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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第四十ニ話



 ハイテーブルに並んだ二人分のパスタの皿。


 ニコニコと嬉しそうにパスタを頬張る葵。


 何処か、煤けたような……疲れた空気を纏った彰良。


「彰良くん、このパスタ美味しいね」


「……気に入ってもらえて、良かったです……」


 葵が料理を作った料理を食べる時ほどの勢いがない。


「彰良くん……体調が悪い?」


「いえ……」


 言えるわけがない。


 葵との関係を進めようとして、失敗したことに落ち込んでいるなど。


「……葵先輩は……よく食事を抜くんですか?」


 話題を変えてみる。


「……そ、んなことは……」


「食事を抜くんですね」


「…………時々……だけだもの……」


 疑問から断定に変化した彰良の問い掛け。


 バツが悪そうに目を逸らす。


「……仕事で、すごく疲れた日とか……早く寝たい日とか……。

 一人暮らしだし……自分のご飯を作るのって面倒くさくて……。

 食べるのが自分だけなら、何でも良いかなって…………お惣菜は高いし……」


「……葵先輩」


「……ごめんなさい」


「…………っ」


 何故だろうか……?


 彰良の目には、叱られてペタンと倒れてしまったウサギの耳が、葵の頭に見える気がした。


「……要するに」


 彰良は口元に手を当て思考する。


「一人暮らしでは無く、誰かのためならば……葵先輩は一定の士気をもって料理が出来る。」


 口角が上がる。


「葵先輩」


「はい?」


「一緒に此処で俺と暮らしませんか?」


 素敵な輝かんばかりの彰良の笑顔。


「…………?」


 首を傾げる。


「……くらす?」


「はい」


「だれが?」


「葵先輩が、です」


 理解が追いつかない。


「葵先輩、もう一度言いますね。

 俺と一緒に、この部屋で暮らしませんか?」


「え、やだ」


 条件反射だった。


「…………葵先輩」


「っ……ごめっ……思わず本音が漏れちゃった……!」


「……ほんね……そう、ですよね。

 俺と一緒に暮らすなんて……嫌ですよね……」


「ちがっ、ちがうの……!

 彰良くんと一緒に暮らすのが嫌じゃなくて……!」


 落ち込んだ彰良に、葵は慌ててしまう。


「彰良くんと一緒に住むのは嫌じゃないのっっ!

 でもっ!

 ちゃ、ちゃんと……ご挨拶とか……それに……この部屋は、ちょっと……」


「……ご挨拶?

 それは……確かに。

 少なくとも、葵先輩のご両親にはご挨拶する必要が有りますね。」


 落ち込んでいた彰良が葵の言葉に、復活する。


 要するに、順番を守れば葵は同棲を拒否していない。


「え……いや、私の方よりも……彰良くんのご両親に……」


「ああ、そっちは問題ないかと。

 自分が、葵先輩を初めて部屋に招いた時点で、葵先輩のことを調べているでしょうから。」


「……しらべる?」


「そう言えば……凛が妙なことを言ってましたね。

 両親がアイツに、自分の女性関係について依頼するなど有り得ません。

 葵先輩を、この部屋に招いた時点で素性を把握しているかと。

 自分と葵先輩を引き離したいならば……既に手を打っている。

 そんな……人達ですから。」


 脳裏に両親と姉の顔が浮かぶ。


 三者三様で、クセが強く面倒極まりない。


「よく分からないけど……私は、彰良くんの側にいることを駄目って思われてない……?」


「はい」


「……そっか……うん。

 私、彰良くんの側にいられるんだね」


 調べるなどは、葵にはよく分からない。


 しかし、彰良の側にいることを許されたことだけはわかる。


 その事実が、葵は嬉しくてたまらなかった。


「……葵先輩のご両親へのご挨拶は近々伺わせて頂こうと思います。

 あとは……この部屋が気に入りませんか?」


「え……?」


「この部屋は……嫌な思い出が、有りますから……」


「あのね……部屋、というか……こんな高い場所の部屋だと……階段の昇り降りは体力的にちょっと……」


 葵は困った顔で続ける。


「地震とか有ったときに……すごく揺れそうだし、エレベーターが止まったりしたら……一日に何度も階段はきついし。

 重い荷物を持っていたら、余計に大変だから……。

 それに……正直に言えば、高い場所って……ちょっと苦手だったり……」


「…………苦手?」


「うん。

 落ちたら痛いじゃすまないよ?

 死んじゃうよ?」


「…………確かに」


 コンシェルジュ付きで便利だったから選んだ部屋。


「……新しい部屋を探します。」


「え゛っ?!」


「葵先輩、他にNGな条件などは?」


 至極真面目な表情で葵に問い掛ける。


「いやいやいや!

 ちょっと待って、彰良くんっ!

 おちっ落ち着いて?!」


「自分は落ち着いています。

 葵先輩が、落ち着くべきかと。」


「え……確かに。

 っ……じゃなくて!

 この部屋……多分、高そう……高いよね?

 それなのに、そんな簡単に……」


「部屋の値段などは、どうでも良いです。

 そんな物よりも、葵先輩と一緒に暮らせることの方が大事です。」


 嘘偽りのない、真剣な表情。


 彰良の本気を感じ取る。


「……あり、がとう……私も、頑張ってお金……」


「駄目です。

 葵先輩は、自分を削る節約グセを治すことが先決です。」


「うっ……これは、もう……性分だもん」


 目を逸らす。

 

「葵先輩は……どうして、そんなに節約や貯金を頑張るんですか?

 見ている限りでは、葵先輩は無駄遣いをしているように見えません。」


 そう……ずっと思っていた。


 葵は、自分の命を削るように貯金に拘る。


 借金の返済をしているわけでもないのに。


「……生きるのも……死ぬのも……お金が、掛かるから……」


「……?」


「私が老人になった時……私より年上の兄達も、両親も……いなくなる。」


「っ……」


「その時に……兄たちの子供達に迷惑をかけたくないの。

 ……一人ぼっちの年寄りは、お金がないと病気になった時……介護が必要になった時に、困るから。」


「それは……」


 絶句する。


 要するに葵は、年老いた先の自分の面倒を……迷惑を掛けないためだけに、お金を貯めていた。


「……結婚した兄達には……家庭がある。

 兄達が、一番大切にするべきは奥さんで、子供達だわ。

 …………私は、迷惑をかけちゃいけないの。」


 ぎゅうっと自分の服を握る。


 年老いて一人ぼっちの葵。


 生きている間はもちろん。


 死んだ後の葬式代だって。


 更に言えば、墓や供養する手間もある。


「……私が死んだ後の世話まで……背負わせることは、出来ないもの」


 切なすぎる葵の節約と貯金。


 彰良は、簡単に言葉を返せないのだった。


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