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その恋、賭けですよね? ~愛しているので、もう逃がしません~  作者: ぶるどっく


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第六話



 駅の近くに植えられた街路樹。


 美しく染まったイチョウ並木。


「…………」


 駅前の広場に佇む男が一人。


 チャコールグレーのチェスターコート。


 グレーのハイゲージニット、スラックス。


「…………」


 無言で舞い落ちるイチョウを眺める。


「っ……」


 イチョウに覆われた地面。


 カサリと小さな足音。


「お、はよう……彰良くん。

 待たせてしまって、ごめんなさい……」


 駅の改札口から葵が現れる。


「……っ……ぉはよう、ございます……」


 恥ずかしそうに伏せられた瞳。


 緩く結い上げ、清楚な真珠のバレッタで纏められた髪。


 ふわりとしたオフホワイトのセーター。


 風に揺れるロングスカート。


「自分が……早く来てしまいましたので……」


 顔を横に向ける。


 顔に血が集まる。


「葵、先輩……とても綺麗です……」


 直視できないほどに。


「っ…………ありがとう……すごく嬉しい」


 彰良からの褒め言葉に目を見開く。


 嬉しそうに、照れくさそうに。


 花が綻ぶように、幸せそうな笑みが浮かぶ。


「あのね……彰良くんは、違うかもだけど……」


「……?」


「……もしかしたら……デート、かも……って……」


「っ……!?」


 恥ずかしい時のクセなのか。


 髪を耳の上にかける仕草。


「デート、です……!

 自分はっ……! デートのつもりで葵先輩を誘いたくて……!」


「っ……そっか……私の、勘違いじゃなかったんだ……」


 良かった、と微笑む。


「葵先輩……」


 いつも彰良は言葉が足りない。


「彰良くん……?」


 葵へ手を差し出す。


「葵、先輩……自分と、デートしてくれませんか……?

 自分は、恋人の……大好きな、葵先輩とデートがしたいと心から願っています。」


 真っ直ぐに見つめる。


 想いを込めて。


 葵に彰良の気持ちが伝わるように。


「っ……!」


 差し出された微かに震える無骨な手。

 

 葵を見詰める真っ直ぐで……真剣な瞳。


 普段よりも低く、掠れた甘い声。


「……はい……私、も……彰良くんと、デートしたい……です」


 潤む瞳。


 首筋まで赤く染めながら、葵は彰良の手に手を重ねる。


「っ……ありがとうございます……!」


 葵が己の手を取ってくれたことに安堵する。


「自分は……デートなど、初めてなので……何かあれば、すぐに教えてください。

 ……次回からの改善にも繋げたいので、よろしくお願いします……」


「えっと……大丈夫と思うけど、頑張ります。

 彰良くんも、その……何か私に不満があれば教えてくださいね。」


 何方ともなくクスクスと微笑む。


 変なところで似ている二人。


「……葵先輩、荷物は自分が持ちます」


「ごめ……ありがとう、彰良くん」


 葵が持っていたお買い物バックを、彰良が優しく奪う。


 ズシリと重たい袋の中には、数冊の本。


 繋いだ手はそのままに、二人はゆっくりと歩き出す。


「あ……彰良くん……」


「はい……?」


 彰良の車へ向かう途中。


「……彰良くんも、すごく格好いいよ。

 そのコート……奥多摩湖に行った時も着ていたと思うけど、すごく似合ってます。」


「っ……!」


 優しい微笑みと共に贈られた言葉。


 褒められるとは思っていなかった彰良は、口元を押さえる。


「……ありが、とうございます……!」


 耳まで赤くなった顔を隠したい。


 格好悪い。


 横目に葵を伺う。


「(……本当に……綺麗、だ……)」


 艷やかな黒髪に映える小さな真珠のバレッタ。


 綺麗な項と鎖骨。


 女性らしい柔らかなシルエット。


 心の底から見惚れてしまう。


「……葵先輩の方が……綺麗、だ…………反則級に可愛すぎて……困るし……抱き締めて、キスしたくなる。」


 ……本音が口から、零れ落ちた。


「え……」


 葵の足が止まる。


「……?」


「彰良くん……いま……?」


「いま……?」


「きっきれい、とか……可愛くて困る……抱き、抱き締めて、キスし……っ」


 口元を片手で覆い、潤んだ瞳を伏せる。


 耳と言わず、首筋まで染め上げ、動揺する。


「…………」


 葵を見詰め、無言で記憶を遡る。


「っ?!」


 零れ落ちた本音が彰良の脳内で再生された。


「違っ?!

 いや、違わないんですがっ……違わなっ、がっ!

 むっ、無理矢理する気は無いっ!

 あ、あくまで葵先輩の同意を得た上でっやりたくて堪らないっ……何を言っているんだ俺はっっ?!」


 穴があったら、更に深く掘り進んで土に埋もれたい。

 

 顔面から火が出る勢いで狼狽する。


「……ぅん…………わ、たしも……彰良くん、となら……がんばりたいって……きす、とか……思ってます……」


「え……あお、いせんぱっ……今?!」


 小さな声。


 微かに震えていた。


 だが、彰良の聞き間違いでなければ……!


「っ……彰良くん!

 早く行かないと夕方になっちゃいます……!」


 ビクリと跳ねた肩。


 誤魔化すように背けた横顔。


「葵先輩……!

 今、頑張りたいって……!」


「っ……きゅっ!

 急に走りたくなりましたっ……!」


 羞恥が限界を突破して走り出した葵。


 もう一度、葵の気持ちを聞こうとした彰良が追いかける。


 そんな二人をイチョウ並木が包み込むのだった。


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