第八十七話
ソファの上で二人で寄り添う。
幸せそうに左の薬指に輝くシルバーリングを見詰める葵。
そんな葵の横顔を愛しげに見詰める彰良。
「(……きれい……。
こんな素敵なクリスマスプレゼントをもらえるなんて……夢にも思ってなかったなぁ……)」
嬉しくて、幸せでたまらない。
「(……怖いくらい幸せ……私、死期が近いのかな……?
でも……彰良くんと少しでも長く…………一緒に生きていたいから……)」
幸せ過ぎて、変な想像をしてしまう。
「(……死神さんに一生懸命にお願いしたら、寿命を延ばしてくれるかなぁ……?
でも、死に神さんもお役所仕事かもしれないから困っちゃうよね……)」
ぼーっと、骸骨の顔にスーツを着た可愛い死神を思い浮かべる。
「……お役所仕事でも、こればっかりは譲りたくないし……」
「葵先輩……?
なぜ、急にお役所仕事……?」
「え……声に出てた……?」
「はい」
ぱちぱち……と瞬きをする。
「え゛……ご、ごめんね……!
髑髏の顔にスーツを着てお役所仕事をしている死神さんのことを考えていて……!」
「それは…………何の話ですか?」
幸せそうにシルバーリングを眺めていたのに……何故、スーツを着たお役所仕事の死神の話に繋がるのか?
「え、えっと……幸せ過ぎて、死んじゃうのかなって……。
だから、お迎えに来た死神さんに一生懸命お願いしたら生き返らせてくれないかなって……」
「大前提として、幸せ過ぎて死ぬことは有り得ません。
そして、死神だろうが、閻魔だろうが、葵先輩を渡す理由は有りません。
第一、葵先輩を一人で逝かせるくらいなら、俺も一緒に逝きますので問題は有りません。」
幸せが死因となるというならば、自分も死ぬに決まっていると彰良は本気で考える。
「え……それは、やだ。
彰良くんには、生きて幸せになって欲しいし……私、まだ彰良くんと一緒に生きたいから……。
だからね、死神さんに寿命を延長してもらえるように、一生懸命お願いして前向きに検討して貰えればなって……」
「確かに。
自分もまだ葵先輩と生きて行きたいので、そちらの方向で交渉しましょう。
葵先輩、二人で交渉すれば絶対に大丈夫です。」
「ふふ……そうね、彰良くんが一緒なら絶対に大丈夫って、私も思うわ」
「はい!」
微笑み合う。
彰良としては、死神相手にどんな手を使ってでも頷かせる気満々だった。
「それに、最終手段としては……鬼さんに相談すれば何とかなる気がするもの」
「……………確かに……」
何故だろうか……?
会ったこともない彰良ですら感じる……この鬼さんの謎の存在感。
鬼さんならば、死神も裸足で逃げ出す気がした。
「(……迷惑を掛けたくないから、たぶん相談しないけど……。
でも、彰良くんが一緒に交渉してくれるなら……大丈夫って思えちゃうから不思議……)」
もう一度シルバーリングを光にかざす。
キラキラと輝く光に飽きる日はきっと来ない。
それどころか、このシルバーリングを見るたびに……今日の幸せを何年経っても思い出す自信が葵にはあった。
「(本当に、綺麗だなぁ……。
もう一つのイヤリングも可愛いかった、し……あっ……)」
一瞬、思考が固まる。
「(……クリスマスプレゼント、二つも貰っちゃった……)」
青褪める。
葵は、彰良へのクリスマスプレゼントは一つしか準備していない。
「(……お、値段も……違いすぎる……)」
しかも……彰良から貰ったプレゼントは、二つとも貴金属だ。
「(……どうしようっ……!
マグカップなんか貴金属に比べたら安物だし……!
値段が違いすぎる上に一個だけとか……!)」
……泣きそうだ。
マグカップを見て感激した、あの日の自分にチョップしたい……!
「葵先輩……?」
「み゛っ?!」
ビクリと肩が跳ねる。
動揺していることが一発でバレてしまう。
「……何か、問題でも発生しましたか……?」
「そん、なことは……無いというか……!
えっと……荷物!
荷物の整理とか始めようかなって!」
明らかに動揺している葵。
それでも、何とか彰良を誤魔化そうと葵は必死だった。
「…………」
……絶対に、何かが可笑しい。
ジッと見詰め、観察する。
「ほ、ら……!
せっかく彰良くんから素敵なクリスマスプレゼントをもらったから!
大切に仕舞い込んでおかなきゃ、ね……?」
「……先ほど、普段遣いして下さると……」
「普段遣いするためにも仕舞い込むのっ!」
誤魔化されて欲しいと想いを込めて、笑顔を浮かべ、立ち上がる。
「ちょっと、仕舞い込みに行ってきます!」
慌てた様子で寝室へ駆け込む葵。
「…………」
ソファにポツンと残された彰良。
「……どうしよう……」
慌てて駆け込んだ寝室の隅っこ。
葵の数少ない荷物である旅行鞄が一つ。
「……お店で買ったアクセサリーに……ハンドメイドなんて……渡せないし……」
旅行鞄から取り出した物。
「マグカップだけ……渡して、後日もう一つ準備する……?」
会社の近くで買った彰良ように包装されたマグカップ。
「……私用のマグカップは……包装されてないから渡せないし……二つ、マグカップのプレゼントとか変だし……」
自分用に買った新聞紙を巻かれただけのマグカップ。
「……クリスマスプレゼントは……渡さない?
でも、それは……さびしい……から、やだ……」
頭を抱える。
「…………メンズ用に作ってみたやつは有るけど……こんなオモチャの指輪なんて……」
……落ち込む。
「…………」
ハンドメイド用の箱の中から、メンズ向けに……彰良を想って作った試作品を手に取る。
女性向けのワイヤーアクセサリーを作ることはあっても、男性向けは今まで作ったことはなかった。
そんな葵が初めて作った男性向けのワイヤーアクセサリー。
太めのシルバーワイヤーを何本かを撚って形作っただけの指輪。
天然石も、飾りも……何も無い、シンプル過ぎるデザイン。
「…………バカだなぁ、私……」
誕生日プレゼントに渡したネクタイピンを作る時に、一緒に作っていた指輪。
…………月曜日のお昼休みに、ジュエリーショップに駆け込んで彰良が好みそうな指輪を買っ……
「その指輪……俺の、ですか……?」
「ふみ゛っ?!」
背後から聞こえた声に、葵は飛び上がって驚くのだった。




