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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第五十三話



 真冬の月曜日の朝。


 吐息も真っ白になる季節。


「あの……彰良くん……」


 戸惑った声音。


 困惑した表情。


「何か……?」


 首を傾げる。


「……えっと……」


 彰良と葵。


 二人で出勤する、その道中。


 会社の近くにある、いつもの駐車場に車を停めた彰良。


 何方ともなく……触れ合った指先、重なった手。


「……この、マフラーは……ちょっと……」


 葵の華奢な首元を覆う……男物の厚手のマフラー。


「……何故ですか?」


「う……だって、一目で男物って分かるよ?

 女の私が巻いてたら、変に思われちゃうよ……?」


 会社に向かって歩きながら、葵は恥ずかしそうに視線を落とす。


「……問題ないかと。

 恋人に借りたのだ、と推測して終わりです。」


「……そうかも……だけど……」


 何の問題も無いと断言する彰良に、歯切れの悪い反応を葵は返す。


「…………困る、の……」


「困る、ですか……?」


 顔を俯かせ、耳を赤く染めた葵の言葉。


 葵の"困る"という意味がピンと来ない。


 彰良のマフラーを巻いた葵。


 男物のマフラーを女性が巻いている。


 彰良にとっては、視覚的にも、葵には恋人が居るのだと主張できる素晴らしい策だと思うのだが……?


「……彰良くんの……匂いがするから、心臓がドキドキして……困る、の……」


「っっ……?!」


 胸を押さえる。


 凄まじい衝撃が走った気がした。


 え……?

 

 彰良の匂いがして、ドキドキするから困る……?


「……葵先輩。

 やはり、今日は有給を取りましょう。」


「えっ?!」


 外で無ければ引き寄せて、抱き締めたのに……!


「少なくとも、年が明ける頃……いや、春になるくらいまで……?

 気が済むまで、二人でゆっくりと過ごしませ、ぐふっ?!」


「月曜日の朝から血迷ったこと言ってんじゃないわよっ!

 この万年発情期のクソ犬っ!!」


 彰良の背後。


 音もなく忍び寄った華乃の麗しい拳が、彰良の脇腹に炸裂した。


「彰良くんっ……えっ、ちょっ……急に大丈夫?!」


 葵の死角から放たれた華乃の一撃。


 葵には、急に彰良が苦しみだしたように見えた。


「おっはようございます、葵先輩!

 今日も麗しい葵先輩の笑顔に、私ったらキュンキュンしちゃいますっ!」


「お、おはよう、華乃ちゃんっ!

 あの、急に彰良くんが苦しみだして……!

 こないだの金曜日も急に痛みが襲ってきたみたいだし……!

 何か、悪い病気かも……!」


 動揺する葵。


「葵先輩……私、この病気……わかるかも、です」


「えっ……?!」


 彰良の身を真剣に案じる葵へ、華乃が真面目な表情で答える。


「……男の人って……女と違ってエッチしすぎると、生命力を消費しすぎて……急に、苦しみ出すらしいです……」


「そ、そんな……!」


 衝撃を受ける。


 週末の爛れた彰良との行為の数々。


 彰良が苦しんでいるのは……葵と……情を交わしたから……?


「っ……ちがっ…………いっ?!」


 華乃の言葉を否定しようとした瞬間。


 再び、葵に見えないように配慮した華乃が、渾身の力で彰良を抓った。


「彰良くん?!」


 またしても、腕の辺りを押さえながら痛みに悶える彰良。


 葵の悲痛な声。


「……葵先輩……こんなにも痛がっている犬飼さんに無理はさせられません。

 しばらくは、生命力を回復させることが出来るように、キスも含めて……いえ、触れることも控えた方が良いかも……」


「そ、そうね……寂しいけど、彰良くんのためだもの。

 ……彰良くんが、痛かったり、苦しいのは、私も悲しいから……」


 気が付かなくて、ごめんね……と三歩離れた距離で、葵が呟く。


「……はんっ!」


 葵の背後で、悪魔の微笑みを浮かべた華乃が鼻で嗤う。


 彰良には、悪魔の羽や尻尾が確かに見えた。


「葵先輩!

 犬飼さんに対して、恋心なんて微塵も持つ可能性がゼロ以下どころかマイナスぶっちぎり!

 葵先輩に一番可愛がられている後輩であり、未来の義妹である私が!

 責任持って犬飼さんを運びます(ひきずります)!」


「華乃ちゃん……いつも、ありがとう。

 私が触っちゃ駄目だから……迷惑を掛けて、ごめんね……」


「大好きな葵先輩ためですから!」


 輝く満面の笑み。


「待っ、葵先輩?!」


「彰良くんも……無理をさせてごめんね……。

 男の人に、そんな事情があることも知らなくて…………今度から気を付けるね。」


「ちがっ……!」


 何処までも、彰良を思い遣る葵の困惑した微笑み。


 ……彰良と五歩は離れた位置からの微笑みに、泣きたくなる。


「えっと……先に行った方が良いのかな……?」


 寂しいけど、彰良の生命力を守るために先に行こうとする葵。


「待ってください……!

 俺の話を聞いてっ…………!」


 必死に追い縋ろうとする彰良。


「クソ犬の泣き顔、ちょーウケる!」


 心から楽しそうな華乃。


 ドタバタと。


 いつもの三人らしい空気で、会社のエントランスに入って行くのだった。


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