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その恋、賭けですよね? ~愛しているので、もう逃がしません~  作者: ぶるどっく


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第五話



 夜道を静かに走る車。


 助手席に座る葵は、未だに高級感のある車に慣れていなかった。


「葵先輩……寒くないですか……?」


「だ、いじょうぶ……です……」


 お互いに何故か緊張してしまう。


「…………」


「…………」


 言葉が続かない。


「……自宅まで、送ります……」


 本当は……送りたくない。


 彰良の家に来てほしい。


 ……だが、その一言が……言えない。


「最近……いつも、ありがとう。

 ……その、彰良くん……遠回りになっちゃうから、迷惑かけ……」


「迷惑ではありません。

 自分が……葵先輩と少しでも、一緒に居たいから……」


 言葉が途切れる。


「…………」


「……ありがとう」


 微かに頬を染める。


 一緒に居たいと彰良に言って貰えることが、葵は嬉しかった。


「……っ……」


 不器用過ぎる己が恨めしい。


 手作りのアクセサリー。


 素直に気持ちを叫べる華乃。


 彰良の持っていない物ばかり。


「(……困らせたくは、ない……)」


 恋人になって、まだ三日。


 欲張ってばかりで、嫌われてしまえば意味がない。


 手に入れたからこそ…………失う恐怖。


 ……だが、それでも……葵と一緒に居たい。


「……葵先輩……」


「……はい」


「……あ、したは……その、用事など……なければ……」


 ハンドルを握る手に力が籠る。


 気付かれないように、深呼吸。


「……一緒に、何処かに……」


「え……明日は……」


「…………やはり、急では……すみません、困らせ……」


「図書館、一緒に行ってくれる……?」


 彰良の問いに週末の予定を頭に浮かべる。


 冷凍庫の食材は……まだ、ある。


 野菜もカットして、冷凍している。


 生活用品のストックも……まだある。


 あとは……図書館で借りていた本の返却期限が明日だった。


「本を借りてて、返却期限が明日なの。

 だから、用事と言われれば……それくらい、かな?

 でも、休みの日まで私の用事に付き合う必要は……」


「行きます。

 絶対に一緒に行きます、行きたいです……!」


「え、えー……そ、そんな気合を入れる程のことでも……」


 深く考えることなく答えた葵。


 勢いよく自分の用事に付き合うという彰良に驚いてしまう。


「私の図書館は、ただの野暮用というか……彰良くんも、お休みの日くらいしっかり休みたいでしょう?

 疲れも溜まってると思いますし……。

 その、今週は色々……有りましたから……」


「疲れていません!

 葵先輩の用事に是非、一緒に行きたいです……!」


 信号待ちで車が止まる。


「……自分が一緒では……駄目、ですか……?」


「っ…………駄目、では無いですけど……」


 葵を真っ直ぐに見つめて、寂しげな空気を纏う。


「……彰良くん……やっぱり、卑怯だと思うの」


「それは……お互い様ではないかと。」


 少しだけ唇を尖らせた葵。


 葵が彰良の寂しげな雰囲気に勝てないことを、彰良は知っているのだ。


「……それに……卑怯と言えば、今日の……」


 信号が青になる。


 車を動かすことで、口を閉じてしまう。


「(……昼の……)」


 備品室での葵の一言が蘇る。



『…………ちゃんと……恋人らしいこと…………ぜんぶ最後までしたいと、覚悟を決めて好きって返しましたから、ね……』



 その言葉の意味を……知りたい。


「(……恋人らしいこと……全部……最後まで……)」


 想像してしまう。


 葵のいう最後とは……何処までなのか?


「(葵先輩は……触れられることが、怖い。

 ならば……恋人らしいこと、とは……触れ合うことは含まれて……いない?)」


 悶々とする。


 葵本人へ聞ければ分かるが…………


「あ……彰良くん、此処で大丈夫です。」


「っ……はい」


「彰良くん、今日も一日ありがとうございました。」


 車から降りてしまう。


「あのっ……葵先輩……!」


「はい……?」


「っ……あ、とで……明日のこと、連絡します……」


 喉元まで出そうになった問い掛け。


 しかし、最後の最後で逃げてしまった。


「うん……わかりました。

 その……また、明日……ね」


「……また明日……」


 微笑みを残して去って行く。


 エントランスに入る前に一度振り返り、葵が手を振る。


 彰良も手を振り返し…………ハンドルに突っ伏してしまうのだった。





 自宅の小さなキッチン。


 片手鍋でお湯を沸かす。


「……どうして、彰良くんは図書館に付いて来たかったのかしら……?」


 湧いたお湯の中に冷凍していた適当な野菜を投入する。


「(本が……読みたかった……?)」


 竹輪を手で千切りつつ、鍋に落とす。


「…………」


 葵と違って、彰良は……本を買うことを躊躇うだろうか?


 彰良が図書館で本を借りるメリットが見いだせずに首を傾げてしまう。


「(彰良くんは、どうして休みの日まで……私の用事に付き合おうとしてくれたのかな……?)」


 彰良の考えが読めない。


 わざわざ葵に時間を割く必要がある?


「……どうして、かな?」


 野菜が柔らかくなった頃合いで、ちゃんポンの粉末スープ。


 冷凍しておいたちゃんポンのソフト麺を加える。


「…………」


 世間一般的に休日と言えば、体を休めるだろう。


 家族が居れば……家族で出かけたり。


 独身の身であれば……友人を誘って遊ぶ?


 あとは……こいび、と…………


「っ?!」


 葵の頬に朱が昇る。


 一瞬で茹で上がる。


「あっ……」


 慌ててコンロの火を消す。


「……えっ……ちがっ…………で、も……」


 熱を持った両頬を押さえ、キッチンの床に座り込む。


「……こ、いびと…………あつかい、してくれた……?」


 混乱する。


 思考がグチャグチャになる。


「えっ……でも、私……い、ちおう…………彰良くんの、恋人…………こいびと、だもん……ね?」


 自分で言った言葉が、何故か恥ずかしい。


「ま、まって……でも、彰良くんは……違う、かも……でーと、とかのつもりじゃないかも……」


 デートだなんて……葵の考えすぎかもしれない。


 だが、彰良にデートですか?なんて、聞けない。


「…………ど、どうしたら……」


 取り敢えず思い浮かんだのは"服"だった。


「水族館のときの……華乃ちゃん、可愛かった……」


 大好きな葵とのお出かけだからと、爪の先まで可愛かった。


「…………」


 自分の爪を見る。


 マニキュアも、何も塗っていない切り揃えただけの爪。


「…………」


 自分の持っている服を思い出しても、部屋着か通勤用の服だけ。


「…………嫌われちゃうかな……」


 少しだけ落ち込む。


「…………」


 服を買いに行く時間はない。


 彰良にお金を返すために減った貯金。


 ……貯金に回すお金を減らしてまで、服を買うなんて……できない。


「…………相談に……のってくれるかな……?」


 葵は勇気を出して、スマフォを取り出す。


「……あの、ご無沙汰しています。

 夜分に電話をしてすみません。

 あの、お義姉さん……少しだけ、ご相談させて……欲しくて……」


 勇気を振り絞った葵の背後。


 片手鍋の中で、ちゃんポンの麺が伸びていくのだった。


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