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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第五十一話



 横笛と鼓の音が止む。


 世界に静寂が戻る。


「……」


 一礼して舞台から降りようと歩みを進める葵。


 ……その目の前に……


「葵先輩」


 差し出される手。


 葵のただ一人の帰る場所。


「っ……彰良、くん……!」


 泣きそうな顔で微笑む。


 重なる手に安堵する。


「彰良くんっ…………ごめっ……」


「……その話は、後にしましょう。」


 優雅に……たが、衆目の面前で見せ付けるように、葵を引き寄せる。


「葵先輩のお母様より許可は頂いています。」


 引き寄せた葵の髪に口付ける。


「……今すぐに、この悪趣味な会場から離れましょう。」


 葵越しの向こう側。


 名前も知らない男が、葵を視界に捉えている。


 ……その目が、心底……気に食わない。

 

「うん……」


 微かに震える指先が、彰良の服を掴む。


「…………」


 彰良が名前も知らない……その男。


 言葉を交わす必要もない。


 お互いが、お互いに相容れないと理解する。


 ――それは、まるで……鏡写しのように。


 引き留められることもなく。


 彰良と葵は、文化ホールを後にするのだった。





 文化ホールの駐車場から一台の車が発車する。


「……葵先輩……」


 助手席に座る葵へ、チラリと視線を向ける。


「…………」


 俯いて静かな葵の手が、微かに震えるほどにきつく着物を握り締めている。


「……あの……」


「……嫌な思いを、させて……ごめんなさい……」


 絞り出すような……悲しみに満ちた声。


「葵先輩のせいでは有りません。」


「でも……」


「……葵先輩のお母様のせいでも有りません。」


 静かな声音。


 この御時世に、代役選びと花嫁えらびを両立させる神経に嫌悪しているが。


「……っ」


 彰良の静かな声に、葵は泣きたくなる。


「……き、きらいに……なった……?」


 小さな声。


「っ?!」


 彰良は目を見開く。


 急ブレーキを踏みそうになった足を、理性で押し留めた。


「葵先輩、何故……そんな結論に?」


 彰良が、葵を嫌いになる。


 その結論が、その思考過程が理解できない。


 ……安全を確保し、じっくりと話を聞く必要がある。


「うっ……し、らなかったけど……彰良くんが、嫌がることをしちゃった……から……」


 だから、ごめんなさい……と、体を小さくして答える葵に目眩がする。


 コンビニの駐車場に車を停めた彰良は、葵に顔を向けた。


「葵先輩」


「っ……」


 涙を堪えるように、噛み締めた唇。


「……葵先輩も……嫌だったから、俺に助けを求めてくれたんでしょう?

 嫌で堪らなくて、切羽詰まって打ったとしか思えないメッセージでした。」


「…………ぅん」


 大粒の涙が溢れ始める。


「嫌だった……選ばれないって分かってるけど…………彰良くんっ……に、申しわけ……無くて……!」


 震える体を抱き寄せる。


 車では無かったら……しっかりと抱き締められるのに、その距離がもどかしい。


「分かってます。

 葵先輩の気持ちは、痛いほどに伝わっていますから。」


 悲しみに暮れる瞳から流れ落ちる涙を、彰良はハンカチで優しく拭う。


「……俺が、葵先輩を嫌いになるなど……世界が滅んでも有り得ません。

 …………逆に、俺の方が……その、格好の悪い姿ばかり晒していますので…………」


 言えない。


 何時か、葵に呆れられて捨てられないか不安で堪らない、など……。


「……?」


 目を瞬かせる。


「……格好悪い……?

 彰良くんが、格好悪いときって見たことない気が……?

 あれ……かな?

 紫苑お兄ちゃんのことを勘違いしたり、誕生日のケーキで泣いちゃった……」


 パチパチと。


 瞬きする度に溢れる涙。


 心から不思議そうな葵の眼差し。


「葵先輩、それは是非とも忘れてください。」


「え、やだ……格好良いもん」


「っ……」


 羞恥と愛しさ。


 色んな感情が混ざって、顔に熱が集まる。


「……だから……葵先輩には、敵わないんですよ……!」


 腕で顔を隠す。


 これ以上、この話題には触れるべきではない。


 ……彰良の羞恥心が上限突破してしまう。


 話題を変えるべきだ。


「…………葵先輩……お腹、空きませんか?」


「え……あ、そう言えば……もうすぐお昼ね。」


 色々と有ったせいで、時間の感覚がなくなっていた。


「折角、コンビニの駐車場に止めましたので。

 葵先輩、肉まんはお好きですよね?

 俺と半分こして……全種類制覇しませんか?」


「え……そんな贅沢、良いのかな……?」


 彰良の提案に、葵の心が浮上する。


 たった一個でも滅多に買わないのに……!


 微妙に高い肉まんも有るのに……!


 いつも買うときは迷うのに……!


 それを……全制覇?!


「(……嘘だろ……コンビニの肉まんを全種類食べれるだけで、目がキラキラして可愛すぎるんだが……。

 全制覇くらいで、こんなに喜んでくれるなら……百個でも、二百個でも買う)」


 瞳を輝かせる葵の可愛らしさに、内心で悶える。


「……カフェラテなども……買いましょうか……?」


「えっ?!

 そ、それは……贅沢過ぎる、のでは……ないか、と……」


 あまりの贅沢に、葵の目がグルグル回る。


「……俺が飲みたいので、付き合って貰えると有難いのですが……?」


「あ、あぅ……で、でも……」


「……ね?」


「……うん」


 戸惑いながらも、彰良の提案を受け入れた葵。


 コンビニで肉まんと珈琲を二人仲良く手に入れれば……


「……彰良くん、美味しいね。」


「……はい」


 幸せそうに肉まんを頬張る葵の姿が車内にあった。


 そして、そんな葵を幸せそうに見詰める彰良の姿もあったことは言うまでもない。


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