表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
57/100

第五十七話



 営業部のフォローへと駆り出された葵と佐山。


 慌ただしかった初日一日目が、やっと終わる。


「おやおや、今日は何だか仕事の進み具合が早かったねえ?」


 間延びした声で背伸びした玲衣の声に重なるように、終業のチャイムが鳴る。


「十二月に入って、この時間帯に営業部の業務が片付いているのって……初めてじゃないかな?」


「……確かに。

 今日は、色々と仕事の処理速度が全体的に速かったです。」


 玲衣の呟きを拾った有馬が、同意を示した。


「さてさて……皆さーん、今日もお疲れさまでした。

 久々に早めの時間だし、帰れる子はさっさと帰るんだよー」


 終業のチャイムに合わせた課長としての玲衣の一言。


 その声に背中を押されるように、明るい笑顔で営業部の社員達が帰り支度を始めた。


「あ、立花さんと佐山くんも、お疲れさま。

 いやぁ、今日は本当に助かったよ。

 ……ほら、すずめさんもお礼を言って!」


「何で私なのよ!」


 いつものノリの玲衣に紗夜がツッコむ。


「でも……まあ、お礼は言ってあげるわよ。

 貴女達のおかげで、他の営業部の社員達が……その、定時で帰れるし。」


 お礼と言いつつ、そっぽを向く紗夜に葵と佐山は苦笑する。


「……お役に立てて良かったです」


 ふわりと微笑む葵を、目を細めてジッと見詰める玲衣。


「立花さんって……人の役に立つのが嬉しいの?」


「……?」


「なんかさ……見返りなんて必要は無いって人畜無害な顔をしてて……」


 すごく苛立つんだけど。


 その一言は、玲衣の喉元で止まる。


 営業部に来た葵の一日を観察していた中で。


 葵は自分ではなく、どうでもいい他人が仕事をしやすいように。


 そればかりを考えて動いているように見えた葵。


「(……理解できない……意味わかんない。)」


 玲衣から見て、女のくせに謎過ぎる葵の行動原理。


「………………ほんと、腹立つ……」


「ちょっと……魚形……!」


 低く呟いた玲衣の一言は、紗夜の耳にだけ届いた。


 思わず咎めようとした紗夜の視界に、昏い光を宿した玲衣の瞳が映る。


「っ……」


 紗夜の背中がゾクリと粟立つ。


「あ、そうだ!

 折角、営業部に来てくれた二人を歓迎する意味で、一緒にご飯に行かない?

 ……僕、美味しいお店を知ってるよ〜?」


 一瞬だけ。


 一瞬で消え去った玲衣の昏い光。


「……そうね……」


 紗夜は、腕を擦る。


 鳥肌が立っていることを誤魔化すように。


「……あー……有馬主任が一緒なら」


「私は、佐山くんが一緒ならば。」


 佐山と有馬。


 恋人同士の二人は、お互いが参加するならばと頷く。


「……立花さんは?」


「私は……」


「すずめさんも来るし、佐山くん達も来るから……参加できるかなぁ……?」


 ニコニコと。


 一見すれば無邪気な玲衣の誘い。


「っ……」


 穏やかな眼差し。


 ……だが、葵には玲衣の目に温度が宿っていないように見えた。


「(……やっぱり……なんか、やだ……)」


 身体が硬くなる。


 心が竦む。


 優しげに見える玲衣が、葵には恐ろしく見えた。


「その……私、は……」


 迷う。


 でも……流れ的には、断れない。


 ……いや、だけど……しょうがない。


「私も、さん……」


「葵先輩」


 営業部の入口。


「っ?!」


 葵の肩が跳ねる。


 他の人間の視線も、声の方に向かう。


「葵先輩、迎えに来ました。」


 静かに営業部の中へ入って来る彰良。


「あ……犬飼、くん」


「はい」


 ホッとする。


 心に安堵が広がる。


「あれれ?

 えっーと、君は誰かな?」


「……初めまして、総務の犬飼です。」


 慇懃無礼。


 静かな声音と簡潔な自己紹介。


「そっかぁ……初めまして。

 僕は営業部課長の魚形だよ。」


 へぇ……コイツが。


 目を細め、笑みの形を象った唇の広角を上げる。


「……葵先輩、帰りましょう。」


 甘い声音と顔。


 甘い光で獲物を誘い。


 隠していた牙で獲物に喰らいつく深海魚。


「(…………面倒な……)」


 あの文化ホールにいた男だけでも、面倒極まりないというのに。


 ……身近にも潜んでいた厄介者に、彰良の眉間にシワが寄る。


「あ、えっと……」


「葵先輩?」


 戸惑った葵の雰囲気。


 目の前の厄介者に向けていた思考を止め、彰良は首を傾げる。


「ねえ……君にはさ、申し訳ないんだけど……この二人の歓迎会を開こうかなって。」


 表面上は邪気のない笑み。


「だって、ねぇ?

 僕は、被害者である君を……うちの孔雀主任に近付ける理由(わけ)には行かないからさ。」


 細まる瞳。

 

 弱い獲物で遊ぶ(シャチ)のように。


「ちょっと!

 私を出汁に使わないでちょうだいっ!」


 紗夜が叫ぶ。


「…………」


 真正面から玲衣の視線を受けて立つ彰良。


 お互いに逸らさない視線。


「……申し訳ありませんが」


 底冷えする彰良の視線が、唯一人……玲衣に向けられる。


「葵先輩は朝から体調が悪かったもので。

 飲み会に参加することは、お受け致しかねます。」


「えー?

 朝から普通に元気そうに見えたけどなぁ?

 それに……判断するのは立花さん自身であって、君じゃないよね?」


 絶対零度。


「葵先輩は他者を慮って、すぐに無理をする人です。

 そのため、どんなに体調が悪かろうとも無理をする困った性質があります。」


「へえ……?

 じゃあ、僕が総務から彼女をお預かりしている営業部の責任者として、自宅まで送り届けようかな?」


 無表情と笑顔。


 火花が散る。


「それには及びません。

 ……自分は、葵先輩と同じ家に住んでいますので。」


「犬飼くんっ?!」


 顔を赤く染めた葵の叫び。


「なっ、なにを……?!」


「……心の準備が整う前に、言葉にしてしまって申し訳ありません。」


 彰良の背広を掴んで、動揺する葵に頭を下げる。


「……ふぅん?」


「一昨日から一緒に住み始めたばかりですが。

 そのため、まだ会社には住所変更等の手続きはしていません。」


 明らかに信じていない玲衣へ、彰良は先手を打つ。


「では、自分たちはこれで。

 ……葵先輩、行きましょう。」


「え、えっと……う、うん?」


 彰良の背広を掴んでいた葵の手。


 流れるように彰良は、葵の手を握って帰ろうと踵を返す。


「……す、すみません……お先に失礼します」


 慌てて魚形達に一礼する葵。


「……立花さん」


 その背中に、玲衣が声を掛けた。


「また、明日ね……」


 ニコリと微笑み、片手を振る。


「あ……はい」


「失礼します」


 葵への言葉を遮るように。


 彰良は、葵を連れ出すように二人で帰路に着くのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ