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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第三十五話



 猪原商会との契約は、トントン拍子で進んだ。


 契約の説明に静かに耳を傾ける猪原社長。


 その姿は、営業部だけで対応していた時とは大違いだった。


「この度は、契約が成立したことを心より感謝も……」


「アンタ達だけなら断ったけど……流石に立花ちゃんに出てこられたら、判子を押さないわけには行かないからな。」


 玲衣が営業部を代表して謝辞を伝えようとするが、遮られた。


 己の妻に捕まっている葵を見る。


「しかも、俺の好物の寅吉の丸房露まで持参されちゃあなぁ……」


「…………」


 三つ、四つと持たされそうになっているお土産を、必死でお断りしている葵。


「アイツが、あそこまで気に入るのも珍しい。」


 腹の底から笑いが溢れる。


 これだから、人との関わりは面白い。


「おいおい!

 いい加減にしないか。

 立花ちゃんを困らせるな。」


「困らせてなんかないわよ、人聞きが悪いっ!

 アタシは、良い人がいるのかを聞いていただけよ!」


 ズンズンと葵達に近付き、妻に苦言を呈する。


「もう少し、年齢が近かったら孫のお嫁さんに来てほしいって思ったんだけどねぇ……」


「いえ……私など、お孫さんには釣り合いませんから……」


 孫はまだ高校生だから、と残念がる妻に苦笑する。


「おいおい、余計な気を回すな。

 立花ちゃんには、良い人がいるんだからよ。」


「っ……?!」


 猪原の言葉に、葵が固まる。


「え、え……なん、で……?」


「ははっ!

 年の功だよ!

 去年くらいからか?

 立花ちゃんに茶飲み相手をして貰ってると、図体のデケェ眼鏡の兄ちゃんから視線を感じるようになってなぁ。」


 大口を開けて笑う。


「あの兄ちゃん、立花ちゃんに心底惚れてるんだろうなぁ。

 立花ちゃんを見る目が本当に優しくて、本気で惚れた女を見る目だったからよ!」


「…………犬飼くん、が……?」


 目を見開く。


 本気で、惚れている。


 自分に……?


「あらぁ!

 素敵じゃないのっ!」


「おう、ありゃあ良い男だねえ。

 俺が保証する!

 ……男はな、本気で女に惚れてるか目を見りゃ分かる。

 あの兄ちゃんは、立花ちゃんが欲しくてたまらないって目をしてたからなぁ……。」


「…………」


 頬に熱が集中する。


 言葉にならない。


「あらあら、まあまあ!

 立花ちゃんったらお顔が真っ赤!

 もしかして……お相手の子は奥手なのかしらねえ……?」


「あー……奥手って言うよりは、惚れた女を大切にし過ぎて、手を出せないって感じじゃねえか?

 ……俺もなぁ……若い頃は、奥手だったから……よぉく分かる!」


「確かに……アンタってば、手を繋ぐだけで顔を真っ赤にしてたもんねぇ?」


「うるせぇなっ!

 しょーがねえだろう!

 やっと恋人になれての初デートだぞっ!」


「…………お二人は、本当に素敵なご夫婦ですね」


 夫婦漫才のような猪原夫婦に、葵も笑みがこぼれる。


「まぁ……四十年、連れ添った仲だしな。」


 ニッカリと笑う。


「引き留めて、すまなかったな。

 また、仕事に関係なく遊びに来な。

 立花ちゃんなら大歓迎だ!」


「ありがとうございます」


 微笑みを返し、頭を下げる。


「(……彰良くんに……会いたいな……)」


 葵の心には、彰良との思い出が蘇る。


 同時に、昨夜の泣きそうな彰良の顔も浮かぶ。


「(……我慢せずに……抱きしめればよかった……)」


 すぐに駆け寄れない距離が、もどかしい。


「(……不安はある、けど……話さないと……ううん、彰良くんと話したい……!)」


 葵は、お土産の袋の紐をぎゅっと握るのだった。


 


 猪原商会を出て、一人会社へ戻る葵。


「ねえねえ、立花さん。

 折角だから、ランチでも一緒にどう?

 立花さんのお陰で契約更新がバッチリ出来たお祝いってことで……」


「ランチには私が付き合ってあげるから、その子は諦めなさい。 

 それに、ランチの後は他の営業先も回るわよ。

 ……その子は、先約があるみたいだから邪魔するんじゃないわよ。」


 そう言い残して、半ば引きずるように玲衣を連れて言った紗夜。


「(……今ならまだ、急げばお昼休みに間に合うはず……!)」


 もうすぐ昼休みのチャイムが鳴る時間帯。


 少しでも早く彰良と話したい気持ちを抱え、速足で歩き続ける。


「(あと、もう少し……)」


「あらん?

 そこにいるのは彰良くんの今の彼女さんじゃなぁい」


「っ……」


 肩が揺れる。


「そう言えば……名前も名乗ってなかったわよね?

 アタシは、弧月 凛。

 彰良くんの……そおねぇ、幼馴染みたいなものかしら?

 んー……そう!

 お風呂も一緒に入ったことがあるし……ベットで、一緒に眠っちゃうような仲よ。」


 華やかで美しい微笑み。


 しかし、その目は葵を見定めようとしている。


「…………あの……私、は……立花 葵と申します。」


「うふ! 立花さんね!

 もうすぐ昼休みよね?

 ちょっとアタシとお話しなぁい?」


「…………」


「彼処の公園で話しましょうね!」


 さ、行くわよ!と凛が葵を促す。


「…………」


 明らかに葵を逃がす気のない凛。


 葵は覚悟を決める。


「……お話とは、何でしょうか?」


 公園にある東屋。


 向かい合うように座った葵と凛。


 無表情な葵に対し、機嫌良さげな凛。


「まぁ……お昼休みの時間も限られてるし……そうね。」

 

 笑みが深まる。


「彰良くんのこと……本気なのかなって。

 彼に見合う女なのか、気になって来ちゃったの!」


 華やかな笑みのなかに、棘を隠す。


 葵を真っ直ぐに見詰めて、凛は言い放つのだった。


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