第六十四話
彰良の心の中でブリザードが吹き荒れる。
苦笑を浮かべた葵から語られた言葉の数々。
「私には男心があんまり分からないからしょうがないんだけど……たぶん、束縛しない方が良いって言いたかったのかな?
もしくは、嫉妬深い女は嫌われるってことかな?」
彰良が……葵以外の女性からプレゼントを受け取る。
「魚形課長が教えてくれたんだけど、彰良くんが女の子からプレゼントを受け取ったことを聞かない方が良いって。
クリスマス当日に、その子と過ごす約束もしているかもしれないから……。
だから……そんな意地悪なことを聞いたら、百年の恋も冷めちゃうかも……しれないらしく……えっ?」
「それだけですか?」
気が付けば、彰良に引き寄せられた身体。
彰良に覗き込まれるように……重なった視線。
「……葵先輩、正直に答えてください」
偽りは許さない。
全てを話すまでは……離さない。
「……す、好きだったら……何があっても、黙って耐えるのが私らしくて……。
そんな私を……彰良くんは好きになったんだろうって……」
切羽詰まった……?
違う。
なんだか……怒ってる?
「よ、けいなことを恋人から聞かれたら……男の人はすごく嫌な気持ちになるって……」
でも……怒りの矛先は、自分では無いような……?
「っ……なんですか、それはっ……」
奥歯を噛み締める。
彰良の知らない所で、注ぎ込まれていた毒。
「葵先輩は……それを、信じたんですか?」
「え? ううん。」
キョトンとしてしまう。
「逆に信じる人いるのかな?」
葵は、本気で不思議だった。
「好きな人と出逢えて、想いあえて。
私だったら相手を大切にしたいもの。
だから、私なら彰良くんの嫌がることをしたくないって思うの。」
目を見開いた彰良へと微笑む。
「男心は私にはわからないわ。
でも、私が知りたいのはたくさんの男の人達の心じゃなくて、彰良くんの心だから。
参考にすることはあっても、まずは彰良くんにも聞いてみるよ。」
「…………」
「まぁ……今回は、クリスマスが近かったから、クリスマスが過ぎてから聞くつもりだったけどね。」
綺麗な微笑み。
彰良の想いを疑ってすらいない。
「っ………ああっもう……!」
脱力する。
しゃがみ込んでしまう。
こんなにも彰良を信じて、疑うことすらしない葵。
何度も思ったことだが……一生、彰良は葵に勝てることはない。
「彰良くん?
あの、大丈夫……?
私、何か変なことを言ったかな?」
「いえ…………改めて、葵先輩には一生敵わないと思い知っただけです……」
先程までの色っぽい雰囲気は微塵も消え去り。
拗ねたような潤んだ瞳の彰良。
「…………」
しゃがみ込んだ彰良の正面に、葵もしゃがむ。
「……敵わないっていうのは分からないけど……」
唇を尖らせて、葵から顔を背ける彰良の頬に優しく両手を添える。
「今の彰良くんは、食べちゃいたいくらいに可愛いっていうのは…………わかるわ」
「っっ?!」
目を見開いて、思わず仰け反り、尻餅をつく。
「彰良くん……?」
「なっ……待っ……?!」
動揺する。
「……いや……?」
「っ………い、や……とかではなくっ!」
……葵に、このまま……?
「っっ……?!」
葵が……柔らかな微笑みを浮かべたまま、彰良へと手を伸ばす。
「ぁ、の……」
微笑みを称える艷やかな唇。
白く細い指先。
黒髪が掛かった首筋。
前屈みだからこそ、余計に目に付くシャツの隙間……その先には……
「……あ、おい……せんぱ、ぃ……」
生唾を飲み込む。
喉が鳴る。
頬が熱くなる。
葵と彰良しかいない……静かなオフィス。
「彰良、くん……」
「あ……」
葵から目を離せない。
身体が……動かない。
「……尻餅を付いたけど、痛くない?」
「………は?」
本気で思考が止まった。
「え……?
結構、勢いよく尻餅を付いたように見えたから……?」
彰良の様子に首を傾げる。
「あれ……顔が真っ赤だし、身体も震えているけど……?
えっ?!
もしかして……風邪でもひいちゃった?!
熱は? 身体きつい?寒くない……?」
「………っ……?!」
心配そうに彰良の額に伸ばされた葵の手。
額に触れた葵の手の感触にビクリと身体を震わせる。
「……熱は……ないみたいだけど……?」
首を傾げる。
「あ、の……葵先輩……」
「ん?
彰良くん、今日は私に付き合わずに先に帰った方が良いわ。
体調が悪くなったら、大変だよ。
私は、自分の借りている部屋の方に帰るか……」
「駄目です……!
風邪なんてひいていませんから、自分は問題ありませんっ……!」
……嘘だ。
一瞬。
一瞬だけ……葵に襲われるかもしれないと、期待したなんて……!
……恥ずかし過ぎて……言えない……!
「早く……早く片付けて、帰りましょうっ!」
誤魔化すように葵を支えて立ち上がる。
葵の持っていた資料を手に持ち、パソコンに向かおうとすれば…………
「彰良くん」
「はい……!」
「それ、営業部の人のクリスマスデート特集の雑誌の束だよ。」
「っ?!」
目を白黒させる彰良。
「……やっぱり……彰良くんは、食べちゃいたいくらいに可愛い人ね。」
「っっ……!!」
慌てていると一目でわかる彰良。
再び可愛いと言われて、泣きそうな顔で照れている彰良に葵は幸せだと微笑むのだった。




