当に偶然全員揃い、人数が多いからと竹取さんが実家から引っ張り出してきた人生ゲームをやっていた。今は懐かしき卓上ゲーム、みんな平和にやっていると、いきなり扉が開かれた。
「やっふー!!」
太郎様登場、各々が何事もなかったかのようにゲームに集中をうつすと、太郎さんが慌てていた。さすがにちょっと可愛そうだったかな、僕が顔を上げると、太郎さんが僕の首に抱きついてきた。
「うわ、懐かしい、人生ゲームじゃん!僕も入れてよ」
「おい、いますぐぽこを離して帰れ。でないと、お前をこの小さい車に乗せるぞ」
「怖い!いやあ、ちょっとお願いがあって。風紀委員のお手伝いを頼もうと思ってね」
「風紀委員?」
今にも太郎さんをどうにかしようとしている流星さんを抑えつけてる神愛さんが首をかしげる。そう、そういえばこの同好会はそういう設定だった。そういうことなら、と全員が顔を上げると、太郎さんが満足げに笑った。
「お手伝いは構いませんが、何のお仕事ですの?」
「なあに、簡単なお仕事だよ。ちょっとした人助けですよ」
ちょっとした人助けっていうか。
「来ないでー!!」
あ、こういう光景ってどっかで見たことあるな、って客観的になってしまう僕は、実はものすごくパニくってるかもしれない。連れてこられた屋上には、今にも柵を飛び越えて落ちそうな女子生徒がいた。さっらさらの長い髪が風でうねり顔はよく見えないが、多分美人だ。ああ、ほら、混乱してる。
「あの人、もしかして飛び降りようとしてます!?」
「うん、そうだよー」
「そうだよじゃない!まさか自殺止めろって言うんですか!?完全に専門外ですよ!先生とか呼びましょうよ!」
「いや、もう、君たちしかいないかなって。彼女の自殺理由聞いたら」
「え?」
ほら、と太郎さんが見せてくれたのは、彼女の生徒手帳だろうか。ありふれた名字の下にある、鏡、という名前、確かにちょっと珍しい名前だが、それで終わるほど事態は易しくない。
「…何てよむんですか、これ」
「はは、察しがいいなあ。ぽこ太君。じゃあ、みんな一緒に…テクマクマヤコ」
「「うわああああああ!!!」」
予想を斜め上に行くお名前に、僕と竹取さんが同時に叫んだ。人のこと完全に言えないが、ちょっと、いくらなんでも、アレすぎる。僕が汗をかいていると、イケメン王子と目が合った。
「そ、そうだ。イケメンが頼めば自殺止めるかも」
「可能性はあるが、それは駄目だ。こいつは自殺寸前の女でも、好みでなければ即振るタイプだぞ」
「まあ否定はしないな」
「しましょうよ!じゃあ、どうすれば」
「ぽこ、お前が行け」
「はい??」
何で僕、首をかしげる僕に、流星さんがまた男前の顔をして肩を叩いた。
「ぶっちゃけな。私たち、それほど自分の名前気にしてないんだ」
「…え」
「だから、お前しかいないんじゃないか。止めるのは」
気持ちが分かるのは僕だけか―でも、だからといって、自殺を止めるのはいくらなんでもハードルが高すぎる。でもだからといって見捨てた後の人生はもっとハードルが高すぎる。
「行くだけ行ってみます」
「頑張ってぽこ太君!」
「はい!!」
竹取さんに応援され、僕は100人力だ。僕が柵を跨りかけてる彼女に近づくと、彼女はこちらに向かって泣き叫んでいた。
「来ないで!飛び降りるわよ!本気よ!」
「ま、待って下さい。どうして、今なんです。ずっとその名前と一緒だったのに」
「…っ、君、私の名前…まあ、いいわ…もう、どうでも…ずっと…鏡子って通してきたの。鏡の子って書いて、きょうこ。なのに…今日、出張に入ってる先生の変わりに入ってきた先生が、私の本当の名前…大きな声で…二回も!二回も!!」
うわ、それはさすがに同情するわ。かける言葉もない僕の前で、彼女はとうとう柵をまたごしてしまった。駄目だ、これでは本当に落ちてしまう。
「待って!死なないで下さい!そうだ、僕たちが入ってる同好会に入りませんか?」
「…は?」
「僕たち、みんな変った名前なんです!だから、貴女が入っても」
「でも…でも!私より変な名前いないでしょう!?」
確かにインパクト大だが―ここにきて、僕は、あることに気付いた。僕はキラキラネームに対するコンプレックスも分かるが、それ以上に、僕以上にアレな名前が実在したら、お会いしたいくらいだった。
「…舐めないで下さい。僕の名前は 」
最高に恥ずかしい名前を大声で叫んで、向かいの彼女の目が点になった。その瞬間、大きな風が吹き、彼女が下へと落下していってしまった。
「きゃあああ!」
「危ない!!」
思わず僕が咄嗟に抱きとめるが、全く間に合わず一緒に落ちるだけで、下にはかなり前から敷かれていたのであろう体育マットのおかげで、僕らは打ち身で済んだ。竹取さんには泣かれ、先生たちにはめっちゃ怒られたけど。
「ごめんなさい」
僕に向かって謝ってきた彼女の顔を間近で見て、僕は思わず顔を反らした。あら可愛い。いやいや僕は竹取さん一筋。学年を聞くと二年だという。
「生徒手帳、見てもいい?」
「どうぞ」
僕が自分のものを見せると、彼女はそれを珍しそうに凝視した後、裏返したり遠目で見たりしていた。いうまでもなく、僕の名前は変わったりしない。
「…本当、だったんだ…な、何かごめんね」
「謝らないで下さい、悲しくなります」
「そ、そうよね…ええと。何て呼んだらいいかな」
「え?」
「同じ部活になるんでしょ?」
僕が思わず笑うと、彼女は顔を伏せてしまった。ずっと心配そうに様子を見ていた竹取さんが、笑顔で入部届けを持ってきた。彼女は名前を書くとき震えていたが、鏡、できちんと止めていた。
「お名前、ちょっと長いから、あだ名にしよう!ええとじゃあ…マヤちゃんで!」
「あ、可愛い。よろしく、マヤさん」
「よ、よろしく…あ、あだ名か…あなたは?」
「僕はぽこ太」
「ぽこ太」
ぽこ太、ぽこ太、と繰り返しながら、彼女は何やらもじもじしながら、僕を見ていた。
「男の人にあんなに力強く抱きしめられたの初めて…」
「え?」
「う、ううん。大人になったら、一緒に、市役所に行って、名前変更しに行こうね」
「はい、是非」
「………なんか、プロポーズみたいだな」
スナック菓子を食べながら流星さんがそんな一言を言うなり、僕は咄嗟に意味が分からず、向かいのマヤさんは顔を真っ赤にしていた。その様子を見た流星さんが、またにいっと意地悪そうに笑った。
「お前ら、そのまま付き合っちゃえばどうだ」
「え、え、え!?」
「流星さん、何言ってるんですか!僕はかっ」
「ふえ?」
どうしたの、ぽこ太君、ふわっふわな可愛い目が僕を捕えて離さない。僕が真っ赤な顔してその続きをさすがに言えないでいると、なぜかマヤさんが泣きながら階段を上っていった。
「死んでやる!死んでやる!!」
「わああ、ちょっと待って!待って!!」
「マヤちゃ~ん!!」
僕と竹取さんが必死になって止めているのに、流星さんは何がおかしいのかずっと笑っていた。
マヤさんが無事仲間に加わり、僕はふと不思議に思った。もともと5人で6人になったのに部活にならないのか、と。すると流星様からありがたいお言葉を頂戴した。「部活だと何か成果を上げないといけないだろうが」なるほど、今後もだらだらするだけの部活ですね。まあ、その方が僕も楽だけど。
「お疲れ様、ぽこ太君!」
「お疲れ様です、竹取さん!」
こうしてほぼ毎日竹取さんと一緒にいられるしな、ビバ同好会。もう何でもいいや。僕がにたらにたら笑いながら、竹取さんの隣にちゃっかり座る。彼女はあのねあのね、と今日あった出来ごとを話してくれる。もう何話してくれたって可愛い。僕がうんうん聞いているとノックが聞こえた。僕と竹取さんが返事をすると、入ってきたのはマヤさんだった。
「お疲れ様です」
「…何よ。私が来たら邪魔!?」
「誰もそんなこと言ってないでしょう!」
「そうだよ、マヤちゃん、どうしたの!?」
「別に…ぽこ太君が…」
マヤさんが僕をちらちら見ている。いかん。これは確実に僕の竹取さんへの気持ちに気付いてる。いや、多分本人以外気付いてるけど。むしろどうして本人気付かないんだって感じだけど。僕は慌ててマヤさんの手を引いて部屋を出た。
「マヤさん、ちょっと」
「え、え!?」
僕はずんずん廊下を進み、しばらく歩いていく。よし、ここならさすがに、部室まで声は聞こえないだろう。
「あのですね、マヤさん。僕が竹取さんを好きなのは、内緒にしておいてくれませんか。いつか絶対、ちゃんと告白しますから…い、いつになるか分からないけど」
「…」
「?聞いてます?」
「…手…」
「…っ、あ、ああ!」
僕が慌てて手を離すと、マヤさんの顔は真っ赤だ。体温高いのかな、この人。
「とにかく、黙っておいて、下さいね」
「…付き合っては、ないんだ」
「はい」
「そう」
ん、なんだ、機嫌よくなったな。まあ、いいか。とりあえず部室に戻ろう。僕がマヤさんを連れて部室に戻ると、宿題をやってたらしい竹取さんが顔を上げた。
「どうしたの?2人とも」
「何でもありませんよ」
「もしかして、ぽこ太君…マヤちゃんのこと好きだったりして」
「はい!?」
何でそうなるんだよ―ちょっとは僕のいつもの視線気にして!僕が本気で悲しくなっていると、僕の後ろにいたマヤさんは泣きながら去っていった。更に傷ついた。
「ほら、竹取さんがあんなこと言うから」
すると、竹取さんは何か気付いたような顔をして慌てて追っていった。もしかしてようやく僕の気持ちに気付いてくれたかな、と思いながら、さすがに僕は追えなかった。女は女同士だ。
ちょ、ちょっとジュース買いに来ただけ、って、何を言いわけしてるんだ。これじゃ本当に、ただの野次馬じゃないか。こんなことする余裕あったら、告白する勇気に回せばいいのに。
「…ぇ、じゃあ…すきなの?」
え、嘘、なんか、核心ついちゃってる感じ?ああ、肝心なところが聞こえない!
「…ょうりょくするよ!」
「私だけで、頑張ります!」
「うわ、健気だぁ」
ああ、だいぶ声は近くなったが、何がどうなったか全然分からない!て、ちょっと待て!声が近くなったってことは―僕が慌てて隠れると、今僕がいたところに2人が歩いてやってきた。慌てて隠れたせいで変な形になった。
飲みたくもないジュースを一気飲みして、部室に帰る。いつもより部室のドアが重く感じる。そろそろとノックして開けると、何だかすごい笑顔した竹取さんと、また真っ赤な顔したマヤさんがいた。
「外、真っ暗だね。そろそろ帰ろうか」
「あ、そうですね」
「よし、じゃあぽこ太君。マヤちゃんを送ってあげなさい」
「「えー!?」」
驚いた僕の声ともっと驚いてるマヤさんの声が一緒になった。
はあ、竹取さんと2人きりで帰れる貴重な機会が。僕がとぼとぼ帰っている、隣のマヤさんはガッチガチだ。当然だ、一緒に帰る男が僕だもんな。
「ごめん、マヤさん。竹取さん、何か勘違いしちゃったみたいで…ちゃんと誤解解」
あれ。どうしたんだろう。ほんとにすごい真っ赤だ。
「ま、また明日ね」
「…はい…また明日」
風邪でも引いてるのかな、不思議に思いながらも、僕はそのまま寮に帰った。マヤさんを送るということを完全に忘れて。




