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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第七十ニ話



 ニコニコと、いつもの喰えない笑み。


 だが、その笑顔の下は盛大に苛ついていた。


「あー……魚形課長?

 総務課社員にクレームとは?

 そっちに行ってる佐山くんか、立花さんが何か……」


「あはは!

 違いますよ、吉村課長!

 その二人は、とてもよーく頑張ってくれています。

 ……いっそ、本当にウチの子にしたいくらいですよ。」


 にっこり。


「いやいや、それは困りますな。

 佐山くんも、立花さんも、総務課の大切な子ですから。」


 にいっこり。


「あはは………!」


「ははは………!」


 狸の化かし合い。


 そんな言葉が、総務課社員達の脳裏によぎった。


「それで?

 あの二人てなければ……一体、誰のことですかな?」


「えー、分かりませんか?」


 胡散臭い笑顔を引っ込め、玲衣は目を細める。


「オタクの犬飼くんに、特大のクレームを付けに来ました!」


 特大の笑顔で玲衣は答える。


「……自分が、何か?」


 玲衣が総務課に現れた瞬間から、警戒していた彰良。


 朝からの恋愛に関するダメダメっぷりをお首にも出さず、彰良が玲衣に対峙する。


「えー、言わなきゃわかんない?」


 女が好みそうな甘ったるい微笑み。


「分かりません。

 自分は、魚形課長にご迷惑をお掛けした覚えは有りませんが?」


「そっかー……覚えがないかぁ……」


 浮かべていた甘い微笑みが、スンッと消え去る。


「君さ……恋人をクリスマスのデートに誘わずに、ウチの孔雀主任と抱き合うって何やってくれてんの?」


 真顔の爆弾。


「は?」


「はあぁぁぁっっ?!」


『犬飼っ?! 何やってんだよっ?!』


 一瞬、何を言われたかわからない彰良。


 華乃の地獄の底から響くような雄叫び。


 総務課一同、心の……いや、完全にお口から飛び出した大絶叫。


「ちょっとっ!

 クソ犬っ!アンタ、何やってんのよっっ!!」


「は……まっ、何を……?!」


 瞬間移動の速さで詰め寄った華乃に、彰良は胸ぐらを掴まれる。


「ちょっと! 魚形っ!

 アレは事故だって言ったでしょっ!!

 私が転びそうになった所を……」


「知らないよ、そんなこと。」


 冷たく言い放つ。


「少なくともさ……恋人からのクリスマスの約束もなくて」


 相手のことばかり優先する馬鹿な女。


「自己肯定感がセロどころか、マイナスぶっちぎり」


 自分の壊れそうな心よりも、恋人の幸せだけを願う女。


「そんな子が、強く抱き締め合ってる一瞬だけを見てしまったら…………勘違いしても、しょーがないと思わない?」


 息を呑む。


「……自分は……!」


「君の言い訳とか、興味ないんだよ。」


 冷たい声音。


「……一応さ、立花さんは総務の子だけど……今は、営業部(ウチ)の子なんだよ」


 葵を追い詰めて、傷付けた自分が言うことじゃないけれど……


「ウチの子、泣かせんなよっ!」


「っ……」


 激しい怒気。


 彰良は目を見開き、動揺する。


「葵先輩はっ今何処にっ……?」


「さあね。」


 狼狽する彰良から、玲衣はそっぽを向く。


「お昼のチャイムが鳴ったから、頭を冷やしてくるってふらふらっと。」


 ため息を付く。


「しかも、コートも財布もスマホも!

 何も持たずに行ってしまったんだよ。

 ……責任感はある子だから、昼休み終了五分前には戻って来ると思っていたんだけど……」


「まだ戻って来ていないんですかっ?!」


 時計を見る。


 既に、昼休み終了の時間を過ぎて十分以上が経過している。


「戻って来たら、総務にいるから電話してって言っておいたけど、ね」


「……探して来まっ……」


 音がなる。


 デスクの上にある固定電話。


「はい!

 総務の兼子です!」


 瞬発力を発揮した華乃が、獲物に飛び付くように受話器を取った。


「……は?

 いや、はぁ……繋いでください」


 困惑した顔。


 電話で話す華乃を全員が注視する。


「もしもし……何で、アンタが私宛に……はあっ?!」


 大音量が総務課に響いた。


「……吉村課長!魚形課長!

 葵先輩が、近くの公園で倒れたらしいです!」


「っ?!」


「は?」


「……」


 彰良の顔から血の気が引く。


 吉村や玲衣だけでなく、全員が息を呑む。


「公園っ……!」


 そのまま公園へ向けて走り出そうとした彰良。


「っんの!

 待ちなさいっ! クソ犬っっ!!」


 受話器を持っていない手。


 渾身の力を込め、手裏剣のように投げた飲みかけのペットボトルが彰良の膝裏にヒットする。


「ぐっ……!」


 …………体勢を崩した彰良が大きな音を立てて、倒れ伏した。


「ちょうど知り合いが葵先輩に話しかけている途中で気を失ったらしくて……!

 しかも、めっちゃ高い熱が出てるって!

 今、病院へ運んでいるから保険証とかをお願いします、と……」


 何事も無かったように叫び、電話を切った華乃。


 ……倒れた彰良など眼中になかった。


「……吉村課長」


「……何ですかな」


「……彼女、いい性格してますね」


「……総務課の二大怪獣の片割れですからな」


 遠い目をする管理職。


「取り敢えず、立花さんは早退扱いにしとくから。」


「……犬飼くん、君も午後から家庭の事情で早退扱いにしておく。」


 顔を見合わせ、ため息混じりに呟く二人の課長。


 ……何故か、この数分間の間に年は離れているものの、通じるものがあった吉村と玲衣。


「ありがとうございます!」


 ガバリっと勢い良く立ち上がり、荷物を掴んで走り出しそうな彰良。


「"待て"と"お座り"くらい覚えなさいよっ! このクソ犬っっ!!」


「っ?!」


 猪のように。


 周囲が見えていない彰良に足を掛け、華乃は再び転ばせるのだった。


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