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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第八話



 図書館で過ごした二人は、遅い昼食を摂り、表面上は穏やかな時間を過ごす。


 だが……確かに重なった唇の感触は、簡単に忘れられるものではなかった。


「今日は……一日、ありがとう……彰良くん」


「いえ……」


 葵の住むセキュリティマンションの前。


 車の助手席で、葵が微笑む。


「……月曜日から、また忙しいだろうし……明日は、ゆっくり過ご……」


「葵、先輩……一緒に、夕飯も……食べませんか……?」


「っ……そ、れは……」


 美しい夕焼け。


 西日が二人を照らす。


「…………夜ごはん、まで……一緒に食べたら……帰りたく、なくなっちゃう……から……」


 無意識に鞄を持つ手に力が籠る。


「……彰良、くんに…………迷惑を、かけるの……は……やだ……」


 それに……もし、一線を越えることを彰良に求められたら…………葵はどうすれば、いい?


「……俺、自分は……迷惑とは、思いません……」


 直視できない。


 ……だが、葵とまだ一緒に居たい気持ちは……嘘じゃない。


「自分は……葵先輩と、少しでも長く一緒に居たい……。」


 困ったように俯く葵に、意を決して視線を向ける。


「……約束します。

 絶対に、葵先輩が嫌がることはしません。

 だから…………俺と、俺のために一緒に居てくれませんか……?」


 揺れる瞳。


 寂しそうに……葵を求める彰良の懇願。


「……やっぱり……彰良くんは、卑怯だよ。

 …………私が……彰良くんのお願いに……弱いって……知ってるでしょう……?」


「……すみません……」


 伏せていた瞳を上げて、葵が彰良を見る。


「……好きな人のお願いを……断れるほど、私は……強くないの……」


「っ……葵先輩……?」


 苦笑する葵に、彰良の瞳に期待が入り混じる。


「……あの、ね……私、彰良くんに……ご飯を作ってもいい?

 ……迷惑じゃなければ…………明日、の朝ご飯……まで……」


「っ……作って欲しいです……!

 朝ご飯まで、葵先輩の作ってくれた食事を食べたいです……!」


「……大したものは、作れないから……ごめんなさい……」


「俺にとって、葵先輩が作ってくれた食事は……何よりのご馳走です」


 幸せそうに微笑む彰良に、葵の胸も温かくなる。


「では……俺の家に……」


「まっ……彰良くん、ごめ……ちょっと、まって……!」


 早速、車を発信させようとした彰良を葵が慌てて止める。


「どうしました……?」


「あのね……部屋から取って来たいものがあるの」


「取って来たい物?」


「うん。

 確か、モヤシの賞味期限が今日までなの。

 それに……着替え、とか……いろいろ…………」


 苦笑する葵。


「わかりました。

 自分も荷物を持つのを手伝い…………女性の部屋に急にお邪魔する訳にはいきませんね。」


「……?

 掃除はしているから…………別に構わないけど……?」


「……良いんですか?」


「彰良くんを泊める訳じゃないし……。

 たぶんね、私の部屋だと彰良くんが泊まるには狭すぎるもの。」


 彰良の住んでいる部屋よりも、遥かに狭い葵の部屋。


 そんな狭い部屋に彰良がいる姿を思い浮かべ、クスクスと笑ってしまう。


「……自分は狭くても気にしませんが……?」


「ふふふ……彰良くんが想像しているより狭いし低いと思うわ」


「…………?」


 何故、葵が笑うのか彰良は分からない。


 だが、葵が笑っているので問題はなかった。





 葵の住んでいる部屋。


 グレージュのスチールドアが開かれる。


「彰良くん、どうぞ。

 頭を打たないように気を付けてね。」


「……お邪魔します」


 玄関を入って、すぐ。


 目の前とも言える小さなキッチン。


 一人暮らし用の小さな冷蔵庫。


 冷蔵庫の上の温めるだけの電子レンジ。


「すぐに準備するから、座って待っててね。

 あ……お茶くらい出した方が良いよね……?」


 1Kの間取り。


 小さなローテーブルと背もたれ付きのクッション。


 引き戸を頭を下げてくぐる。


「いえ……お構いなく……」


 葵に言われた通りに背もたれ付きクッションに正座で座る。


 ……クッションに足が収まらない。


「(………………小人の家……?

 ……いや……俺が……大きいだけ、か……?)」


 周囲に視線を走らせる。


「…………」


 淡い緑の薄い……遮光カーテンだろうか?


 シングルよりも小さく見える布団が綺麗に畳まれている。


 特に飾りなどはないが、全体的に小さくて、整理整頓された部屋。


「(……俺の部屋に葵先輩が来たときに……緊張してしまうのは当然かも知れない……)」


 彰良は自分の部屋を思い浮かべる。


 この葵の部屋とは正反対とも言える自分の部屋。


 広さも、色も、家具の大きさも……すべてが違う。


「(……本?)」


 部屋の隅っこに置かれた細い3段ボックス。


「(薄い冊子は家計簿……か?

 ……古い……文庫本、ファンタジー小説……?)」


 彰良の中で、古い文庫本と葵のイメージと繋がらない。


「……何か、興味深いものでもあった?」


「あ……すみません」


 白地に黄色いミモザが美しいマグカップが、ローテーブルに置かれる。


「……ああ、その文庫本?」


「……その……あまり、葵先輩のイメージと結び付かなかったもので……」


 大きな体を小さくしている彰良に、葵は微笑む。


「それね、中学生くらいの頃に好きだった本なの。

 ……一人暮らしを始めた時に、何となくそれだけは持って来たの。」


 子供っぽいでしょう、と笑う。


「……高校生くらいから、かな?

 あんまり物語は……読まなくなったの」


 どんな物語にも……恋愛の描写は少なからずある。


 あの頃の葵には…………それすらも辛かった。


「…………すぐに、準備を終わらせるね」


 過去の自分に思いを馳せる。


 たった三ヶ月前ほど前の自分には…………まさか、彰良と恋人になるなど夢にも思わなかっただろう。


「…………自分も、読んでみても良いですか?」


「え……?」


「葵先輩が好きな、文庫本を」


「……彰良くんの好みではないかも……」


 彰良の言葉に驚く。


 中学生が読むファンタジー小説を、彰良が好むとは思えなかった。


「葵先輩が一人暮らしの家に持ち込むほど……好きな本を読んでみたい、と考えました。」


「っ……そっか……」


 真っ直ぐな言葉。


 何故か心臓が跳ねる。


「……本屋さんにあるかな……?」


「もし……良ければ、ですが……葵先輩の、その本を借りても良いですか?」


「……古いよ?」


「構いません。

 その本を読みたいです。」


「…………うん」


 胸が熱くなる。


 何故か泣きたい気持ちになる。


「……気に入るか分からないし……一冊ずつ、渡すね」


「ありがとうございます。

 ……大切に読ませて貰います。」


「……ありがとう」


 込み上げてくる気持ちを我慢して、葵は彰良へ微笑み返すのだった。


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