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その恋、賭けですよね? ~愛しているので、もう逃がしません~  作者: ぶるどっく


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第七話



 何処の市にも一軒は有るであろう市営図書館。


 大きくもなく、小さくもない。


 静かで、穏やかな空間が葵は好きだった。


「此処が……葵先輩が利用する図書館。」


「うん……普通の図書館ですよ?」


 イチョウ並木で追いかけっこを繰り広げた二人。


 時間経過と共に冷静さを取り戻した二人は、何方ともなく走るのをやめてしまった。


「…………」


「…………」


 それでも、見せてしまったお互いの本音が二人の空気を桃色に染めてしまう。


「葵先輩……」


「……」


「……段差が、有りますから……」


「あ、りがとう……」


 差し出された彰良の手に、葵の手が重なる。


「…………」


「…………」


 段差が終わっても、離れない手。


「あの……彰良くん、先に本を返したいの」


「……わかりました」


「返却カウンターは、あっちで……。

 彰良くん、私……行ってく……」


「一緒に、行きたいです」


 彰良が持っている袋を、葵は受け取ろうとする。


 ……だが、彰良が渡さない。


「……私、一人でも……」


「……一緒、が良いです……」


「…………うん」


 根負けする。


 二人で返却カウンターへと行けば、初老の司書が目を丸くする。


「(……料理、ハンドメイド……節約、ビジネス、投資信託……)」


 問題なく返却されていく本。


 葵が返却する本のタイトルを見詰める。


「……彰良くん、読みたい本は有りますか?」


「……特には……最近は電子書籍で終わらせることが多いですから。」


「そっか……」


 苦笑する葵を見詰める。


「……古臭い考えかもだけど……紙のページを捲るのが好きなの。」


 葵の背丈よりも高い本棚の数々。


 直射日光を避けた、明かり取りの窓。


「…………」


 お洒落ではない。


 華やかさもない。


 有名でもない。


 非日常など無縁の静かな空間。


「……あんまり……デートらしくない場所で、ごめんね……」


 最新の書籍も無い。


 有るのは、流行が去った本が大半。


 …………それでも、葵が好きな場所。


「……謝る必要は無いかと。

 自分は……葵先輩の好きな場所に来れて、嬉しいですから」


 繋いでいる手をキュッと少しだけ力を込める。


「葵先輩の好きを共有出来て……幸せです」


「っ……ありがとう……!」


 俯きながら、葵も繋がれた彰良の手を握り返す。


「…………」


「…………」


 何となく、静かに本の背表紙を目で追う。


 時折、お互いに視線を向け……目が合うと逸らしてしまう。


「…………」


 本の背表紙を見ているフリをして、葵を横目に見る。


「(……節約、レシピ……?)」


 真剣な横顔。


 顔の角度から……葵の背丈では見えにくい本に興味を向けていることが分かる。


「……葵先輩……これ、ですか……?」


「え……彰良くん、ありがとう……」


 スッと手を伸ばす。


 二人の距離が近くなる。


 自然と彰良を見上げる葵。


「……っ……どうぞ……」


「あり……がと……」


 手を繋いでいなかったら……。


 反対の手で本を持っていなければ……。


「…………っ」


 葵の頬に手を添えて、引き寄せていたかもしれない。


「……彰良くん……顔、真っ赤……」


「っ……?!

 気のせい、かと……!」


 真っ赤に染まった顔を背ける彰良。


「…………」


 葵の腕より太い……逞しい首筋が赤い。


「(……男の、ひとなのに……彰良くん、は…………かわいい……)」


 赤くなった目尻。


 恥ずかしそうに逸らされた横顔。


 普段の理知的な光が消え去り、動揺している瞳。


「…………」


 繋いでいた手を外す。


 無意識に手が伸びる。


 奥まった本棚。

  

 人気のない時間帯。


「…………」


「……あおい、せんぱ……」


 頬に手を添え……引き寄せる。


 瞳が近付く。


「っ?!」


 彰良が目を見開く。


 唇の端に掠めた……葵の唇。


「あ……わ、たし……っ?!」


 正気に戻る。


 一歩……下がる片足。


 体を引こうとして……引き寄せられた。


「っ……葵、先輩……いま、のは……?」


「……ごめ……いや、だった……よね……?」


 彰良の腕の中に閉じ込められる。


「嫌じゃないです……葵先輩、は……嫌、でしたか……?」


 微かに震える葵を覗き込むように、顔を近づける。


「……っ……ぃや……じゃな……」


 蚊の鳴くような、震えた声。


「……俺、が…………こわい?」


「…………っ……ゎくな、ぃ……」


 薔薇よりも尚、赤い葵の顔。


 潤んだ瞳。


 血色の良い……唇。


「…………」


 引き寄せる。


 抵抗はない。


 見つめ合う。


 ……何方ともなく……閉じられた瞳。


「っ……すみません……!」


「……っ……わたしも、ごめっ……」

 

 葵の持っていた本が落ちた音で……二人は、我に返る。


「…………」


「…………」


 お互いに目を逸らす…………だが、二人の唇は確かに重なったのだった。


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