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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第五十四話



 いつも通りの平和……恐らく、平和な総務課の朝。


 平和なはずなのに、朝から既に何処となく疲れた様子の煤けた彰良。


 ……それもまた、通常運転なのかもしれない。


「本当に……華乃ちゃんの記憶違いで良かった……」


「不安にさせちゃって、すみません……。

 ……私ったら、ドジですね……」


 しょんぼりと落ち込んだ華乃。


「ドジしちゃうことって、誰にでもあると思うの。

 普段から、華乃ちゃんは頑張り屋さんだものね。

 先週の金曜日も……私が迷惑を掛けちゃったし、頼ってばかりでごめんね……」


「ありがとうございます、葵先輩!

 でも、葵先輩はいつも優しくお仕事を教えてくれますし……。

 私が分からないことって、ぜーんぶ葵先輩は把握されてるから凄いなって……!

 いつか、私も葵先輩みたいな素敵な先輩になれるように頑張りたいって思っています!」


「華乃ちゃん……ありがとう……!」


 両手を繋ぎ合い。


 頬を染め合い。


 お互いの気持ちを伝え合う。


 事情を知らないものが葵と華乃を見れば、麗しい先輩と後輩の師弟愛。


 もしくは、乱れ咲く美しい百合の園。


「…………」


「あれれ?

 犬飼さんってば、すごい顔をされていますけど……まだ体調が悪いんですかぁ?」


「……体調に問題はありません。

 兼子さん……人の恋路を邪魔するやつは馬に蹴られるという言葉をご存知ですか?」


 ジトッとした眼差しを華乃へと送る彰良。


「えー?

 私、誰かの恋路を邪魔したことは有りませんよ?

 ……犬飼さんに邪魔されたことなら、有りますけど!」


「そんな覚えは、小指の甘皮ほども有りませんが?」


「うっそ?!

 その年齢(とし)で物忘れですかっ?!

 うっわ、若年性アルツハイマーって奴ですか?

 もう、病院で診断は受けました?」


「人を若ボケ扱いするな……!

 ……常々思っていたが、兼子さんとはしっかりと話をするべきでしょうか?」


 あー言えば、こー言う。


 彰良は苛立ちに、ふるふると拳を震わせる。


「え、やだ。

 恋人がいるのに他の(おんな)と二人っきりになりたいとか……やばっ!

 それにぃ、私ってば、犬飼さんに異性としての魅力なんてミクロ単位も感じないし。

 ぶっちゃけ、二人っきりで愛を育みたいなら、佐山先輩と二人で薔薇の園でも展開したらどうですかぁ?」


「誰がっ、いつ!

 貴様と二人っきりになりたいなどと言ったっ………!

 第一、葵先輩以外の女に興味などないっ……!」


 本当っに、この性悪女はっ……!


 葵の手前、あまり言葉を荒げたくない彰良。


 心の中で吹き荒れる怒りの嵐に耐え忍ぶ。


「華乃ちゃん、犬飼くん」


「はーい!」


「はい」


 二人の微笑ましいやり取りを暖かく見守っていた葵。


「……犬飼くんと佐山さんの二人で展開する、薔薇の園って……なあに?」


「「…………」」


 小首を傾げて、心底不思議そうな瞳を彰良と華乃へと向ける葵。


 彰良と華乃の間に沈黙が広がる。


「犬飼くんと佐山さんの二人で、薔薇園にでも行くの?

 あ、でも……展開する、だから……薔薇を育てるの?」


「葵先輩……ある意味では当たっています。

 男同士で恋愛感情を育て、深める関係のことを薔薇って言うんです!」


「ばっ?! なっにを?!」


 めっちゃいい笑顔と青褪めた顔。


 黙って見守っていた総務課の面々が、揃って白目を剥いた。


「…………お、とこ……どう、し……?」


 葵の脳裏に蘇る、狐川 凛という彰良の幼馴染……恐らく男の言葉。



『彰良くんってば、性欲が強めだし、体力が有り余ってるから』


『あんなにも熱い、素敵な夜を何度も過ごした仲』


『性欲の発散にも付き合ったのにぃ……』


 

 最後に凛と言葉を交わした公園の東屋。


 彰良が"御曹司"というパワーワードで、すっかりポンと忘れていた疑問が蘇った。


 ……そう、金曜日の夜。


 シャワーを浴びながら、何かを忘れていると思ったのは……この事だったのだ。


「……彰良くんの……恋愛対象は、同性……男、だった……?」


「葵先輩っ?!」


 凄まじい風評被害と勘違いの嵐。


「え……いや、でも……え?」


 動揺する。


 人前にも関わらず彰良の名字ではなく、名前を呼んでしまうほどに。


「葵先輩っ!

 違いますから!

 俺の恋愛対象は葵先輩だけですからっっ!!」


「え……ごめんね、私……女だよ……?」


「そこじゃないっ!

 性別の話じゃな……いや、性別の話でも有りますがっ!」


「え……でも、狐川さんも……男で……何度も素敵な熱い夜で、二人の愛を育んで、たくさんベッドで性欲発散に付き合ったとか……言ってたような……?」


 葵の中で微妙に記憶が混ざり、背びれ尾びれが増えてしまっていた。


「してませんっ!

 葵先輩以外に勃ちませんっっ!!」


 ――朝から何を暴露してんの?!


 彰良の叫びに、総務課一同の心の叫び。


「いや、アンタは朝から何を馬鹿なことを言ってんの?」


 ――マジそれなっっ! でも、お前も諸悪の根源の一人だから!


 総務課一同、心の中で華乃へもツッコむ。


「……おいおい、朝から元気だねぇ?

 え、何この状況……てーか、何で犬飼くんはマジ泣き十秒前?」


 そんな平和で、混沌とした総務課へ、欠伸をしながら総務課課長の吉村が現れた。


「あー……帰ってもいい?」


『駄目に決まってます!

 この空気を何とかしてくださいっ!』


 総務課一同、心の叫び……と言いつつ、お口から飛び出し大合唱。


 今こそ、課長という名の救いのヒーローの、上司力を遺憾無く発揮して欲しいと総務課一同は願った。


「なんつーか……まぁ、何だ……うん。

 就業開始の時刻になったから、みんなお仕事頑張ろうなあ……?

 あと、悪いんだが……佐山くんと立花さんは、ちょいと来てくれるかい?」


 頭を掻きながら、吉村は佐山と葵に声を掛ける。


 名指しされた二人は、首を傾げつつも吉村に連れられて小会議室へと移動するのだった。


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