第六十五話
クリスマス当日の朝。
いつもの総務課……と言いつつ、やはり何処かソワソワとした雰囲気が漂っていた。
「ねー、犬飼さーん」
「……何か?」
「今日は、クリスマス・イブですけどぉ…………ホテルとか、予約したんですかぁ?」
「っ?!」
ガタリと大きな音を立てて、動揺する。
『クリスマスの朝から何かぶっ込んできたぁぁぁっっ?!』
彰良の動揺を横に、総務課一同の心の声が元気に大合唱。
「なっに、を?!
何をっ朝から言っている……?!」
「いや、ついこないだ"葵先輩以外には勃ちません"とか、叫んだ奴が何言ってんの?」
嫌そうに顔を歪めた華乃の一言。
『……確かにな……一理ある……』
総務課一同、遠い目をしてしまう。
「だいたい、私はホテルのディナーとかを予約したのかって聞いてるんですぅ!
…………アンタの桃色十色なラブホでいっぱいのムッツリスケベな頭の中と一緒にしないでくれません?」
「誰がっムッツリスケベだっ!!」
巫山戯るなっ!といきり立つ彰良に、総務課一同は視線を逸らす。
『……ぶっちゃけ……どっちも、どっち……』
ため息を付きたい気持ちを我慢する総務課一同。
「……で?」
「……関係ない。」
「関係なくない。」
ピシャリ。
「……こういう時のアンタって、信用できないもの。」
「…………豪華なディナーを喜ぶ人では無い。」
渋々と。
華乃に返答する彰良。
「そんなの知ってる。
だけど、恋人になって初めてのクリスマスじゃん。」
「……分かっている……!
だから……ちゃんと誘って………」
言葉が止まる。
「……ちょっと」
「…………」
冷や汗が流れる。
あの日。
クリスマスを誘おうとして……まさかの、弧月 凛が現れて……。
「……返事を……もらっていな、い……?」
血の気が引く。
「はぁぁぁっっ?!」
『嘘だろぉぉぉぉっっ!?』
華乃の声と総務課一同の大合唱がお口から飛び出る。
「おいおい……犬飼くん……それは、不味いだろ。」
お茶を噴き出した課長の吉村が、ハンカチで拭き拭き目を剥く。
「うわー……やっちゃった……」
「恋人になって初めてのクリスマスなのに……」
「いや……普通に、フラれる案件じゃん」
「え……まさか、プレゼントは?」
「いや……さすがに、仕事は出来ても、恋愛はダメダメな犬飼でも……」
「プレゼントを用意していても、ちゃんと立花さんの好みか問題。」
「あー……ありうる」
『だって……犬飼だもんな……!』
総務課一同の中に根付く彰良な彰良の印象。
「っっ…………アンタっっ!!
バッカじゃないのっっ!!」
華乃が拳と言わず、身体を怒りに震わせながら叫ぶ。
「このポンコツっ!バカ犬っっ!!
自分の尻尾を追いかけ回す救いようもないバカ犬晒してんじゃないわよっっ!!!」
華乃、渾身の叫び。
「……ちょっと、待ちなさいよ。
まさかとは、思うけど………!」
嫌な予感が華乃を襲う。
「アンタ……クリスマスケーキとかの予約してるのよね?
クリスマスディナーとか言わないけど、せめて……チキンとか、クリスマスツリーとか……」
頬が引き攣る。
華乃も、彰良がそこまで馬鹿じゃないと信じたかった。
「…………」
華乃から、目を逸らした。
……それが、答えだった。
『嘘だろぉぉぉぉ?!』
再び絶叫が総務課を震わせた。
「いやいやいやっ?!」
「はっ?!
クリスマス当日の朝だよっ?!」
「なんで予約してないの?!」
「逆にクリスマス当日に何をするつもりだったの?!」
総務課一同、疑問が渦巻く。
「……犬飼くん……悪いが、フォローはちょっと……」
吉村が苦い表情で彰良を見る。
「……い、色々あって……葵先輩とケーキを選ぶつもりでした……。
もし……何か食べたい物があるなら、準備もするつもりだったのですが…………」
青を通り越して、顔色の悪い彰良。
「……営業部に移動したことなどに……気を取られていました……」
「……ちょっと、クリスマスプレゼントは?
プレゼントくらいは、準備しているんでしょう?」
「…………している」
目を釣り上げた華乃の問いかけ。
抵抗する気力もないのか。
大人しく鞄からシンプルな小さな箱を取り出した。
「中身は?」
「……シンプルなシルバーリング。
耐久性は抜群らしい。」
華乃も、総務課一同も頭を抱える。
「……耐久性で選ぶとか……バカでしょう……。
アンタ……葵先輩にメリケンサックでも贈りたかったわけ……?」
彰良の選んだ理由に、いっそ呆れを通り越して笑うしかない。
「……此処から、挽回するとか……どんな奇跡のウルトラCよ?」
流石の華乃も……現実逃避をしたくなる。
だが……このままでは、華乃の大好きな敬愛する葵が悲しい思いをしてしまう。
「……立て直すわよ。」
拳を握る。
「私の大好きな葵先輩の幸せなクリスマス計画を始動するわっっ!!」
このポンコツ……クソ犬には任せておけないっ!
華乃は、葵の幸せなクリスマスを守るために気炎を上げるのだった。




