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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第四十五話



 ソファのクッションに顔を埋める葵。


 微かに震える体。


 隠すことが出来ない耳や首筋は、羞恥に染まっている。


「…………っ……!」


 部屋着から覗く、葵の白い足。


 部屋着の隙間から覗く背中。


 今は見えないが、葵の胸元。


 あちらこちらに散った赤い鬱血痕(キスマーク)


「…………その……激しくヤりすぎました。

 申し訳ないのですが……その一言に尽きるかと……」


 気不味そうに。


 視線を逸らしつつ、葵の体調不良について説明した彰良。


 その頬も微かに赤く染まっている。


「っっ……!」


 まさかの真実に悶える。


 しかも、それを年下の彰良に口頭で説明させてしまった気不味さ。


「あき、らくん……ごめんなさい……」


「いえ……その、葵先輩らしいと思います……」


 苦笑いの彰良の一言に撃沈する。


「葵先輩、喉も痛いでしょうし、体もきついでしょう?

 今日は、俺が葵先輩を抱き上げて移動します。」


「そんな……大袈裟だよ?

 要するに、筋肉痛ってことでしょう?

 だったら、ちょっとずつ動けば平気……」


 クッションに顔を埋め、彰良に背中を向けている葵。


 その葵の背中に影が差し、ソファがギシリと沈む。


「……?」


 ソファの振動を不思議に思った葵が、顔を上げれば…………端正な彰良の顔が近くにあった。


「葵先輩」


「……あき、らくん……?

 なんか……雰囲気が……変な、気が……?」


 彰良が覆い被さるように、葵を腕の中に閉じ込める。


「葵先輩がきついのは、全部……俺の責任です。

 頑張って俺を受け入れてくれたから……」


「っ……ぇ、でも……あき、んんっ」


 彰良が葵の項に口付ける。


「……ね?

 葵先輩……俺に、葵先輩の看病をする権利をくれませんか……?」


「わかっ……!

 あ、や……わかったから!

 だから……も、やぁ……!」


 項から背中へ。


 滑っていく口付けに、葵の背筋がゾクゾクと震える。


「…………分かって貰えて嬉しいです……!」


 彰良の希望を受け入れた葵に、うっとりと微笑む。


「(…………葵先輩の様子から……俺への拒絶反応は、無い。

 だが……恐らく、俺以外の男への拒絶反応は残っている可能性が高い。)」


 口角が上がる。


 葵が拒絶反応を示さない唯一無二の存在になれたことを実感する。


 それは……なんと甘美で、幸福に満ちたことだろう……!


「…………あきらくんの……ばか……」


 葵の声に甘えが滲む。


「すみません……葵先輩に対してだけは、利口ではいられないみたいです。」


「…………」


 不思議ですね、と微笑む彰良に葵は何も言えなくなる。


「(……私も……似たような物だし……責められ無いけど……)」


 彰良に対してだけは、空回りすることもあると自覚してしまった葵。


 華乃を巻き込んで大泣きしてしまった事実が、今更ながらに恥ずかしい。


「…………案外、似た者同士なのかも……」


「葵先輩?」


「何でもないの。」


 不思議そうに首を傾げる彰良を見て、葵は思う。


 自分たちは、案外お似合いのカップルなのかもしれないと。


「……あれ……」


 グルグルと思考を巡らせていた葵の脳裏に一つの疑問が浮かぶ。


「……彰良くんは、鳳凰堂の御曹司なのよね?」


「…………そう、ですね」


 葵に捨てられる切っ掛けになり得る肩書。


 それを話題に出されたことに彰良は警戒する。


「どうして、彰良くんは白鳥商社にいるの?

 自分のお家の会社で働かなくていいの?」


 今更な疑問かもしれない。


「なんて言うか…………御曹司って言われると、真っ赤な二人乗りの外車をビュンビュン乗り回して、綺麗な金髪でナイスバディな女の人の腰を抱いてて。

 なんかお家にセバスチャンがいて、なんか無駄にヘリで登場するドラ息子なイメージ。」


「……は?」


「あ、でも……彰良くんみたいな場合は、物凄く頭も良くて、運動神経も抜群で、女性遍歴も華やかで。

 父親が早めに引退して、その後を継いだ若き社長って感じかな?

 あんまり恋愛系統の漫画やドラマは見ないけど、華乃ちゃんが独占欲とか、執着心を拗らせた恋愛物が流行ってるって……言ってたような……?」


「…………」


 首を傾げる葵に、何と返すべきか迷う。


 御曹司というイメージに対する風評被害を感じる。


「……葵先輩、言っておきますが……自分は葵先輩以外の女性とのお付き合いをしたことは断じて有りません。

 それに、父の跡を継ぐ予定も有りません。」


「うん?

 彰良くんが一途なのは何となく分かるよ?

 それに、外車を乗り回すとかは彰良くんのイメージじゃないし……。」


 キョトンとした葵に、彰良は脱力してしまう。


「あーでも……子供の頃に読んだ少女漫画で、ヒロインの居場所を探すために警察権力を総動員するとかあったような……?

 彰良くん、そういうのは人様の迷惑にもなるし、絶対にやめてね?

 誘拐されたとか、命の危機がある場合は除くけど……」


「…………あくまでも創作上の展開で、現実的には有り得ません……」


「それなら、良かった。

 私ね、彰良くんと一緒に過ごせるなら、それだけで幸せだもの。」


「葵先輩……」


 御曹司と知ってなお、彰良を彰良個人として見てくれる葵に感動する。


「ほら、よくお金持ちのヒーローが遊園地を貸し切りにして、ヒロインと二人っきりとか。

 ヒロインへのプレゼントにブティックの服を丸ごと買い占めるとか。

 私、そんな無駄遣いは絶対に嫌だし、遊園地だって楽しみにしている人達がいるかもしれないって思うと喜べないなって。

 逆に、そんなことをされたら怖くて逃げちゃうよね。」


「…………そうですね……」


 続いた言葉に再び脱力する。


 そして、絶対にその手のことは葵相手にはしないと心から誓った。


「……はぁ……なんと言いますか、本当に葵先輩らしい……」


 苦笑する。


 肩書などに損得せず、彰良個人をどこまでも見てくれる。


「……話は逸れましたが、自分が白鳥商社にいる理由でしたか?」


「あ……そうだった」


 既に忘れかけていた葵。


「自分が白鳥商社にいるのは、父の命令と言うのも可笑しいですが……。

 取り敢えず、大学を出て一般的な会社に就職し、人間関係を学んで来るように言われただけです。」


「人間関係……?」


 首を傾げる。


 彰良が他者と摩擦やトラブル……紗夜の件は別として、起こしているイメージが沸かない。


「父曰く、自分は人間としての感情が薄い?

 人間の三大欲求すら薄い。

 人として欠けていると常々言われていました。」


「…………?」


「まぁ……今なら、父が言いたかったことに、理解を示せますが……」


 ジッと葵を見詰める。


 父の知り合いの社長が運営する白鳥商社。


 孤独を抱えた幼少期。


 寂しい、悲しい。


 人間としての基本的な感情を理解せずに大人になってしまった彰良。


 多忙ゆえに彰良の心のケアを出来なかった両親。


 それが、不器用なお節介として彰良を他者へ預ける選択となった。


「取り敢えず、最低一年は白鳥商社にいるようにと交換条件を経て、契約が成立しました。

 ……その後は、俺の意思ですが。」


「……白鳥商社が居心地が良くなったの?」


「……そうですね……生まれて初めて、心の底から興味が湧き、欲しいと思った存在に出逢えましたので。」


「………?」


 葵は、今一つ分かっていないのだろう。


 ……それで良い。


 この気持ちは彰良だけが知っていれば良い。


「葵先輩、愛してます。」


「うん、私も……愛してる、彰良くん。」


 愛を告げれば、躊躇いなく返される言葉。


 やっと手に入れた彰良の宝物。


 彰良は心から幸せを噛みしめるのだった。


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