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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第三話



 昼休みも終わりに近づく時間帯。


 静かだった総務課にも、ガヤガヤとした空気が戻ってくる。


「えっと……?」


「うっわ……何この色っぽさ……ちょっと整えただけでコレって…………反則じゃん」


「か、華乃ちゃん……?」


 小首を傾げて戸惑う葵。


「あ、あの……変じゃ、ない……かな……?」


 白い肌が微かに赤く染まっている。


 慣れない夜会巻きが、華乃によって低めのシニヨンに綺麗に纏められている。


 深いネイビーのシュシュに、小粒のパールが数個。


 シュシュの色や清楚な真珠が艷やかな黒髪をより引き立てる。


 纏め上げられたシニヨンにより、微かに朱に染まった項が艶っぽい。


 自信なさげに伏せられた瞳が、より儚い美しさを強調する。


「っ……」


 口元を覆って言葉も出ない彰良。


「…………」


 何も言わない彰良に、悲しみの色が葵を取り巻く。


「……ごめんなさい、犬飼くん……困らせちゃったね……」


「っ……ちがっ……!」


 困らせてしまったと葵が無理に微笑み、華乃が青筋を立てて拳を握る。


 彰良が慌てて訂正しようとするが……


「えっ?! 立花さんっ……?!」


「っ……?!」


 静かだった総務課に、昼食に出ていた社員達が戻ってくる。


「うわー……めっちゃ可愛い!

 いや、すっごい綺麗だし、とても似合ってる!」


「さ、佐山さん……」


 葵の同期の佐山が笑顔で褒めた。


「すっげぇ……女って髪型一つで、こんなに変わるんだ…………」


「まって……めちゃくちゃ美人だし…………なんか、色っぽい……」


「あー……うん。

 なんつーか……背徳感のある綺麗さ……?」


「……人妻ってやつ……?」


「だなー……大和撫子ってゆーの?

 艶やかな色気? 派手じゃないのに目を引くし……」


「……手折りたくなる人妻感……」


 佐山の後ろにいた男性社員達がコソコソと囁き合う。


「あ、えっ……その……あ、りがとう……」


「っっ……!!」


 恥ずかしそうに髪を耳に掛ける葵の仕草に、男たちの視線が集まる。


 ゴクリと喉が鳴る音は、一つでは無かった。


「あーあ……このままじゃ、どっかの誰かさんは……すぐに捨てられちゃうかもね。」


 彰良の隣に立ち、華乃は鼻で嗤う。


「っ……葵先輩!」


「えっ?! ちょっ、犬飼くんっ?!」


 華乃の言葉に正気に戻った彰良が葵の手を掴んで歩き出す。


「備品チェックに行って来ます!」


「まっ……お弁当箱が……そのままに……!」


 戸惑う葵を横抱きにしそうな勢いで、彰良は進んで行く。


「…………コレだから、クソ犬なのよ」


「……犬飼くん……限界突破?」


「え……? 俺たち……つーか、立花さん、ヤバくね?」


 残された総務課の男性社員達は、正気に戻った彰良の反応に頬を引きつらせるのだった。


 

 

 会社の地下にある備品室。


 総務以外の社員が近付くことは滅多にない場所。


「犬飼くん……!

 あのっ……備品チェックは、今日の分は終わってるはずっ……!」


「…………」


 彰良に腕を引かれて備品室に辿り着いた二人。


「っ……葵先輩、すみませんっ……!」


「へ……ひゃっ……?!」


 備品室の扉を閉めたと同時に、葵は彰良の腕の中に抱き込まれる。


 いきなりの接触に一瞬だけ体を硬くする。


「あ、あの……何か、怒ってる……?」


 抱き締めている相手が彰良だから。


 少しずつ体の力を抜くものの、無言の彰良に葵は戸惑う。

 

「っ……違う……」


 葵を抱き締める腕の力が強くなる。


「……俺、の……なのに……!」


「……?」


「……俺の、葵先輩なのに……他の奴らに、可愛すぎる葵先輩が見られるのが…………嫌だ……!」


 ぎゅうっと華奢な体を抱き締め、喉の奥から声を絞り出す。


「え……?」


 予想外の彰良の答えに、葵は目を瞬かせる。


「やっと……!

 やっと、葵先輩に俺のことを好きになってもらったのに……!

 ……葵先輩、頼むから俺以外の人間にもう少し危機感を持ってください……!」


 彰良だって気が付いていた。


 葵の唇がいつもより艶やかで、髪型を変えていることも。


「……まだ恋人になってから三日なのにっ……葵先輩がどんどん綺麗になって…………!」


 彰良以外に見られないように閉じ込めてしまいたい。


 黒縁眼鏡の奥の瞳に危険な色が宿る。


「……褒める言葉を伝えたいのにっ……葵先輩が可愛すぎてっ!

 ……先にキスして、押し倒したくなりました……!」

 

「まっ……えっ……キっ……?!」


 彰良の言葉に葵の顔と言わず、首筋まで赤く染まる。


「あ、の……犬飼、く……」


「っ……彰良です……!

 今、二人っきりだ……!」


「うっ……あ、きらくん……ちょっと、だけ力を緩めてほしいなって……」


「っ?!

 す、すみません……!

 ……あの、大丈夫ですか……?」


 太い腕の力が抜け、呼吸が楽になる。


「ふ、は…………うん、大丈夫……」


「い、つも……すみません……」


 スマートで格好良くありたいのに、己の余裕の無さに嫌気が差す。


「…………葵先輩を……不安にさせてばかりで、すみません……」


 お洒落をした葵の可愛さに見惚れて、彰良は伝えたいことの一割も伝えられない。


 己の情けなさに、拳に力を込める。


「…………彰良くんは、格好いいよ。」


「…………」


「他の人に見られたくないくらい……可愛いって、嬉しい……。

 ……彰良くんに……可愛いとか、綺麗って、思って欲しかったし……。

 ……格好いい彰良くんの隣に居ても……変じゃないくらいに、なりたかったから……」


 彰良の腕の中で、恥ずかしそうに俯く葵。


「変……?

 俺の方が、葵先輩の横に立つ資格が欲しくて足掻いているのに?」


 彰良は不服そうに眉を寄せる。


「……葵先輩は、誰よりも綺麗で可愛らしい……素敵な女性です。

 …………だからこそ……他の誰かに盗られそうで、心配で堪らないんです……!」


「んー……?

 あのね、彰良くん。」


 腕の中の葵を真っ直ぐに彰良は見詰める。


 葵もまた、困ったように微笑み返す。


「……男の人で……私を恋人にしたがるモノ好きは、彰良くんだけだと思うの。

 私より綺麗だったり、可愛い素敵な女性はたくさんいるもの。

 ……だから、彰良くんが私のことを好きになってくれて…………奇跡だなって思ってます……」


「…………葵先輩は、周囲が見えていないかと。

 そうじゃなくても……葵先輩を目で追う輩が増えたというのに……!」


「…………気のせい?」


「気のせいではありません……!」


 首を傾げる姿も可愛いと思ってしまう時点で、彰良は己の敗北を悟る。


「うん……えっと、気を付ける……ね?」


「……何を気を付けるか分かっていませんよね?」


「……さあ、お仕事に戻りましょうか。

 もう、昼休みは終わっていますから……犬飼くん」


「………………そうですね」


 大きなため息を付きそうになる。


 名残惜しいと思いつつ、葵を腕の中から解放する。


 そして、同時に己がもっとしっかりとせねばと決意を新たにした。


「…………彰良くん」


 腕の中から解放された葵が、彰良の背広の裾を掴む。


「…………ちゃんと……恋人らしいこと…………ぜんぶ最後までしたいと、覚悟を決めて好きって返しましたから、ね……」


「…………え?」


 黒縁眼鏡の奥の目を見開く。


「っ……先に行きますね……!」


「なっ……待ってくださいっ!

 葵先輩っ! 言い逃げは卑怯です……!」


 首筋まで赤く染め上げた葵が足早に歩き出す。


 一瞬固まった彰良が、言葉の意味を理解して葵の背中を慌てて追いかけるのだった。


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