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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第七十三話



 白を基調とした総合病院。


 病院に辿り着いても、意識が戻ることが無かった葵。


「(ストレス、か……)」


 診察の結果。


 心因性から来る発熱の可能性を示唆された。


「(……彰良が原因なのか……でも、それ以上に……あの巳堂だっけ?

 アイツへの拒否感もヤバかったなぁ……)」


 まさに、泣きっ面に蜂という言葉が浮かんだ。


「……貧血も有るらしいし……無理すんなよ」


 点滴室のベットで眠る葵。


 点滴に混ぜてくれた解熱剤が効いているのか?


 少しだけ顔色が良くなったように感じた。


「…………」


 ……痛々しい。


 青白い顔。


 細い腕に刺された針。


 細い身体。


「(…………放っておけなくなる……)」


 庇護欲が刺激される。


 悲しい涙を見たくない。


「…………彰良の恋人じゃなかったらなぁ……」


 幼馴染の恋人を寝取る趣味はない。


 寝取りたいとも思わない。


 ……自分だって、葵を傷付けた一人なのだし……。


「…………」


 ため息を付く。


 心の中に芽生えかけた想いに蓋をして。


 葵の前では、素敵なガールフレンド兼ボーイフレンドとして振る舞う覚悟を決めた。


「……取り敢えず……太らせて、色々と世話を焼かなきゃ……」


 禄に手入れもしてなさそうな髪。


 切り揃えられただけの爪。


 エステとは無縁そうな肌。


「……絶対に、ちょっと手入れしただけで綺麗が爆発しちゃう素材じゃん!」


 スタイリストとしての血が騒ぐ。


 元気になったら絶対に連れ回そうと心に誓った凛の目が、爛々と輝く。


「花やんが、素材が良いことは全力で認めよう。

 ただ、美容に目を向けるよりもまずは、栄養管理を優先すべきだと提案する。」


「ひっ?!」


 点滴室のカーテンの隙間。


 分厚いトンボ眼鏡が覗く。


「むむ?

 何をそんなにも驚いている?」


 カーテンの影から入り込んできたスクラブを着た女。


「ふむ……瞳孔が拡大している。

 心理的状況を考慮すると、驚くという感情の変異に伴い交感神経がトップギアに入ったということだ。

 典型的なFight or Flight反応。

 つまり野生だった頃の名残であり、人間の生存本能が全開となる瞬間。

 生命の危機に対抗するために、心拍を上げ、脳と筋肉を含む全身への血流を増やす。

 即ち、戦うか逃げるか。

 どちらへも対応できるように体が準備している状態を指す。」


「……は?」


「要するに、生物の体とはよく出来ているという結論に至る。」


「…………」


 頬が引き攣る。


 意味が分からない生き物に絡まれてしまった。


「……また、痩せてしまったな。」


「っ……」


 愛しさと優しさの混じった眼差し。


「……立花さんの……知り合い?」


「中学まで一緒の学校で机を並べ、高校以降に再会した竹馬の……友、ではないな。」


「え……」


「心の友と書いてマイ・ベスト・フレンドと読む!

 友という程度のなつき具合では無いからなっ!

 主に私と鬼やんがっ!」


「お前がかよっ?!」


 凛のツッコミに、カラカラと笑う。


「さて、そちらの華やかな生き物。」


「……華やかな……生き物……」


 目が死ぬ。


 目の前の不可思議すぎる生き物に付いていけない。


「採血データを紐解くと言いつつも、生化学系統はまだ時間が掛かる。

 しかし、迅速判断できる範囲の採血データから言わせてもらおう。

 WBC、ワイセ、白血球と呼ばれる数値は正常範囲に留まっている。

 CRPと呼ばれる炎症反応も上がっていない。

 この結果より導き出されることは、発熱の原因が細菌感染では無いということだ。

 では、それ以外の選択肢の一つとしてウイルス感染の極々初期。

 所謂、一般的な風邪を含む可能性はゼロではない。

 だが、花やんの症状は熱のみ。

 それより導き出される結論は……心因性の物となる訳だ。」


「いや、あの……」


 戸惑う。


 この生き物への対応の正解が、凛には分からない。


「過去の採血データからしても、花やんは栄養が足りない。

 しかも、今回はヘモグロビンの値が前回よりも下がっている。

 鉄分サプリメントを摂れとは言わんが、もっと食べさせろ。

 そうじゃなくとも女という生き物は、定期的に体の中から血液が排出されるんだ。

 この状態で生理になれば、貧血でまた倒れるぞ。」


「…………」


 誰か……助けて。


「まぁ……君に言ってもしょうがない。

 取り敢えず、花やんの恋人に伝えておけ。」


「え……」


「お前を解剖する時には…………麻酔は一切使わん。」


「っ?!」


 底冷えするような満面の笑み。


「鬼やんからも"だから女難の相が出ていると忠告しましたのに"と、伝言を預かっている。」


 確かに伝えたからな、と背を向け……カーテンの向こう側に消えてしまったのだった。


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