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2☆


 部活に入ったことと、あだ名をつけてもらったことを電話してきた父親に教えると、泣いて喜んでいた。あんまり褒めるとまたろくなことしないだろうから、止めとこう。



 寮の生活は規則正しい。というかそうせざるを得ない。朝食に遅れると食堂は閉まり、授業開始5分前になると寮からすら出してもらえない。遅刻どころか泣く泣く欠席になるのだ。食べるのと寝るのだけが楽しみの9割を占めている成長期にはかなりきつい。

 だが僕には余裕だった。食堂にはほぼ一番乗り、寮を出るのは余裕すぎる10分前、髪確認、顔確認、鼻毛だって確認できる。だって、だって…

 『ぽこ太君、寮暮らしなんだよね!学校まで送ってあげるよ!』

 って竹取様が言って下さってあそばしてくれたから!!

 「おはようございます…ああ、今日も可愛い…」

 ふふ、今日も可愛いぜマイエンジェル竹取さん。さすがあれだけの美少女だぜ、写真すぐに買えちゃうぜ、500円もしたけどな。生徒手帳に差し込んで、かなり気持ち悪いが、恋は盲目だ。使い方違うけど。

 「…あれ」

 遅いな竹取さん、もしかして寝坊とかしちゃったのかな可愛いなあ、僕がニヨニヨしながら寮周りを歩いていると、同世代の私服の男子二人が竹取さんを囲んでいた。

 「君、中学生?」

 「朝ごはんまだなら、一緒に行かない?」

 「え、え、えと、あの…」

 「…っ、こらああああああああああ!!」

 「「うわ!?」」

 「…っ、ぽこ太君!」



 ふふふ、ナンパから助けちゃった、大声出しただけだけどな。気の弱い二人で良かった、いや僕もかなり弱いけど。叫びながら足震えっぱなしだったけども。今は元気だ。見よ、この視線を。ふはは、羨ましいか愚民供め!

 「ありがとうね。助かっちゃった」

 「いいえ!全然!大変ですね、その、そんだけ…かかかかかか」

 かがこんなに言えて、どうして可愛いが言えない。あ―顔熱い。僕がまごついていると、竹取さんはなぜか落ち込んでいた。

 「…また中学生って言われちゃった」

 「…え?」

 「私、やっぱり子供っぽいよね」

 ね、と同意を求められ、僕は即座に否定できずにいた。150ないだろう身長、大きなお目目、まだ少女らしさが残りまくった可愛らしさ、お胸の大きさは彼女の人権を考慮して内緒で。

 「え、えと…まあ、女の人は将来、化粧とか洋服とかで印象変わりますし…」

 だめだ慰めになってない、落ち込む僕の向かいで竹取さんが笑った。

 「ありがとう、ぽこ太君…ぽこ太君は、そういう大人っぽい人が好きなの?」

 と、聞かれ、僕は思考が停止した。この場合、何て答えればいいんだろう。僕が好きなのは竹取さんで、彼女は一つ上だ。しかし彼女は中学生にも間違えられる見た目だ。僕ははたして年上が好きなのか、年下が好きなのか。いや竹取さんが好きだと言えれば早いんだけれども―

 「そんなこと言えるか!」

 「ぽこ太君、学校着いたよ?」



 「おはよー」 

 「お、ぽこ太おはよー」

 「おはー」

 変な名前とあの竹取さんと仲良くしていることで、僕のクラス内知名度は急上昇し、かつてないほど級友が話しかけてきた。さすがに下の名前はばれたのだろう、たまに同情した目で見られるが、あだ名で呼ばれれば何てことはなかった。

 「おい、ぽこ」

 「は―」

 カバンが落ち、更に中の教科書までばらばら落ちたが、僕はとても拾えなかった。教室の前には、流星様が降臨あそばせたからだ。彼女ももちろん有名人だ、年頃の男子学生の目を悪戯に奪いながら(主に胸囲で)僕を訪ねてきた。震える僕に、ハスキーな声がかかってくる。

 「100円貸してくれ。無期限で」

 「喜んで!」



 噂だが、彼女は留年してるらしい。この気迫ならそれも頷ける。僕よりも何年も先輩なのに、どうして僕の方が自販機の場所に詳しいんだろう。まだ始業まで時間があったため、僕は流星さんと自販機前まで来ていた。まだ生徒が多数廊下に出てるため、さほど目立たない。彼女の手が大きいのか紙パック飲料が小さいのか、まあとにかく迫力がある。ちなみに身長も負けてる、いいけど別に。

 「あーいちごミルクうま。神。おまえも飲むか?」

 「いえいえ、お気持ちだけで」

 こんな方との間接チューなんて恐れ多い、特に話すことを思いつかず何気なく彼女を見ていると、ふと、またハスキーな声が聞こえた。

 「お前、竹取のこと好きなのか」

 「ほば!?」

 痛恨のダメージ、つうか赤面くらい抑えようよ僕、もう否定の言葉も出てこない僕の隣で、彼女はにやにや笑っていた。

 「難しいぞお、竹取は」

 「わ、分かってますよ。彼女くらい可愛かったら、競争率も」

 「そうじゃない…あいつ、ものすごい勢いで告白されてるけどな…その返事全部お友達になりましょう、だぞ」

 「ぜ、全員綺麗にふられて…?」

 「私もそう思ったんだけどな…どうもあいつ、男子から向けられる好意に気付かないらしい。みんながみんなわざわざ友愛を申し込んでくれてると思い込んでるんだ。あの鈍さは称賛ものだぞ。最初はわざとなんじゃないかと思ったが、本気で気付いてないらしい。あの見かけだからな、今でも告白されてるみたいだが、KO記録が更新されてくばかりだ」

 それじゃ僕が告白できたところで駄目じゃないか―へこんだ僕の肩を、流星さんがぽんっと叩いた。

 「とっておきの情報料だ。弁当も買ってくれ」

 「部長、さては財布忘れましたね」



 まあ仕送り来たばっかりだし、珍しく金銭的に余裕がある。竹取さんを映画にでも誘いたかったが、今日はメンタル的にきつそうだったし、いちごみるくと弁当代は落としたとでも思おう。

 そういえば、と流星さんであることを思い出した。彼女は留年してるんだった。喫煙しているところは思い切り見た、他にも校則違反してそうだが、何と言うか彼女は容量よさそうだし、何より人間的に面倒くさがりそうで、留年するくらいなら学校を辞めそうだ。僕が何でだろうなあ、とか思いながら部室に入ろうとしたそのときだった。


 「んん、んぅ…ん…ぁ」

 ぎし、ぎし…っ

 「こら…暴れるな」

 「あ、あ…お姉様…」

 ?????


 やばい、頭が全然回らない。今の声は…お嬢様系と、流星さんで合ってる、よな。女同士。ははは、そんな馬鹿な。ていうかここ学校。あれだ、あれだ、ジェンガでもやってるんだって、あははははお約束。

 「こんにちは、僕も入れて下さ―」

 ノックとほぼ同時に扉を開けると、そこはとんでもないことになっていた。部室中央にあるソファの上で、半裸になってるお嬢様の上で、巨乳がこんにちはしちゃってる流星さんが跨ってあんなことこんなことしていた。

 「…あ」

 「…混ざるか?」

 ものすごく冷静な女性二人を見て、少女のように叫んだのは僕だけだった。



 「ごめんなさいね、ぽこ太ちゃん。お見苦しいものを見せちゃって」

 「い、いえ、僕の方こそすいません。お邪魔しちゃって」

 「ううん、本当にごめんね。もうこっち向いていいわよ」

 お言葉に甘えて僕がふり返る。お嬢様系はもう服をちゃんと着ていたが、先ほどの光景が僕の脳裏に色濃く残り、とてもじゃないが直視できなかった。

 「えと…その…つ、付き合ってるんですか?」

 色々かっとばして、どうにかそこは聞けた。僕が迷っていると、彼女はうーんと困ったように首を傾げた。竹取さんに夢中で気付かなかったけど、この人もすげえ美人だ。美人が困ってらっしゃる。

 「あ、すいません答えたくないなら」

 「ううん、そうじゃないの。ただ、なんていうか…いきなり押し倒されたし」 

 「…っ、えー!?」

 「喉乾かない?紅茶飲みましょうよ。ぽこ太ちゃん、オレンジとイチゴ、どっちがいい?」

 「どっちでもいいです!どっちでも喜んで飲みます!!」



 美人が淹れてくれた紅茶は美味しい、彼女を襲っていた流星さんはどこかに行ってしまい、当たり前だろうが元から彼女たちだけだった部室は今、僕と彼女だけになっていた。何を話していいか分からない僕の向かいで、彼女は弾むように話し始めてくれた。気を使っているわけじゃない、話したくてしょうがない感じだった。

 「改めまして、こういうものです」

 生徒手帳が渡される、そこには二年生という表記と名字と、その下に『神愛』と書いてあった。

 「えへへ、何て読むでしょー」

 か、可愛い。いや、僕は竹取さん一筋だ。ていうか流星さんに殺される。僕がうーんと頭を悩ませる。ここは格好よく正解したいところだが、何にも浮かんでこない。

 「…この愛って漢字であって読むの、キラキラネームで流行りましたよね」

 「お、いい線いい線」

 「何とかあ…神、神か…うーん………かむあさん!」

 「惜しい!まりあでした!」

 「惜しくない!」

 ああでもぴったりだ、名前が分かると後光がさして見えた。美人だ、拝みたい系美人だ。ああだからこそもったいない、あんな人の毒牙に―

 「先生とかに…言います?」

 「ううん、大丈夫。嫌じゃなかったから」

 「へ!?」

 「好きになってしまったの。この前の流星お姉さま、格好よかったよねえ…」

 ぽやんと、見る目は、完全に恋する少女だ。とても冗談には見えない。

 「…流星さんのどこが好きなんですか?」

 「ふふ、女の人が好きなんですか、とは聞かないんだ。ぽこ太ちゃん、優しいね」

 「いやいやいや」

 あの人は確かに何と言うか格好いいが、性別超越して、こんなに可憐な人が恋焦がれる理由が分からない。僕が答えを待っていると、神愛さんが目を細めた。

 「私、昔惚れっぽくて…初恋も、幼稚園のときのバスの運転手さんだったし」 

 「ふんふん」

 「高校に上がる前に、先生から押し倒されたときはさすがに驚いたけど」 

 「すいません、色々はしょり過ぎです」



 結局。なぜ彼女があそこまで流星さんに惹かれているのかは分からなかった。分かったことといえば、彼女はとても美人で、それでいて、ものすごく危機管理能力が薄いということだ。はっきり言って危ない。カモがネギと鍋と薬味と炊きたてのご飯しょって歩いてるみたいなもんだ。

 ものすごく余計なお世話だが、性的な心配をしてしまう。まあ、今の本命は流星さんみたいだし、他の男が寄ってきても彼女が追っ払ってくれるだろうし、最悪妊娠はしないだろう。妊娠以上に大変な問題は抱えてる気はしなくもないが。女同士でおまけに相手は流星さんなんて―ほんとにどこがいいのかな―

 「よう、ぽこ」

 「ひ!?」

 脳内で噂をすれば流星さん、僕が思わず震えあがると、彼女は大股で僕の目の前までやってくると、僕に500円を渡してきた。

 「今日はありがとうな、助かった」

 「え、これ、多いですよ」

 「口止め料だよ。私と神愛があんなことになってんの、黙っててほしいんだ。私は今更何を言われても構わないけどな、あいつまで変な目で見られたら可愛そうだから」

 「言いませんよ、そんな恐ろしいこと。ていうか、普通、誰も信じませんって。僕も、すぐに脳内から抹消しました」

 「…いい子だな」


 かっ

 格好いい!!


 軽く頭を撫でられ、そう言って笑って去っていく流星さんに僕は惚れそうになったが、光の速さで目が覚めた。良かった。竹取さんがすぐに現れてくれて、本当に良かった!

 「ぽこ太君?どうしたの、顔赤いよ」

 「いいえ、だ、大丈夫です…竹取さん。流星さんにあまり近づかないで下さいね」

 「?どうして?」

 「どうしてもです」

 あのイケメンも大概だが、あの男前女子に惚れられたら敵う気がしない。とにかく誰にも惚れないで、ついでにいつか僕に惚れてほしい、なんて情けないことを思いながら、僕はまた竹取さんと帰れた。




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