第四話
就業時間が終了のチャイムが鳴る。
それぞれ帰る者、残業になった者。
「……華乃ちゃん……」
「あれ……葵先輩?」
チャイムが鳴り、帰宅の準備を始めた華乃。
珍しく声を掛けて来た葵に首を傾げる。
「お昼休みに渡すつもりだったんだけど……」
「え……」
ラッピングされた小さな袋。
「そのね、水族館のお礼というか……。
……ハンドメイドだから……あんまり上手じゃなくて……気に入らないかも……」
「はっ?!
葵先輩の手作りなんですかっ?!
えっ、えっ……あ、けてもいいですか……?」
こくんと小さく頷いた葵。
「うっわぁ…………!」
細い針金を捻り、丸いローズクォーツを包み込むように編まれたブレスレット。
小さなアメジストなどの天然石も使用し、華奢で可愛らしいデザイン。
「一応ね、華乃ちゃんのイメージで……作ってみたの……。
……華乃ちゃんって、薄いピンクとか、紫なイメージがあって……気に入って、貰えないかもだけど……」
「すっごく可愛い……!
えっ……ものすごく私の好みなんですけど……!」
華乃の瞳がキラキラと輝く。
「どうしよ……!
毎日着けたいけど、壊したくないっ!
あーもうっ!
葵先輩、大好きです……!」
「……喜んでもらえて、良かったです」
飛び上がる勢いで喜ぶ華乃。
安心したように微笑む葵。
「……水族館のあと、華乃ちゃんを置いて帰っちゃったし……。
彰良くんから連絡を受けてたとは聞いたけど……」
「ああ、あの日はセフレに迎えに来てもらった……あ゛っ」
ブレスレットが嬉し過ぎて、油断した。
「せっ?!」
華乃のセフレ発言に顔を赤く染め上げる。
「あー……まあ、友達ですね。」
「そ、そうなのね……」
自分よりも年下の華乃。
葵には縁のない関係性にドギマギする。
「……嫌いになります?」
「え……きらい?」
葵の反応を伺うように、華乃は問いかける。
「世間的にはあんまり、でしょ?」
「あー……んー……」
なんと言えば良いか迷う。
「……わた、しには……縁がない、とは思うの。」
「っ……」
「でも……私に縁がないから否定するのは、違うと思うの……」
「え……」
否定しない葵に、華乃は目を瞬かせる。
「……普通とか、当たり前とか……好きじゃない、から。
恋人や結婚してる、のに……そういう関係性を維持するのは嫌だし、駄目と思うの。
でも……誰も傷付けない、嫌な思いをさせない範囲でしていることを……そこに、どんな気持ちがあるか分からないのに…………頭ごなしに、否定はしたくない、かな……」
「葵、先輩……」
「それに……私は、華乃ちゃんが大好きよ。
とても優しくて、強くて可愛い素敵な女の子だって……知ってるもの。」
「っっ……!」
泣きたくなる。
目の奥が熱い。
喉の奥が苦しくなる。
「っ……ほ、んとっ!
そういうところがっ勝てないです!」
だから……諦められない。
だから…………幸せを願う。
華乃の大好きな……何よりも大切な人。
「あーもうっ!
何でもぉ、犬飼さんなんですかー!
うぅ……ほんっとに! 男に生まれてきたかったですっっ!」
「華乃ちゃんが男の人…………今の、華乃ちゃんが良いなぁ……」
悔しがる華乃の横で、葵はほわほわと想像する。
……男性が苦手な葵にとって、申し訳ないが……今の華乃の方が安心できた。
「華乃ちゃんが……男の人だったら……此処まで仲良く出来なかった気がするの」
「……わかりませんよ?
犬飼さんより、良い男の自信しかないですもん!」
ふふふ、と自信満々に華乃は笑う。
そんな華乃に葵もクスクスと笑ってしまう。
「……自分が聞いていると分かっていて、いい度胸ですね。」
「っ?!」
「あれー?
居たんですか、犬飼さん!
相変わらず影がうっすいですね!」
話に夢中で彰良に気が付かなかった葵がビクリと驚く。
逆に気が付いていてスルーしていた華乃。
「い、ぬかいくん……」
「葵先輩、一緒に帰りましょう。」
「……うん」
恋人になってから一緒に帰る頻度が増えた二人。
葵は未だに慣れず、ドギマギしてしまう。
「ふふふ……」
「……何ですか、気持ち悪い。
頭蓋骨を陥没させたんですか?」
「違うし。
んふふ……これ、葵先輩が愛を込めて、私のた・め・にっ!
私のことだけを想って!
手作りしてくれたハンドメイドアクセ貰っちゃった!」
「っっ?!」
目を見開く。
葵が華乃のためだけに……手作りしたアクセサリー。
「…………」
「すっごく素敵!
葵先輩の愛を感じちゃうもの!」
「っ…………要件は、それだけですか?」
ズレてもいない黒縁眼鏡を押し上げる。
「葵先輩、帰りましょう」
「え……あ、華乃ちゃん、今週もお疲れ様でした」
「お疲れ様でした、葵先輩!
ブレスレット! ほんとにありがとうございました!」
彰良に手を引かれて総務課を後にする葵へ、華乃が手を振る。
「…………ふふふ!
めっちゃ気分良いし……そうだ!
桐也にでも見せびらかそうっと!」
華乃は、ご機嫌でスマフォを取り出すのだった。




