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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第五十話



 一人舞台の上に立つことになった葵。


 客席に並ぶ日本舞踊の関係者たち。


「(……彰良くん……)」


 瞳を伏せる。


 知らなかったとはいえ、お見合い会場に来てしまった葵。


「(……怒ってるかな……?)」


 ずっと一緒だ、と想いを重ね合ったばかり葵と彰良。


 それなのに……自分は何をしているのだろうと、葵は己を責める。


「…………」


 日本舞踊は、舞うのは嫌いではない。


 ……でも、人前で踊るのも……品定めされるような視線を向けられるのは、心底嫌いだった。


 ――――心が沈む……だが、一瞬……誰かに呼ばれた気がした。


「…………」


 呼び声に応えるように、伏せていた瞳を上げる。


「(彰良くん……!)」


 視線が交わる。


 必死な……葵を案じる、耐えるような顔。


「………っ」


 心に安堵が広がる。


 泣きそうになる。


 来てくれたことに、喜びが満ちる。


 悲しみと喜び。


 安堵と不安。


 入り混じって。


 それでも……葵は、舞台から一番遠い……会場の入口に立つ彰良へ微笑む。


「…………」


 娘鹿子道成寺。


 録音された横笛や鼓の音が響き出す。


「っ……」


 一つ深呼吸をする。


 客席に見える日本舞踊の関係者など知らない。


 そんな人達の視線よりも、葵はただ……彰良のことだけを胸に秘め、舞い始めるのだった。





 横笛や鼓の音が流れ始める。


 舞台の上。


 艶やかな一輪の花が咲き誇る。


「…………」


 葵の舞いに魅了される。


 赤くなった顔を隠すように、口元に手を当てる。


「(……これ、は……凄い……いや、凄まじい……?)」


 激情を秘めた瞳。


 白い首筋に掛かる黒髪。


 指先まで伸びた淑やかな肢体。


 艶っぽい口元に浮かぶ微かな笑み。


 翻る灰桜の着物は、まるで満開の桜の如し。


「……娘鹿子道成寺……」


「……?」


 撫子が呟きを落とす。


「……前半は、蛹が孵化して蝶になるように。

 少女から女へ花開いた乙女の恋と美しさ……そして、男を求める妖艶さ。

 後半は、愛した男に裏切られたと思い込んだ清姫が大蛇となり、恋した男である安珍を鐘に閉じ込めて焼き殺す。」


 目を細める。


 ……だから、葵にこの演目を舞わせたくなかった……!


「……あの娘が二十歳になる直前だったかしら……?

 あの頃は、次男の紫苑がよく公演の代役に選ばれることが多くて……。」


 あれは、運の悪い事故のような……偶然だった。


「紫苑の見様見真似で……舞ってしまった、あの娘の娘鹿子道成寺。

 ……それを見た次期家元、若様が……あの娘の舞いに魅了されてしまった……!」


「それ、は……」


「あの娘が私くらいの太々しさがあれば良かったのだけど……。

 男性不審なあの娘と……独占欲と執着質極まりない、日本舞踊馬鹿で、芸術家器質の若様は相性が悪すぎるのよ。」


「……………」


 ちょっとだけ彰良の心にも刺さる。


「あの娘自身を愛して求めているならば、一億歩譲って認めたかもしれないけれど……。

 ……いや、やっぱり死ぬほど嫌だわ。

 あの執着質半端ない家元と親戚になった挙句の果てに、宗玄さんと私の可愛い一人娘の産んだ子に、アイツの血が混ざるとか去勢案件だわ。」


「っ?!」


 淑やかな顔で何か凄いことを聞かされた気がしたのだった。





 客席に並ぶ日本舞踊の関係者達。


 生唾を飲み込んだのは、一人では無かった。


「…………」


 関係者席に座る一人の男。


「……若様」


 質の良い和服に身を包んだ撫で肩。


 細身の190cm近い長身と、スラリと伸びた四肢。


 色素の薄い髪を撫でつけた優しげな顔立ち。


 ……だが、見る人には分かる爬虫類を思わせる冷たい瞳。


「…………」


 飲み物を差し出す付き人に、意識すら向けない。


「…………」


 ただ、ただ……舞い踊る葵だけを見詰める。


 ――舞が終わる。


「…………」


 感嘆のため息。


 深く吐き出す。


「…………舞が、変わりましたね」


 呟く。


「壊れかけた舞も美しかった。

 ……ですが、男に身も心も愛され、男を受け入れる歓びを知った、今の舞は尚……美しい。」


 恍惚の笑み。


「花開く歓びを教えたのが、私では無いことは残念ですが……。

 しかし、私の手元に置かない理由には、なりはしない。」


「……若様」


 立ち上がる。


「父上」


「……ふむ」


 日本を代表する日本舞踊の三流派の一つ。


 巳堂流次期家元、巳堂 巽。


「よろしいですか?」


「構わない。

 流石は……撫子さんの血を継ぐ御息女だ。」


 うっそりと微笑む。


 激情を秘め、才能溢れる……巽を魅了してやまない美しき舞い手。


 舞台袖から降りる女を迎えに行こうとした巽よりも、先に動いた影があった。


「……あの者は……?」


 見詰める。


 泣きそうな微笑みを浮かべた女の手を取る男。


「(あゝ……あの男が、花開かせたのか。)」


 比翼の鳥。


 連理の枝。


「(ですが……諦める理由にはなりませんね)」


 恋を引き裂かれ、涙する(あおい)の舞も格別な美しさだろう。


「…………」


 微笑む。


 美しい舞を心ゆくまで堪能し、愛でる。


 巽の心は、美しく艶を孕んだ舞いに魅了されているのだった。


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