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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第六十一話



 一夜明けた火曜日の朝。


 営業部で今日も葵は、紗夜と有馬のフォローに徹していた。


 ……だが、そんな葵に忍び寄る影。


「ねえ……立花さん」


「はい」


 紗夜と有馬。


 二人が外回りに出ている隙を見て、玲衣が葵に声を掛けた。


「あのさ、もし良かったら……なんだけど……」


「……?」


「君の担当は主任二人。

 そして、佐山くんの担当はそれ以外。

 ……ちょっぴり、佐山くんに比重が重すぎるかなって。」


「それは……私も気になっていました」


「だよね!」


 ニコニコ。


 悪意も何もない。


 何処までも、無邪気な笑みを玲衣は装う。


「だからさ、立花さんは雑用諸々も頑張ってもらえるかな?」


 ……本当は分かっている。


 主任クラスの二人だからこそ。


 一般社員よりも抱えている取引先も多く、重要性も高いことを。


「わかりました。

 私に出来る限りであれば、対応します。」


「……そう、助かるよ」


 疑うことすらしない葵。


 それにすら……苛立つ。


「君って……そういう役回りが得意そうだしね。」


 人の役に立つことが好きならば……精々、命を削って役立てば良い。


 疲れ切って、余裕が無くなれば……女なんて、簡単に本性を出すに決まっている……!


「……ありがとう、ございます……?」


 葵は首を傾げる。


 表面上は普通っぽい……いや、なんか……怒ってる……?


 理由は葵には分からない。


 だが、玲衣に何故か敵意を抱かれている気がした。


「(よく分からないけど…………私は、私に出来る仕事を頑張ろう……)」


 分からない。


 葵は、玲衣のことを理解できるほど……玲衣のことを知らない。


 そして、葵が踏み込んで良い領域とは思えなかった。



 火曜日、水曜日……。


 金曜日のクリスマスに向けて、日にちは静かに。


 そして、慌ただしく過ぎ去っていく。


「あ……ちょうどいい所に。

 ねえ、立花さん。

 この資料なんだけど、棚に順番に並べといてね」


「はい」


 ドサドサっとファイリングされた資料の山を葵の側に積み上げる。


 嫌な顔一つしない葵に、玲衣は内心で鼻を鳴らす。




「立花さん、お願いしていた過去の契約書を閲覧するための申請書類を貰えますか?」


「はい、此方に………あ、れ……?」


 営業部に出向いている立場ゆえに、間借りしている机の一角。


 葵が置いていた筈の申請書類。


 それが見当たらない。


「……すみません、有馬主任。

 すぐに、コピーしてお渡しします。」


「…………ありがとう」


 首を傾げる葵。


 でも、フォーマットは残っているから……すぐに準備できる。


「…………」


 パソコンへと向かう葵を見詰め、有馬が周囲へ視線を走らせる。


 そうすれば、近くのゴミ箱にコーヒーのシミとともに破棄された書類。


「有馬主任?」


「っ…………ごめんなさい、立花さん。

 いつもありがとう。

 貴女のお陰でとても助かっています。」


 迷う。


 しかし、有馬は口を噤んだ。


「…………」


 葵の側を離れ、周囲の人間へと視線を走らせる。


 課長席に座る男の……チラリと見えた口角が上がった瞬間。


「(……質の悪い……)」


 理由は分からない。


 だが……どんな理由があっても、納得はできないと有馬は思うのだった。




 昼休みのチャイムがなると同時に、外回りから帰って来た玲衣と紗夜。


「ただいまぁ」


「戻ったわ。」


 二人が戻ると同時に、昼食へとはけていく営業部の社員達。


「あら……?

 立花さん、貴女は食事に行かないの?」


「あ、お疲れさまです。

 孔雀主任、お帰りなさい。」


 プリントされた書類を、それぞれに纏めてホッチキスで留めていた葵。


「あと、もう少しで終わりそうなので……」


「あ、ごめんねぇ?

 立花さん、その資料さ……使わないことになっちゃったんだ。」


 控えめな笑顔で紗夜に答えていた葵の声に被せるように。


 わざとらしい謝罪を盛り込んだ明るい声音で玲衣が告げた。


「……そうですか。

 では、この資料は裏紙にしておきます。」


 キョトンと。


 使わないのならばしょうがない、と割り切った葵が片付けを始める。


「うん、よろしくね」


 邪気のない笑顔で答える玲衣に、紗夜が眉を寄せる。


「……ちょっと、仕事に私情を持ち込んでんじゃないわよ。」


「え? なんのこと?」


 ニコニコと、変わらぬ笑顔の玲衣に重ねて不服を伝えようとした紗夜。


「そう言えば、さあ……立花さんの彼氏さんだけど……モテモテだね?」


 紗夜の言葉を遮るように、玲衣が話題を変えた。


「……え?」


 急に、玲衣の口から飛び出して来た彰良の話題に、葵は戸惑った表情を浮かべる。


「さっきね、ちょうど犬飼くんだっけ?

 彼、大きいからすごく目立つじゃん。

 とっても可愛い他部署の女の子から、何かプレゼントかなぁ?

 綺麗にラッピングされた物を嬉しそうに受け取っていたよ。」


「……そう、ですか……」


「もうすぐクリスマスだもんねぇ?

 君は、犬飼くんにクリスマスのディナーでも誘われてるの?」


「…………いえ」


 葵を傷付けることが目的の玲衣の言葉の数々。


「課長、それはハラスメントだわ」


「ええっ?!

 ご、ごめんね!

 僕ったら、何か余計なことを言っちゃった?!」


 怒りを込めた紗夜の言葉に、玲衣は大袈裟に驚いて見せる。


「本当にごめんね!

 まさか、立花さんを迎えに来てくれた彼氏くんが、恋人同士のイベントの代表みたいなクリスマスを誘ってないなんて思わなくて!」


 笑顔の下に毒を隠す。


「…………そう、ですよね……」


 葵は、自嘲の笑みを浮かべる。


「犬飼くんは、私なんかにも優しいし……本当にもったいない……」


 格好良くて優しくて、見目麗しい彰良。


 そんな彰良を、他の素敵な女性達が放っておくわけがない。


「ちょっと!

 貴女ね、あの男の彼女でしょう?!

 もう少し自信を持ちなさいよ!」


「そう、ですね……クリスマスプレゼントを贈るくらいなら……良いでしょうか……?」


「…………」


 困ったような笑顔を浮かべた葵に、玲衣は絶句する。


「(いや……コイツが実際にほかの女と一緒にいる犬飼を見てないから、嫉妬したり、騒がないだけだろ……)」


 首を振り、一瞬だけ。


 一瞬だけ……動揺した心を否定する。


 そう……女は、一緒だ。


 一緒の……筈なんだ……!


 無表情になった玲衣を横目に、紗夜は額を押さえる。


「……魚形課長、男の人ってプレゼントに何を貰ったら嬉しいのでしょうか?」


「は?」


 目を剥く。


 この女、何を言っている?


「え……男の人の意見を知りたくて……」


 変なことを聞いたかしら、と首を傾げる葵。


「(コイツ……馬鹿か?!

 明らかに嫌がらせをしている相手に聞く質問じゃないだろ?!)」


 玲衣は頬を引き攣らせる。


「……やめておきなさい。

 コイツは、ものすごーく趣味が悪いから」


「え?」


「はぁっ?!」


 ため息交じりの紗夜の言葉。


 葵は目を瞬かせ、玲衣は思わず素が出てしまう。


「え……そ、うなんですね。

 犬飼くんに嫌われるのは避けたいので……魚形課長、さっきの質問は忘れてください」


「はぁっ?!

 めっちゃ失礼なんだけど?!」


「う……で、では……先ほどの無駄になったホッチキス作業と相殺して、お相子ということでお願いします」


「コイツ、意味わかんないんだけど?!」


「ぶふっ?!」


 葵のペースに巻き込まれ、余裕をなくしている玲衣の言動。


 人を食った笑みばかり浮かべる昼行灯の素顔。


 ギャーギャーと騒ぐ玲衣を前に、紗夜は腹の底から笑いが込み上げるのだった。


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