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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第六十話



 キッチンから美味しそうな香りが漂う。


 ほわほわと花を飛ばしながら、調理の手伝いをする男が一人。


「彰良くん……包丁、上手になったね」


「……そう、でしょうか?」


 猫の手。


 不慣れな手つきではあるものの、ピーマンを切る彰良。


「うん。

 特に、猫の手が可愛いと思うの。」


「……それは……包丁とは、関係ないような……?」


 彰良の答えに、葵は首を傾げる。


 大きな体に見合った、彰良の大きな手。


 そんな大きな手を丸めて……やっぱり、可愛い。


「……可愛いよ?」

 

「……ありがとうございます?」


 嬉しそうに微笑む葵。


 葵が嬉しそうならば良いか、と彰良も微笑む。


「……では、彰良くんが切ってくれたピーマンをフライパンにドサッと。」


「……ドサッ……?」


「そして、キャベツもドサッと。」


「…………緑の山……?」


 フライパンにのったピーマンとキャベツ。


「しんなりしたら、お皿にどん。」


「……どん……?」


「そのまま、豚肉をジュージューします」


「……ジュージュー……?」


 赤かった豚肉が、音を立てて焼けていく。


「豚肉を味付けして……フライパンへ緑の山を、どん!」


「……まさかの逆戻り……」


「っ………ふっ……」


「葵先輩……?」


 可愛い……!

 

 葵の一挙手一投足を、子供のように呟く彰良。


 普段は頼れる彰良の可愛すぎる一面。


「彰良くんは……本当に、可愛い人ね」


「…………そう、ですか……?」


 クスクスと笑う葵に、複雑な気持ちになる。


 彰良も男だ。


 出来れば、好きな女性には格好いいと思われたい。


「(……格好いいと思われたい……が、個人的に格好悪いと思う姿も、葵先輩にとっては格好いい……。)」


 ……困る。


「……葵先輩、自分も男なので……好きな女性の前では、どちらかと言えば……格好いい思われたいのですが……」


「うん……?

 大丈夫よ、彰良くん。

 彰良くんは、可愛くて格好良くて、可愛いから最強だと思うの」


「…………」


 可愛って二回言った……。


 ニコニコと楽しそうな葵に力が抜ける。


「…………ありがとうございます……。

 自分よりも、葵先輩の方が可愛いと思います。」


「そう、かな……?

 私は、彰良くんの可愛さに勝てる人はいないと思うけど……?」


「…………」


 微妙な気持ちになる。


「さて……そんなこんなで、お夕飯が出来上がりました。」


「…………はい」


「今日は、回鍋肉と中華スープ、インゲンの胡麻和えです。」


 出来上がった料理を食卓へ運べば、美味しそうな香りと共に湯気が立つ。


「「いただきます」」


 二人一緒に食べ始めれば、彰良の心が温かさで満たされて行く。


 しばし無言で料理を口に運べば。


 そんな彰良を葵が柔らかな瞳で、幸せそうに見詰める。


「……今日も温かくて……美味しい、です。」


「うん。

 彰良くんが頑張ってピーマンを切ってくれたから美味しいね。」


「……自分の成果ではありません。

 葵先輩が料理を美味しく、温かくしてくれています。」


 微笑み合う。


 彰良は心から葵と共にあれる幸せを噛み締めるのだった。




 夕食の片付けまで終わり、シャワーを浴びた二人。


 あとは、眠るまでの一時をゆっくりと過ごしていたとき……


「………?」


 葵のスマホがメッセージを知らせた。


「…………もう、そんな時期ね」


 思わず笑みが溢れる。


 スマホの画面に表示された文章。


「葵先輩……?」


 珍しくスマホを触ったと思えば、葵の顔に浮かんだ微笑み。


「ふふ……何でもないの」


 楽しそうに。


 嬉しそうに微笑む葵に、彰良の心がざわつく。


「……誰から、ですか……?」


 ……こういう所が格好悪い。


 葵のスマホに届いたメッセージ。


 余裕のある男ならば、きっと気にしない些細なこと。


「……?」


 葵をジッと見詰める彰良の眼差し。


「…………」


 なんとなく……葵も、彰良を見つめ返す。


 そして、葵が彰良の立場ならば……と、考えてみた。


 比べることは可笑しいかもしれないが……。


 少なくとも、葵は彰良の幼馴染という存在に出会ったことは衝撃だった。


「……中学まで、一緒だった……家も近かった同級生からだよ。」


「……同級生?」


「毎年ね……お互いの生存確認じゃないけど、大晦日は一緒に過ごしている人達なの。」


 今年も……元気だったかな?


「大晦日を、ですか……」


 目を丸くする。


 失礼かもしれないが、葵にそんな存在がいたとは思わなかった。


「仲の良い友人ということですね」


「友人……友達ってことよね……?」


 彰良の言った"友人"という単語に首を傾げる。


「……友人……なのかな……?」


「いや、それは……自分には判断できませんが……?」


 そこ、なのか。


 友人、という部分に首を傾げる葵。


 だが、友人かどうか分からない関係ってなんだ……?


「……何時からだったかなぁ……?

 私が……一人暮らしを始めた頃くらいから?

 大晦日に一緒に過ごす……一緒にって言っても、大した会話は無いし……好きに過ごしている感じかな?

 気が付いたら一緒にごろ寝して、目が覚めたらご飯を食べたりして……気が向いたらもう一晩?」


「……不思議な、関係なんですね」


「んー?

 (りゅう)さんも、(おに)さんも、面白い生き物だよ。」


「生き物……という表現がまた……っ?!」


 龍さん、鬼さん?!


「待って下さい。

 まさかとは思いますが……男ですか?!」


「え……女だよ?」


「そ、そうですか……」


 胸を撫で下ろす。


「ああ、でも……」


「でも?」


「恋人が出来たって教えてないのに、鬼さんったらもう知ってるの相変わらずね。」


「は?」


 目を瞬かせる。


「昔からね、私が伝える前に色々と知ってるから……いつも不思議なのよねぇ……」


「それは……大丈夫な案件ですか……?」


 まさか、盗聴器や盗撮の類……?


「あ……また、メッセージ……うん、彰良くん」


「……はい」


「よく分からないけど、鬼さんがね『盗聴器や盗撮の類では無いから安心して下さいね』って。」


「っ?!」


 背筋に寒気が走る。


「あれ……また『大晦日に会える日を楽しみにしています。女難の相が出でいるからお気を付けて。』だって……」


「……あの、葵先輩……」


「……ん?

 鬼さんは、知る人ぞ知る有名な占い師さんをやってるらしいよ」


「そ、そうですか……」


 頬が引き攣る。


「あ、でも……私的には、龍さんの方が彰良くんと会った時に心配かも……」


「え……?」


 鬼さんとやら以上のファーストインパクトがあるとっ?!


「龍さんが、彰良くんに解剖させてって言わないか心配なの。

 彰良くん、絶対に頷いちゃ駄目だからね。」


「頷きません!」


 ……意味が分からない!

 

 葵の友人……友人なのか?


 不思議過ぎて理解できない。


「……?」


 頭を抱える彰良に、葵は首を傾げる。


「龍さんも、鬼さんも……良い人達よ?」


「…………そ、うですか……」


 大晦日の夜が、一気に不安になった彰良だった。


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