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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第九十一話



 総務から営業部へ続く廊下。


 何処か疲れたような、煤けたような彰良。


 彰良とは正反対に、ほわほわと花を飛ばす葵。


「…………葵先輩……お願いですから、職場ではウェディングドレスの件は内密にして頂けないでしょうか……?」


「どうして……?

 絶対に似合うし、可愛いと思うの。

 それに、私ね……彰良くんとお揃いなの嬉しいよ?」


 彰良くんは、違うの?


「っ……」


 彰良を見上げる葵の悲しげな瞳。


「お揃いは……嬉しいのですが、俺にも……その、男としての矜持があると言いますか……!」


 迷う。


 男としての矜持を取るか、葵を喜ばせるか……!


「………………せめて……ウェディングドレスを着るならば……二人っきりの時に、お願いします……」


「ありがとう、彰良くん!

 でも……どうしても嫌なときは、無理しないでね」


「…………はい……」


 項垂れる。


 葵を喜ばせるためなら……男の矜持なんて……!


 ……ちょっとだけ、泣きたくなった。


「…………?」


 煤けたような彰良の様子に首を傾げていた葵。


 その耳に、ザワザワとした音が届いた。


「……どうしたのかな……?」


「……営業部から、ですね」


 顔を見合わせる。


 何か、有ったのだろうか……?

 

「……あれ?」


 その時、葵のスマホがメッセージの着信を知らせた。


「…………あー……うん、そっかぁ……」


 今日は持ってたかしら?と鞄を漁りだす葵。


「……葵先輩?」


 何故だろうか?


 何故か……嫌な予感がする。


「あ……良かった、ちゃんと持ってたわ。」


「……あの、先程のメッセージは何方からですか?

 それに、何を探されて……」


「んー……営業部に行って見た方が分かりやすいかも……」


 困ったように微笑む葵に、彰良の嫌な予感はどんどん増していく。



 ――――そして、営業部。



「怖い怖い怖い怖い怖い…………」


「やだやだやだやだやだ…………」


 営業部の隅っこ。


 三角座りをして、ぶつぶつと何かを呟いている男女。


 怯えと戸惑いで、遠巻きに二人……玲衣と紗夜を見るしか出来ない営業部一同。


「…………」


 彰良の頬が引き攣る。


「さて、と……」


 鞄の中から何かを取り出す。


「ちょっ?!

 葵先輩、危険なのでは……」


「ん? 慣れているから平気よ」


「慣れているっ?!」


 躊躇うことなく無防備に近寄ろうとした葵を彰良が止めた。


 だが、葵は慣れているといつも通りの微笑みを浮かべる。


「魚形課長、孔雀主任……ちょっとだけ失礼します」


 ピコッピコンっ!


「っ………え、僕ってば……一体何を?!」


「っ?! ここ、は…?!」


 掌に収まるサイズのピコピコハンマーから軽快な音が鳴る。


「おはようございます、魚形課長、孔雀主任。」


「「立花さんっ?!」」


 虚ろだった目に生気が戻った二人。


「……な、んで……会社?

 さっきまでBARにいたは、ず……っ……」


「…………ひっ……」


 ゾクリ。


 二人の背中に氷塊が落ちたように寒気が走る。


 薄っすらと思い出した記憶に、体が震えだす。


「取り敢えず……此方をどうぞ」


 震える二人の前に葵が何かを差し出す。


「……なんで……?」


「……むしぱん……?」


「今日の私と犬飼くんのオヤツ用に多めに作りました!」


 通常運転な葵。


『そこ、じゃないよ……立花さん……!』


 営業部一同の心の声が重なる。


「あ、ちゃんと餡子入りです!」


「……葵先輩、魚形課長達が疑問に思っているのは其処ではありません。

 どうして、このタイミングで蒸しパンが登場するのか、という点です」


 ズレていない黒縁眼鏡を押し上げながら、彰良が玲衣や紗夜を含む営業部の疑問を代弁する。


「……え、蒸しパン嫌い?」


「そうではなく……」


「怖かったり、寒かったり、疲れた時には甘いものを食べるとほっとするかなって。

 それに…………」

 

「それに?」


 首を傾げた葵の言葉の先を促す。


「鬼さん印のピコピコハンマーで意識は戻ったけど……寒いのは、よくないらしくて。

 餡子って、元々は小豆でしょう?

 豆は魔除けの効果とかも有るから、節分に撒くらしいよ」


「……え」


「鬼さんがね、お友達になりたくて会いに行って、一緒に遊んだ子達が孔雀主任達みたいに震える人が多くて。

 鬼さんは優しいし、良い人だから……不思議よね……?」


「…………」


 つまり……玲衣と紗夜の元へ、鬼さんが出現した?


 友達になるために?


「あの、鬼さんと一緒に遊ぶとは……」


「んー……私ね、その遊びには付き合ったことがないの。

 龍さんに聞く限りだと、私の嫌いな虫とか、蛇とかが出たりするから、来ない方が賢明だって。

 しかも、最後は全力鬼ごっこになるパターンも有ったり、全力の隠れんぼをしたり……。

 どちらにしても、山や川とか……人里離れた場所でするらしいの。」


「そう……ですか……」


 彰良の脳裏には、虫や蛇ではなく……怪異的なモノが浮かんだ。

 

「それに……龍さんがね、鬼さんと遊んで疲れている子には、豆が良いって。

 よくわからないけど……付いてきたかもしれない悪いものを吹き飛ばすからって……。

 体に付いている虫とかが、どうして豆で吹き飛ばせるのかは分からないんだけど……?」


「「憑いてっ?! 頂きますっ!!」」


「え、あ……はい?」


 葵の行動の意図を理解した瞬間。


 玲衣と紗夜が速攻で手を伸ばし、蒸しパンに齧り付いた。


「えっと……鬼さんから伝言を預かってまして……犬飼くん」


「……え、自分ですか?」


「あのね、凛さんは私のお友達だから"二度目はダメよ"って。」


「(……命拾いしたな、アイツ。)」


 彰良の緊張が緩む。


「あと、魚形課長と孔雀主任に"初詣は是非いらしてね"とのことです。」


「初詣っ?!

 新年早々の肝試し大会なんてっ!

 私は絶対にごめんよっ!」


「あの井戸から這い寄る有名映画みたいな存在が初詣っ?!」


 葵の言葉に全力で拒否を示す玲衣と紗夜。


「だいたっ……」


 スマホのメッセージが届いた着信音が……二箇所。


「……事情は分かりたくありませんが……取り敢えず、初詣にはお伺いした方が良いのでは?」


 目を逸らした彰良の一言。


 各々のスマホを確認した玲衣と紗夜は、頭を抱えて崩れ落ちるのだった。

 

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