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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第三十四話



 冷たい風が吹く街並み。


 駅から出て、目的地まで歩いて行く三人組。


「あの……本当に、私も一緒で宜しいのですか?」


 なぜ……私が、外回り……?


 あれよあれよ、という間に……何故か葵は、猪原商会へ同行することになったのである。


「んー?

 総務の課長さんには、許可を貰ったから問題ないよ」


 ニコニコと微笑む玲衣。


「……何で、隠れてるのよ?」


「うっ……わ、わかりません」


 天敵から隠れる小兎のように。


 なぜか、紗夜の影にぷるぷると震えながら隠れる葵。


「ねえ、ねえ?

 何で立花さんは、僕から隠れるの?

 僕、コレでも女性からは結構さ、好かれるんだけど?」


 紗夜の影に隠れる葵を覗き込むように、玲衣が近寄る。


「うっ……」


「あはは……可愛いなぁ。

 ねーねー、立花さんは恋人いるの?」


「っ……」


「んん?

 いるけど……上手くいってない感じかな?」


 鼠を甚振る猫のように。


 葵の反応を目を細めて楽しむ玲衣。


「……魚形課長には、関係の無い話です。」


「うん、そーだね。

 ごめんね?

 可愛い子を見るとイジメたくなっちゃう癖があってさ。」


「迷惑ですし、私は可愛くありません。」


 硬い表情で言葉を返す葵を、煽るように玲衣は言葉を続けようとする。


「いい加減にしなさいよ。

 この子も迷惑って言ってるじゃない。

 それに、この子の機嫌を損ねて猪原商会との取引に影響したらどうするのよ。」


「……ま、確かにね。

 ごめんね、立花さん。

 今は、もうイジメないから仲良くしてね。」


「…………」


 警戒心MAXで、毛を逆立てる子猫のような葵に、ますます笑みが深くなる。


「だから、やめなさいって!」


「……孔雀主任……ありがとうございます……!」


 自分を庇ってくれる紗夜に、葵はキラキラとした視線を送る。


「っ……べっ、別に貴女のためじゃないわよっ!

 私は契約のためにしてるだけなんだから、勘違いしないでよねっ!」


「はい!

 それでも、ありがとうございます……!」


「っ……」


 紗夜は、葵から目を逸らす。


 心からの純粋な感謝。


「……本当に、調子の狂う……変な子ね。」


 ため息を付く。


「あ……」


 紗夜の背後。


 葵の目に花屋の看板が映る。


「……あの、孔雀主任……魚形、課長……ちょっとだけ、時間を頂けますか?」


「ん?

 まだ、約束の時間まで余裕があるから構わないけど……」


「ありがとうございます」


 小走りで走り出す葵。


 躊躇うことなく花屋に入った。


「……ねえ、すずめさん」


「……なによ?」


「もしかしなくても……気に入っちゃった?」


「っ……別に、そんなこと無いわよ!

 ただ、アンタに私の役に立つ子をダメにされちゃ困るだけよ!」


「ふぅん?」


 意味ありげに玲衣は笑う。


「僕も、気に入っちゃったかも。

 …………あの子、面白いよねぇ。」


 女達に受けが良いはずの玲衣の笑顔。


「ちょっと、手を出すんじゃないわよ。」


「あはは!

 まだ興味の段階だし……僕は、女に本気になったことはないよ。」


「……だから、質が悪いんじゃない。」


 額を押さえる。


 この手の男が興味を持ち、万が一でも本気になった場合…………頭が痛くてたまらなかった。


「お待たせしました!」


 花屋に寄っていた葵が戻って来る。


 その手に抱えられた鉢植え。


「花?」


「ポインセチアです」


 至極真面目な表情で、葵は答える。


「……あー、うん。

 花の名前を聞いたわけじゃないだけど、ね。」


「……さっさと行くわよ」


「はい!」


 三人は、猪原商会を目指して再び歩き出すのだった。





 猪原商会に到着した三人。


 受付で声を掛け、応接室へ通されようとした……その時。


「くどいっ!

 俺は会う気が無いって言ってるだろーがっ!」


「アンタねぇっ!

 仕事に好き嫌いを持ち込むんじゃ無いよっ!」


「しょうがねえだろっ!

 気に食わないもんは、気に食わねぇんだよっ!」


 応接室の近くにある部屋からだろうか?


 男女の争う怒声が聞こえてきた。


「………あー……コレは、うん」


「……ちょっとコレ、最初っから無理じゃない?」


「…………」


 廊下にまで聞こえてくる怒声に、案内役の社員も気まずげに顔を逸らす。


「…………失礼します」


 首を傾げる。


 何かを考えていたかと思えば、葵はスタスタと歩き怒声の聞こえる扉を開け放った。


「ちょっ?!」


 紗夜が止める間もない行動に、上ずった声を出す。


「何だっ取り込み中だコノヤロ……立花ちゃんじゃないかっ!」


 赤ダルマのような顰めっ面。


 しかし、扉を開けたのが葵だと気が付いた瞬間に、満面の笑みへと変わった。


「立花ちゃん……?」


「ほら!

 俺が怒鳴り込むたんびに迷惑を掛けてる子だよっ!」


「んまぁっ?!

 こんな大人しそうな子に迷惑かけてたのっ!

 ああっもうっっ!

 もっと気の強そうな子かって思ってたじゃないっ!」


 ぽっちゃりとしたふくよかな体。


 肝っ玉母ちゃんと言った風情の女性。


「初めまして、奥様。

 私は白鳥商社の社員の立花と申します。

 猪原社長には、数年前よりお世話になっております。」


「まぁまぁまぁ!

 奥様だなんて、そんな!」


「あの……大したものではありませんが……。

 白鳥商社より、奥様と猪原社長の記念日に贈り物を準備させて頂きました。」


 葵が取り出したのは、道中で購入したポインセチアの鉢植え。


「猪原社長がいらっしゃる度に、奥様との馴れ初めや思い出話をたくさんお聞かせ下さいまして……。

 先日も、今年の十二月で奥様との結婚四十年に当たるとお聞きしました。」


「え……アンタ、まさか……覚えてたの?」


「いや……まぁ、なんだ……うん」


 結婚記念日自体は覚えていたものの、四十年だとかまでは分かっていなかった猪原。


「結婚四十年は、ルビー婚式と言うらしいです。

 だから……ルビーアイという品種のポインセチアを用意してみました。」


「ルビーアイ……ルビー婚式に合わせて、準備して下さるなんて…………!

 すごく素敵な会社さんじゃないのっ!」


 頬を染めて喜ぶ妻に、猪原は頭を掻く。


「……やっぱり、立花ちゃんには敵わないな……。」


 一度だけ目を瞑り、感情を切り替えるように目を開く。


「よしっ!

 立花ちゃんが態々ここまで来てくれたんだっ!

 土産の一つも持たせずに帰したと有っちゃあ、男が廃る!」


 猪原は、ニッカリと男臭い笑顔を浮かべる。


「おいっ!

 書類関係の準備は終わってるな?

 さっさと契約の話し合いを始めるぞ!」


「はいよっ! アンタ!」


 鼻息荒く指示を飛ばし始める猪原達を前に、玲衣と紗夜は目を丸くするのだった。


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