第四十一話
彰良の自宅。
ソファの上で涙を流しながら、想いを重ね合った彰良と葵。
抱き締め合っていた体を少しだけ離す。
「……彰良くん……目が真っ赤だよ」
クスクスと笑う。
「……葵先輩も……目が赤いですよ」
彰良の頬に添えられた葵の手に、悪戯に口付ける。
「ひゃっ?!」
涙が溢れていた目を見開き、葵は驚く。
「あ、彰良くん……!
私の手は食べても美味しくないっ……!」
「……そうでしょうか……?
葵先輩は、すごく甘くて……美味しそうですが……」
葵の首筋に顔を埋める。
「み゛っ?!」
「……美味しそうな上に、可愛いが過ぎる」
からかい半分に、葵の首筋に口付けながら、唇を這わしてみる。
「っっ……ゃ……うぅ……っ……」
顔を真っ赤に染め上げ、羞恥に悶える。
助けを求めるように、彰良の胸元に顔を押し付ける。
「(……刺激を与えている相手に、助けを求める…………可愛すぎてヤバい……)」
彰良の理性が白旗を上げる……いや、とっくの昔に白旗は上がっていた。
「……あのっ……彰良くん……食べちゃ、やだ……」
「っ……」
涙で潤んだ瞳。
赤く上気した肌。
顕になった首筋。
「……怖い、ですか?」
「うっ……こわ、くはない……けど……食べるのは、やだ……」
「……食べなければ、良いんですね」
「え……彰良くっ……んぅっっ……!」
赤く色付いた唇に口付ける。
最初から吐息も飲み込む激しい口付け。
「……ぅ、あ……んっ……っっ……ゃ……」
舌を絡め取られ、根元から吸い上げられる。
上顎を舐められ、唇を食まれる。
「ふっ……ぁ……ゃ、らぁ……」
「はっ…………葵先輩……」
一度は止まった葵の涙が、一筋流れ落ちる。
「んんっ……ぁ、ん……」
再び重ねられた唇。
酸素が足りず、葵の思考を奪っていく。
「……葵先輩、可愛い……」
ぼんやりとした瞳。
充血した唇。
力の抜けきった体。
「葵先輩……葵先輩の全部を貰っても、良いですか……?」
「……ぜん、ぶ……?」
「怖いことはありません。
……ただ…………気持ちが良いだけです。」
「…………?」
優しい彰良の声音に、ぼんやりとした葵は頷きそうになる。
「……きもち、いい?」
「はい……たくさん、気持ち良くします」
「………………」
霞がかった頭で考える。
気持ちいいこと…………
「……あ、きらくん……」
「はい」
「……おなか、すいた……」
「………………は?」
固まる。
なぜ……お腹が空いた……?
「葵先輩、あの……」
「私……朝から、何もたべてなかった……気が、する……」
「はぁっ?!」
目を見開く。
慌てて、彰良の体の下に閉じ込めていた葵を抱き起こす。
「ちょっ……葵先輩?!
今、夜ですよっ!
朝も、昼も、食べていないんですかっ?!
午後からの仕事の合間にオヤツとかも食べて…………食べてなかった!」
衝撃が走る。
「葵先輩、まさかとは思いますが……昨夜は夕飯を食べましたか……?」
「…………」
目を逸らす。
それが答えだった。
「カロリーや砂糖の入っている飲み物!
牛乳とか、炭酸飲料とか……お茶と水以外を……」
「…………」
「……飲んで……無かった……!」
崩れ落ちそうになる。
要するに、葵は昨日の昼食を最後に……お茶と水以外を摂取していないのだ。
「……食べれなくて……それに、食べれないぶんは……節約にもなるから。
…………無理しなくても、良いかなって……」
「っ……駄目に決まっているでしょうっっ!」
葵の体がビクリと震える。
「あ……すみません……」
「……おこってる……?」
謝る彰良を、幼い子供のように様子を窺う葵。
「……怒っては……いませんけど、もっと葵先輩が自分自身を大切にしてくれると……嬉しいです……」
「……ごめん、なさい……」
「葵先輩のお兄さん達が心配する気持ちが……身に染みて、よく分かりました……」
一緒に食事に行った日のことを思い出す。
あの時は、過保護だと多少は思ってしまった彰良。
……しかし、あの過保護さは絶対に必要なものだったと、彰良は理解した。
「取り敢えず……バナナでも、食べてて下さい。
パスタを茹でて、パスタソースをかけるくらいなら俺でも出来ますから。」
「あぅ……ごめんなさい……」
叱られた子供のように、体を縮こませる葵。
「葵先輩が倒れたら……俺、泣きますからね」
「う……頑張る」
「……そこは頑張るではなく、ご飯を抜かないなど、具体的な改善策の提示を期待します。」
ため息を付きそうになる。
「あ……ねえ、彰良くん。」
「はい」
「気持ちがいいことって、なに?
ご飯を食べたら、するの?」
「っっ?!」
すっ転げる。
「ええっ?!
ちょっ……彰良くん、大丈夫?!」
「……だい、じょうぶです……!」
この人は子供かっ?!
彰良の怪我を気にする葵をジッと見詰める。
「…………?」
「……明日は……土曜日ですし……葵先輩、次第かと。」
「うん……?」
まったく意味を理解してなさそうな葵に、彰良は今度こそ深いため息をつくのだった。




