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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第七十四話



 重たい足音が近付いてくる。


 静かなはずの病院。


 遠くで喧騒が聞こえる。


「葵先輩っっ!!」


 大きな音を立てて飛び込んで来た大きな体。


「葵先輩っ……何処に……!」


 死にそうな顔をした彰良。


 泣きそうな声で葵の名前を呼ぶ。


「ちょっとさぁ……心配なのは分かるけど、病人がいるんだから静かにしなよ」


「っ……り、ん……?」


 点滴室のベットを囲むカーテンを開け、呆れた顔の凛が彰良に声を掛けた。


「何故……凛が?」


「は? 兼子に聞いてないの?」


「……法定速度を遵守して、交通規則を守り、事故を起こさず。

 慌てず、騒がず、トラブルを起こすことなく、安全と確実性を持って、この病院へ辿り着け……と」


 至極真面目な顔。


「っ……それよりもっ!

 葵先輩、は……っ………」


 カーテンの向こう側。


 硬いベッドに横たわる葵の姿。


「あお、い……せんぱ、ぃ……」


 青白い肌。


 細い腕に刺された点滴の針。


 何箇所か貼られたブラッドバン。


 ピクリとも動かない細い身体。


「……っ……」


「おい、生きてるからな?

 彼女、息をしてるから……そんな死にそうな顔すんなよ。」


 ため息を付く。


 幼馴染として、短くない年月を彰良と一緒に過ごした凛。


「……彰良も……人間だったんだな……」


 どんな存在が相手でも……こんな取り乱した彰良の姿など見たこともない。


「葵先輩……」


 祈るように。


 ベットサイドに膝をつき、眠る葵の手を握る彰良。


「(……彰良が……こんなに執着するなんて……)」


 何時だって。


 何時だって、彰良と周囲の人間の間には分厚い壁があった。


 血の繋がった家族でも、その壁の内側に入れた存在は居なかった。


 温度の無い瞳で、周囲を睥睨する彰良。


 それが……凛の知る彰良だった。


「(……こんな……余裕のない、たった一人の女のためにボロボロになる姿なんて……知らない。)」


 泣きそうに歪んだ彰良の横顔。


 ……それは、凛の知らない顔だった。


「……ん……」


「っ……葵先輩……!」


 葵の瞼が微かに震える。


「…………ぁ、きら……くん……?」


「葵先輩……っ……!」


 ボウっとした瞳。


 しかし、確かに彰良を捉えた葵。


「…………あきらくん……今、何時……?」


「…………十四時半過ぎですが……」


 ぼんやりとした葵の瞳に光が戻る。


「お仕事っ?!

 お昼休み終わって…………うっ……」


 目を見開き、慌てて起き上がろうとして…………目眩を起こした。


「葵先輩っ!

 急に起き上がったら駄目です!」


「で、も……しごと……」


「大丈夫ですから!」


 ゆっくりと彰良が支え、葵を横たえる。


「ごめ、なさい……あ、れ……?」


 横になり、息を吐き出す。


「ここ……どこ……?」


「此処は、鹿山総合病院よ。」


「……狐川、さん?」


 彰良の背後に立つ中性的な麗人。


「んもう!

 アタシと話している途中で、急に倒れちゃうからビックリしちゃった!」


 にっこりと艶やかな微笑み。


「だ・か・ら!

 同級生だった……あー、兼子さんに連絡を取ったのよ。」


 男では無く、女性的な立ち振舞いを意識した凛の言動。


 男が苦手な葵に負担を掛けないための配慮だった。


「……だったら……何で、彰良くんが……」


「……誰よりも大切な恋人の葵先輩を優先しては、いけませんか……?」


 泣きそうに歪んだ彰良の表情。


 震える低い声。


「そう、じゃなくて……彰良くんにも、仕事もあるし……クリスマスだから予定があるっておも……」


「有りませんっっ!!」


 涙が溢れた。


 限界だった。


「俺はっ……どうしようもない、大馬鹿ですっ!」


「えっ……えぇぇぇっ?!

 あき、彰良くん、泣かないでっっ?!」


 零れ落ちる大粒の涙に、葵は手を伸ばす。


「……余裕がっ……なくて、格好わるいし……!

 クリスマスのっへんじも、もらいわすれてっ……!

 あおいせんぱ、ぃ……を、ふあんにさせてばかりでっ……!」


「え……クリスマス、私と過ごしてくれる予て……」


「葵先輩以外と過ごすくらいならっ!

 舌を噛み切って死んでやるっっ!!」


 泣きながら叫ぶ。


「え……ありがとう……?」


 目を瞬かせる。


 じんわりと喜びが心に広がり、温かくなる。


「………遠慮せずに、ちゃんと聞けば良かったね。

 折角のクリスマスに水を差したらいけないって、聞く機会を逃しちゃったのは……言い訳ね。」


 大好きな彰良を泣かせてしまった。


 でも……葵のために泣いてくれる彰良の心が嬉しくて堪らない。


「ごめんね、そして……ありがとう、彰良くん。

 たくさん心配を掛けて、ごめんね。

 次からは気を付けるから…………許してくれる?」


「っっ……おれ、の方が許してもらう立場ですっっ……!!」


 彰良の頬を幾筋も流れ落ちる熱い涙。


 葵は、彰良の頬へ手を添える。


「…………やっぱり……彰良くんは、泣いてても可愛いくて格好いいね」


「っ……」


 真っ赤に染まる頬に、葵は笑みを深くする。


「(重っ……!

 えー……彰良って、あんな重すぎる奴だったのかよ……)」


 そんな葵と彰良を少しだけ離れて見守っていた凛の頬が引き攣る。


 幼馴染として、彰良の全てとは言わないが……それなりに知っていたつもりだった。


「(え?

 立花さん、気が付いていない感じ?

 しれっとクリスマスに一緒に過ごせないなら、死んでやる発言したよね?)」


 ……重すぎる!


 重過ぎるだろ、彰良……!


「…………」


 一応なりとも彰良の幼馴染として。


 凛は定期的に、この二人を見守る必要があると妙な使命感を感じてしまうのだった。



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