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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第六十八話




 もうすぐ昼休みになりそうな時間帯。


 何故か葵は、玲衣と二人で会議室より営業部へと向かって歩いていた。


「…………」


「…………」


 特に会話が弾むわけでもない二人。


「(……どうして……私まで、会議に参加することに……。

 質問もされちゃうし、すごく緊張して疲れた……)」


 切っ掛けは、確かに葵だったかもしれない。


 嫌がらせの一環の資料作成の依頼。


「(コイツ……マジで腹立つ……!

 普段はポワポワしてるくせに……!

 何で、ああいう場ではしっかりと質問に答えて恥をかかないんだよ!)」


 資料の作成者がいないと困るの一点張りな玲衣に連れられて。


 半強制的に出席することになった会議。


「……ん?

 彼処にいるのは……」


 何とか問題なく会議を乗り越えた葵。


 恥をかかせようと思ったが、宛が外れた玲衣。


「…………犬飼くんと……孔雀主任……?」


 玲衣の声に導かれるように。


 葵の視線が自販機の側にいる二人へと向いた。


 何かを話している二人。


 まだ、葵と玲衣に気が付いていない。


「……ねえ、あの二人……もしかして……」


「え……?」


 玲衣の声に一瞬。


 葵の視線が玲衣へと移り。


「わーお……熱いねぇ?」


 玲衣に向けた視線をすぐに戻せば……


「……っ……」


 彰良が紗夜を強く抱き締めている姿が、葵の網膜に焼き付く。


「…………」


 目を見開く。


 背を向ける。


「っ……」


 逃げるように来た道を戻り、曲がり角の陰に隠れる。


「…………」


 胸に抱いていた資料を抱き締める。


 心臓が嫌な鼓動を立てる。


「ねえ……どうしたの?」


 俯いて。


 微かに震える葵。


「もしかして……ショックだった?」


 目が弓なりに弧を描く。


 口角が上がる。


「でも……しょうがないじゃん」


 そう……動揺しろ。


 怒れ。


「孔雀主任の方が、君よりも綺麗だもの。」


 他の女と同じように。


「君は……可哀想なくらいに貧相だし」


 嫉妬に狂ってしまえ。


「男はね、孔雀主任みたいな身体の女の方が……みーんな好きなんだよ」


 さあ、本性を表せ。


「君の恋人だっけ?

 孔雀主任と……お似合いだったね」


 お前も。


 あのクソみたいな母親と同じ女だっ!


「……そ、うですね……」


 震えるか細い声。


「私みたいな……何もない、欠陥品よりも……」


 悲しみを通り越した壊れそうな瞳。


「すごく、お似合いです……」


 痛々しい。


 辛い。


「でも……」


 それでも……葵の顔には透明な微笑みが浮かんでいた。


「まだ、要らないって言われてないから……」


「は……?」


 意味がわからない。


「何言ってんの?

 見たじゃん。

 二人がしっかりと抱き締め合ってるのをさ。」


 何で喚かない?


「はい……すごく、絵になるなって……」


 何で怒らない?


「お前、馬鹿?

 結論は明らかじゃんか。

 クリスマスにも誘われない。

 約束もしてもらえない。」


 責めろよ、恋人を。


「きっとプレゼントも用意してもらえてない。」


 醜い本性を見せて。


「お前が用意したプレゼントも、目の前で捨てられるかもね」


 俺を……俺をっ!


「それでも……まだ……」

 

 女なんて!


「彰良くん、本人の口から聞いていません」


 みんな一緒だって!


「もしも……孔雀主任を選んだとしても……魅力のない私が悪いんです。」


 安心させろよっ!


「それに……私が彰良くんを好きなことと。

 彰良くんが、心変わりをすることは……何の関係もないんです」


 微笑む。


「ねえ……魚形課長。

 もしも、私は彰良くんにフラレても……彼を恨んだりしません。」


 哀しくて、苦しくて堪らないけど。


「こんなにも……誰かを好きになって、愛することが出来た。」


 だからこそ……


「救いようもない馬鹿な女と笑って下さっても構いません。」


 死ぬまで、きっと……


「私は……彰良くんの幸せを祈ります」


 例え一人ぼっちで老いさらばえて、死んだとしても。


 葵は、息絶える間際の……その瞬間まで。


 彰良の幸せを願って逝けるなら…………絶対に、幸せだと微笑んで死ねると思うから。


「…………」


 絶句する。


 玲衣は、何も言葉を返せない。


 葵の覚悟に見合った言葉を…………玲衣は用意できない。


「……お昼のチャイムですね……」


 葵と玲衣の緊迫した空気を引き裂くように、お昼のチャイムがなった。


「……魚形課長……すみませんが、私は少し風に当たって頭を冷やしてきます。」


 玲衣に一礼して、ヨロヨロと歩き出した葵。


「っ……」


 小さく震える頼りない背中。


 掛ける声が見当たらない。


「っ……くそっ……!」


 苛立ちを紛らわせるように。


 玲衣は廊下の壁を殴り付ける。


 冷たく硬い壁。


 ジンジンと鈍い衝撃が走る。


「……なん、なんだよっ……!」


 だが……それ以上に、玲衣の胸が酷く痛むのだった。






 玲衣と別れた葵は一人、会社の近くの公園へ来ていた。


「…………」


 公園のベンチに一人座る葵。


「(…………コート、忘れちゃった……)」


 十二月の、真冬の風が葵を包む。


「(…………さむい、なぁ……)」


 身体も。


 心も。


 全部が寒くて、冷たい。


「(……でも……しょうがない……)」


 自嘲の笑み。


 哀しくて、苦しくて……痛い。


「……っ……」


 好きで堪らないから……悲しい。


「おや……」


 涙に耐える葵。


「まさか、こうも簡単に会えるとは……」


 葵の腰掛けるベンチの側に近付いて来た足音。


 冬の太陽を遮る身長。


「…………?」


 光を遮った正体を知ろうと、無意識に視線が向かう。


「立花 撫子さんの御息女。」


 細身の190cm近い長身と、スラリと伸びた四肢。


「立花 葵さん……貴女に会いに来ました」


 色素の薄い髪を撫でつけた優しげな顔立ち。


「……だ、れ……ですか……?」


 ドクンっと、心臓が嫌な鼓動を立てる。


「申し遅れました。

 私は、巳堂流時期家元の巳堂 巽と申します。」


 蛇の如き麗しい美貌の持ち主が、音もなく忍び寄り。


 葵という獲物に鎌首をもたげたのだった。


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