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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第三十一話



 葵が総務課の孔雀主任の担当窓口になって……二週間ほど。


 すっかり町並みはクリスマスシーズン一色となっていた。


「……外回りに行く度に、クリスマス一色で腹立つんだけど。

 立花さん、何とかしてくれない?」


 総務課の一角。

 

 葵が窓口で外回りから帰社したばかりの紗夜の相手をしていた。


「私個人の一存では街並みの飾りに対して、廃止する権限は有りません。

 あまり現実的では有りませんが、市町村窓口へ意見を出してみては如何ですか?」


「やーよ。

 それだと私が寂しいみたいじゃない。」


「……よく分かりませんが、孔雀主任はとても綺麗で、立ち振舞も美しいと思います。

 だから、高嶺の花と思っている方々は多いのでは無いでしょうか?

 ……孔雀主任は、綺麗なだけじゃなくて、仕事もできる方だから……本当に凄いですよね。」


 真面目な表情を和らげ、葵はフワリと微笑む。


「……貴女……変って言われない?

 (……ほんの数週間前にやりあった相手に対する態度じゃないでしょう……。

 本当に、なんなのこの子は……調子が狂っちゃうじゃない……)」


 裏表なく。


 やりあった相手である己を褒める葵に、紗夜の調子が狂う。


 紗夜の経験からすると、同性から自分が好かれないことは百も承知だった。


 わざと足を引っ張ろうとする輩だって少なくは無かった。


 それなのに……立花 葵は、紗夜のフォローを、仕事の援護を嫌な顔せずに行うのだ。


「変、ですか……?

 ……そういう風に言われるほど、人との関わりは無いと言いますか……?」


「…………そう」


 不思議そうな葵に毒気が抜かれる。


 この葵相手に敵意を持ち続ける存在は……どれ程いるだろうか?


「……お疲れですか?

 もし宜しければ、此方をどうぞ。」


「……なに、コレ?」


「たい焼きです!」


「…………いや、そうじゃなくって……」


 目の前に差し出されたラップに包まれた魚型の物体。


「……あっ!

 私が焼きました!」


「…………」


「中身は、餡子です。

 たぶん……粒あん、だと思います。

 有馬主任の分もお渡しします。」


「………………たい焼きって、個人で焼けるのね」


 調子が狂う。


 このホワッと柔らかな後輩にやり込められたはずなのに…………調子が狂う。


「…………」


 気が付けば、たい焼きを片手に営業部へ戻っていた紗夜。


「…………」


 ラップから取り出したたい焼きを一口。


「…………美味しいじゃない」


 遠くで魚形課長が何かを言っている気がする。


「ふん……たまには、休憩くらいさせなさい」


 ほんの数分。


 ほんの数分だけ、紗夜は温かい緑茶と一緒にたい焼きを堪能するのだった。





 終業時刻のチャイムが鳴る。


 誰ともなく、荷物を纏めて玄関へと向かって行く。


「葵先輩」


「彰良くん、お疲れさまです」


「……帰りましょう」


「うん」


 二人で一緒に歩き出す。


「……葵先輩、もうすぐクリスマスですね」


「そうだね。

 クリスマスってケーキのパンフレットが沢山あるから、何だか楽しくなるのよね」


「パンフレットですか?」


「そうなの。

 スーパーとかに買い物に行く度に、目に入って思わず見ちゃうっていうか……買わないんだけどね」


 クリスマスケーキのパンフレット。


 色とりどりのケーキの写真に心が踊る。


 葵が購入することはないけれど、パンフレットを眺めているだけでワクワクするのだ。


「……購入しないのですか?」


「うん……勿体ないもの。」


「…………」


 実家を出て、兄達が結婚して……一人で過ごすようになったクリスマス。


 一人暮らしを初めて数年もすれば、一人のクリスマスにも、寂しさにだって慣れてしまう。


「……大きなケーキは、食べれないもの」


 苦笑する。

 

 最近は、ケーキだって値上がりして高いのだ。


 クリスマスだからといって、無駄遣いは出来ない。


「……葵先輩は、クリスマスに予定は有りますか……?」


「清々しいほどにまったく!

 クリスマスって言っても、実家に帰る予定は無いし、誘ってくれる友達もいないもの。」

 

 笑ってしまう。


 今年もきっと……いつも通りの一人のクリスマス。


「……誘っても、良いですか……?」


「……なにを?」


「……クリスマス、です」


「っ……?!」


 目を見開く。


「え……いや、でも……彰良くんは、お友達とか、家族で過ごさないの?」


「……そんな予定は皆無です。」


 会社から、彰良の車がある駐車場までの道。


 二人で並んで歩いていた……足が止まる。


「自分は……葵、先輩と……クリスマスを一緒に過ごしたい、と思っています」


「……っ」


 トクンっと心臓が高鳴る。


 頬が紅潮する。


 喉の奥が苦しくなる。


「クリスマス……彰良くんが私、と……一緒に過ごしてくれるの……?」


 鼓動が速くなる。


 胸が熱くなる。


「葵先輩……もし、嫌じゃなければ自分と……」


 彰良が葵を誘おうとしたその時。


「やぁだ!

 やっと見付けたわよぉ!

 大好きなアタシのあ・き・ら・くん!」


「「?!」」


 女性にしては低めのハスキーボイスが夜の闇を切り裂いたのだった。


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