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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第七十話



 緊迫した空気を切り裂いた明るく、ハスキーな声。


 巽と葵の視線の先。


「いやぁんっ!

 イイ男はっけーん!」


 華やかで美しい……中性的な服。


 翻る深紅のコート。


「ねえねえ?

 そのイイ男、アタシにも紹介してくれないかしらぁ?」


「……こが、わ……さん……?」


 震えた声音。


 涙が流れ落ちる。


「……あらぁ?」


 カツカツ、と。


 ブーツを響かせて。


「でーも」


 巽と葵の間に割って入る。


「可愛い女の子の扱いは、下手クソみたいねぇ?」


 葵を背に庇い、顎を上げて艶やかに微笑む。


「っ……」


 震えて……。


 深紅のコートを掴む葵。


 ……その顔色は、青白い。


「……何方様でしょう?」


 熱を失った冷たい相貌。


「うふふ……人様に名前を尋ねる時は、自分から名乗るって知らないのかしら?」


 冷たい視線を堂々と受けて立つ。


「……これは、失礼しました。

 私は、巳堂 巽と申します。」


 温度のない微笑み。


「何処の何方かは存じませんが……」


 その微笑みさえも消え去る。


「退いて頂けますか?

 私は、彼女と話をしています。」


 凛の背中に庇われた葵に、視線を向ける。


「立花さん、折角なのでクリスマスディナーでも如何ですか?」


 カタカタと震える葵。


「私は、貴女という人間をもっとよく知りたいのです。」


「っ……」


 凛のコートを掴む指先から、葵の震えが伝わって来る。


「ぅ……わ、たし……は……」


 断らなければ……。

 

 葵が前に出て、巽の誘いを断らなければ…………凛にも、迷惑が掛かる。


「(……狐川さんは……彰良、くんの……大切な、人なのにっ……!)」


 唇を噛みしめる。


 覚悟を決めて……前に出ようとしたとき


「あらぁん!

 とおっても!

 素敵なお誘いだけどぉ……お断りするわ!」


「……君を誘った覚えは有りませんが?」


 冷たい怒りのこもった視線。


「うふふ!

 だあって……葵ちゃんは、ア・タ・シ・と!

 素敵なクリスマスを過ごす予定だものぉ!」


 ばちん!と素敵なウインクをする凛。


「しかもっ!

 これから葵ちゃんとランチデートなの!

 アタシとの待ち合わせ時間まで、葵ちゃんの話し相手になってくれてア・リ・ガ・ト!」


「ほう……?」


 巽が目を細める。


「立花さん、いえ……葵さんの恋人は"犬飼 彰良"という人物と記憶していましたが?」


「あーら!

 アタシは、葵ちゃんのボーイフレンド兼ガールフレンドよっ!

 一粒で二度美味しいなんて、最高でしょ?」


 美しい微笑みのままに。


 流れるような仕草で、脱いだ深紅のコートで葵を包み込む。


「……しつこい男は、嫌われるだけよ?」


 巽の視線から、葵を守るように。


「ふむ……良いでしょう。

 今日は、此処までとします。」


 ニコリと微笑む。


「葵さん、またお会いしましょう」


 深紅のコートに包まれた葵の身体が微かに震える。


「…………」


 その姿も興味深い、と巽は微笑みだけを残して歩き去ったのだった。

 



 巽が立ち去った方向を、険しい目で見つめる凛。


 完全にその背中が見えなくなったことを確認して……息を吐く。


「(……何でっ!

 あんな、クッソ質面倒くさい奴に狙われてんだよっ?!)」


 ワザとらしい程に明るく、華やかに。


 しかも、女性的な口調で振る舞ってお茶を濁した凛。


「(うーわっ!

 彰良で耐性がなかったら……競り負けてたぜ……!)」


 幼馴染である彰良と似たような圧を持った男、巽。


「……あ……えっと……葵ちゃ、じゃなくて……!」


 己の深紅のコートに包まれて、震える華奢な女性。


「あー……たち、ばなさん?

 あの、アタシに触られて嫌だった……」


「うっ、うぅぅ……」


 ポロポロと。


 大粒の涙を流し始めた葵。


「うえぇっ?!

 ちょっ、ごめん!

 さわっ、触られたくないほどに嫌だった……」


「ちがっ……ごめ、なさっ……」


「へ……?」


 顔を覆い。


 泣き声を押し殺すように。


「……あき、らくんのっ……たいせ、つな…………こ、がわさんをっ……まき、こんじゃっ……た……!」


「……は……?」


 ポカンとする。


 青を通り越して紙のように顔色を白くして。


 怖くてたまらないと震えていたくせに。


「…………な、んで……」


 恨まれるなら分かる。


 憎まれるなら……分かる。


 だって……凛は、ワザと葵を傷付けた。


「っ…………」


 彰良の過去に、有りもしない女の影を見せて。

 

 煽るように。


 抉るように。


「……ねぇ、アタシは問題ないわ。

 あの程度の男に負けたりしないもの。」


「こ、がわさん……」


 傷付いてる癖に。


 他人の心配ばかりする顔色の悪い女。


「ほらほら……もう泣かないの!」


 ポロポロと、人魚姫の涙のように。


 真珠のような涙をハンカチで優しく拭う。


「可愛いお顔が台無しよ!」


 氷のように冷たい指先。


「女の子が体を冷やしたら、ダメじゃない。」


 少しでも……温まるように凛の手で包み込む。


「……もう、大丈夫。

 怖いものは……何もないわ」


 男を怖がるという年上の女性。


 大事な幼馴染の……恋人。


「だから……もう、泣かないで?」


 でも、今だけは壊れそうな脆い女を大切に……抱き締めるのだった。


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