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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第八十六話



 ふらりと立ち上がったかと思えば、すぐに戻って来た彰良。


 その手には、小さな小箱が二つあった。


「…………はこ?」


 大きな彰良の手の中だと、余計に小さく見える小箱。


「(小さな箱……箱?

 ……体調を崩していた私に持って来るもの……お薬ケース……?)」


 そう言えば……昔、父と一緒に見ていた水戸黄門。

 

 あの印籠って、昔のお薬ケースだったとお父さんが言ってたなぁ……。


「彰良くん、それは……」


「その……クリスマス、プレゼント……です」


 ソファに座る葵の目の前に跪いた彰良が、グレーの箱を差し出す。


「え……」


 一瞬、何を言われたか分からなかった。


「……え……誰に……?」


「葵先輩に、です」


「……………………ええっ?!」


 目を見開き、両手で口元を覆う。


「えっ……え、いや……な、なんで……?」


 彰良と小箱。


 両方へ視線を忙しなく向ける。


「……恋人に、クリスマスのプレゼントを贈ることは……一般的かと」


「っ……そ、うだね……うん」


 葵に初めて渡す贈り物という事実に、彰良の心も余裕は無かった。


「……受け取って……貰えます、か……?」

 

 どんな顔をすればいいのか?


 妙な照れと焦りに心拍が上がる。


「……ありがとう……」


 震える指先。


 壊れ物を扱うように、ソっと受け取った小箱。


「開けても……いい?」


「……はい」


 彰良の許可を得て、小箱を開く。


「…………ゆび、わ……?」


 小箱の中で光るシンプルなシルバーリング。


「……え…………こんやく、ゆびわ……?」


「っ?!」


 目を瞬かせる。


 小さく零れ落ちた声。


「こ、んやく指輪はっ!

 葵先輩の好みも確認した上て準備させてくださいっ!

 第一! この指輪には宝石が付いていませんっ!

 婚約指輪として贈るにしては、値段も安すぎますっ!!」


 まさか婚約指輪と誤解されてしまうなんて……!


「え……指輪って、何個も貰うものじゃない気が……」


「駄目です!

 この指輪は、あくまでも葵先輩に恋人がいると周囲に指し示すものですから!

 それに……総務の面々からも非難の嵐を受けましたから……」


「……非難の嵐……?」


「その……この指輪を選んだ理由が…………耐久性が、抜群だと聞いたので……」


 情けなくなる。


 総務課の面々にダメ出しされ……。


 恋人に贈る初めてのプレゼントなのに。


 選んだ理由が、恋人の好みや似合うデザインではなく……耐久性という強度一択。


「……私は、嬉しいよ」


「え……」


「だって……毎日付けても、何年経っても、壊れずに身に着けられるってことでしょう……?」


「っ……」


「……ずっと、付けてて欲しいって……彰良くんが願って、選んでくれたのかなって……」


 葵とずっと一緒にいたいと……。

  

 側にいて欲しいと願って選んでくれたなら……。


「すごく……すごく、幸せなことだと思ったの」


 嬉しくて、幸せで……指輪を胸元に抱き締める。


「彰良くん、素敵なクリスマスプレゼントをありがとう……!」


「よ、ろこんでもらえて……俺の方こそ、ありがとうございます……!」


 感激に頬を赤く染め、心からの笑顔を浮かべる葵。


 その笑顔を見れただけで、彰良の心に熱いものがこみ上げる。


「(どうして、こんなにもっ……!)」


 恋人へのプレゼント選びすらダメ出しを受けた彰良。


 だが、指輪に強度を求めた理由を言い当てられ、それを嬉しいと返される。


「……あの、嵌めてみてもいいかな……?」


 ホワホワと嬉しそうに微笑む葵の問いかけ。


「……葵先輩、もし嫌でなければ……その……」


「……もしかして……嵌めてくれるの?」


「嫌で、なければ……」


「嫌だなんて絶対に思わないよ。

 彰良くんが、嵌めてくれたら嬉しいって思うもの。」


 ぱぁぁっと輝く笑顔。


「っ……失礼、します」


 微かに震える手で指輪を受け取り、彰良は葵の手を持ち上げる。


「……ぴったり、ね」


 左手の薬指。


 引っ掛かることなく入った指輪に、葵は目を丸くする。


「……葵先輩が眠っている間に計測させて頂きましたので。」


「……なんだか……テレビのドラマ、みたい……」


 左手を持ち上げ、光にかざすように見上げる。


 光を反射して、キラキラと輝くシルバーリング。


「…………きれい……」


 見惚れてしまう。


「……すごく、綺麗……こんな、素敵な指輪をごめ……じゃなくて、ありがとう……!」


「……っ……どう、いたしまして……」


 救われる。


 何時だって葵の笑顔に、彰良は救われる。


「あと……これは、自分が見つけた物では無いのですが……」


「ん……?」


「総務課で……クリスマスに関する指導を受け、提案して頂いたプレゼントで……」


「えっ?!

 彰良くん、私はもう十分に素敵なプレゼントをもらったよ?!」


 驚く。


 クリスマスプレゼントとして、こんなにも素敵な指輪をもらったのに?!


「自分も一目見て、絶対に葵先輩に似合うと思いまして。

 それに、アクセサリーや宝石にはそれぞれに意味が有るらしいですね。」


「意味……ああ、宝石言葉とかのことね」


「ご存知でしたか」


 彰良の手に残っていた桜色の小箱。


「……ピアス……ではなくて、イヤリング……?」


「はい。

 イヤリングは、耳から入る悪い誘惑から守るという意味が有るそうですね」


「確かに…………あれ、でも……それ以外にも有ったような……?」


 首を傾げる。


 イヤリングを恋人に送る意味って……


「そのっ……このイヤリングには、ムーンストーンと真珠が使われていまして……!」

 

 イヤリングに執着や独占欲の意味合いがあることを隠したくて。


 何とか、話題を変えようとした彰良。


 ……薬指への指輪を贈ったばかりか、イヤリングにまで独占欲を隠しているなど……余裕が無さ過ぎて格好悪い。


「ムーンストーンと真珠……?」


「はい……!」


「確か……ムーンストーンも、真珠も、守護や魔除けの意味じゃなかったかしら……?

 あ……ムーンストーンは、純粋なあ、い……っ……」


「っ……」


 お互いに目を逸らす。


 言葉にしてしまうと、何故か気恥ずかしい。


「……普段遣いと言いますか……日頃から、身に着けて貰えると…………光栄、です」


「……うん……ありがとう。

 えっと……指輪も、イヤリングも……普段遣い、させてもらうね……」


 お互いに目を逸らしつつも……その口元には、幸せそうな微笑みが浮かんでいたのだった。


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