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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第二十八話



 奥さんを迎えに行く時間だから、と解散を告げた紫苑。


 それぞれに恋人達は帰路へと着いた。


「彰良くん、またお邪魔してごめんね」


「……気にしないでください。

 半分以上、自分が先輩を連れて来たようなものですから。」


 葵の兄達と別れたあと。


 最初は葵の家へ送るつもりだった。


 だが、微かに震える指先に気が付いた彰良は、葵を一人にすることが出来なかった。


「葵先輩、今珈琲でも淹れてきま……」


 ソファから立ち上がろうとした彰良。


 しかし、背広が何かに引っ張られた。


「……葵先輩……?」


 振り返れば、彰良の背広の端を葵の指先が掴んでいた。


「……あ……ご、ごめんなさいっ……!」


 完全に無意識だった。


 慌てて指を離す。


 取り繕うように、笑顔を浮かべる。


「……まだ……痛みますか?」


「……?」


 首を傾げる。


 痛い場所と言われて、ピンと来ない。


「掴まれた手首です」


「……大丈夫、もう痛くないよ」


 彰良に言われて、掴まれた手首を擦る。


「(……やっぱり……男の人は…………っ……)」


 見知らぬ男達に囲まれ、手首を掴まれた。


 言葉にすれば……それだけのこと。


 しかも、華乃も一緒にいたし、彰良と兄達も助けに来てくれた。


 でも……それでも、やはり葵は男が怖かった。


「葵先輩……手首を見せて頂いても、良いですか……?」


「うん……」


 彰良の眼の前に、葵は掴まれた手首を差し出す。


「……触っても……大丈夫ですか……?」


「……うん……」


 彰良が壊れ物を扱うように、優しく葵の手首に触れる。


「……ね? 大丈夫でしょう?」


「…………」


 微笑む葵を彰良はジッと見詰める。


「確かに……痛みは無いようですし、アザもありません。」


「うん、だから……」


「ですが、痛み以上に……怖かったですよね」


「っ……」


 言葉に詰まる。


 彰良の言葉に、すぐに返せない。


「……葵先輩……嫌だったら言ってください」


「え……っ?!」


 葵の腕を引き寄せ、彰良がゆっくりと手首に口付ける。


「なっ……!

 あきっあきらくん?!」


「……上書き、という訳では有りませんが……」


 もう一度、葵の反応を確かめながら手首に口付けた。


「……俺が、葵先輩に付いて行けば……怖い思いをさせずにすんだのに……」


「彰良くん……」


 葵は思う。


 彰良は、優しい。


 何時だって葵の心を守ろうとしてくれる。


 男が怖い葵が、彰良という男に出会えた幸福。


 彰良だからこそ、葵は前に進もうと思える。

 

「……あのね……」


「……はい」


「やっぱり……彰良くん以外の男の人は、怖い……」


 一度、言葉を切る。


「だからこそ、彰良くんに出会って、好きになって貰えて…………私は幸せだと思うの」


「っ……葵先輩……」


「彰良くん、私と出会ってくれて、好きになってくれて……ありがとう」


 目を見開いた彰良を引き寄せる。


 両頬を覆い、葵から触れるだけの口付けを贈る。


「っ……?!」


「大好き、彰良くん」


 触れても、すぐに離れた唇。


「俺もっ……俺も、大好きです……!」


「……ありがとう……!」


 引き寄せられる。


 額を合わせ、至近距離で微笑み合う。

 

「…………」


「…………」


 もう一度。


 もう一度、二人は重ねるだけの口付けを交わす。


 ――――そんな二人の影で、彰良のスマホに入った通知を知らせるランプだけが存在を主張していた。




 

 静まり返った住宅街の一角。


 とある集合住宅の一室。


 シーツに寝そべり、毛布に包まれた靭やかな白い身体。


 逞しい体に、下着だけを履いた、家主である桐也がベットへ歩み寄る。


「……飲むか?」


「ん……ありがと」


 飲みかけのペットボトルの水を華乃に手渡す。


「…………あのさ」


「あ?」



 渡された水を飲むことなく、華乃は手で弄ぶ。


「結婚、って……本気?」


 手に持つベットボトルが軋む。


「……冗談で言わねーよ」


「…………っ」


 更に手に力が籠る。


 ベットボトルがヘコむ。


「……私さ……結婚に向いてる女じゃないわよ」


 自嘲の笑み。


「簡単に、セフレとか言う性格だし?

 性格も悪いし、元ヤンだし。

 …………家庭……背景って、ゆうの?

 ちょー面倒くさい…………葵、先輩みたいに、綺麗じゃない……」


 脳裏に浮かぶのは両親。


「……」


 妻子持ちの男と不倫して


「……私は……」


 華乃(こども)を身籠り


「……人の不幸の上に……産まれて……」


 一つの家庭を壊した母親


「…………幸せになんて……」


 妻子を捨てて、若い女を選んだ父親


「知らねーよ」


「っ?!」


 ぶっきらぼうな桐也の声。


「簡単に切り捨てないでよっ!

 私はっ! 本気でアンタを心配してっ……!!」


 世間の目は冷たい。


 華乃はソレを嫌というほどに知っている。


 両親に絶縁された母親と父親。


 今でこそ……認めてもらえたが、華乃(まご)に会うことすら、拒否していた祖父母達。


「私は……私が、出来たからっ……!

 無事にっ……産まれてしまったから……!」


 思春期になって、その事実を知り…………砕けた心。


 何もかもが、どうでも良くなって……非行に走った。


「関係ねえ」


「っ……な、によっ!

 私の過去はどうでもいいわけっ……」


「ちょっと、黙れ」


 興奮する華乃を引き寄せ、唇を塞ぐ。


 暴れて振り回す華乃の腕を掴む。


「ふっ………ンッ……ぁ……ゃめっ…………ば、かぁっ……!」


 嬲る。


 華乃の弱い部分など知り尽くしている。


 思考すらも飲み込むように、刺激を与えていく。


「はっ……頭は、冷えたか?」


「っ……冷えるっわけないっっ……!」


 組み敷かれて息も絶え絶えな華乃に、口角を上げる。


「お前は、産まれただけだろ。」


「っ……」


「産まれただけなのに、意味わかんねえ。

 だから、そんなもん関係ねえよ。」


 他人の視線や言葉に傷付いて。


 自分を自分で傷付けて。


「俺は」


 目の前の傷だらけで、強がって立ち続けている女。

 

「強がって、泣いている女をほっとけなかっただけた。」


「……によ、それ……!

 バッカじゃないのっ!

 私は泣いてなんかいないわよっ!」


「……そうか」


 抱き締める。


 溢れる涙が見えないように。


「……結婚してくれ」


「…………っ」


「俺は、お前がいないと……もう、眠れねえからな」


 抱き締めていた体を離す。


 ベットに両腕を付き、瞳を揺らす華乃を見つめる。


「悪い男に捕まったと思って、諦めろ」


 自分でも最低に近いプロポーズだとわかっている。


「……最っ低のプロポーズだわ」


「ああ」


「……幸せに、出来ないわよ」


「ああ」


「ほんっとに! 私は、面倒な奴よ!」


「知ってる」


 華乃は、唇を噛みしめる。


「馬鹿で、面倒で、意地っ張りで、天邪鬼なお前だから…………愛してる」


「っ……桐也の馬鹿ぁぁぁっ!」


 白い腕に抱き寄せられる。


 罵りながら泣く女。


「……返事は?」


「察しなさいよっ!」


「わりぃな……俺、馬鹿なんだわ」


 悪どい笑み。


 たまには、惚れた女からの愛の言葉が欲しいじゃないか。


「…………ぁ、いしてる……!」


「知ってる」


 涙でグシャグシャの顔を引き寄せ、再び唇を奪う。


「もう一回、いいか?」


「……好きにすればっ!

 ちゃんと、私を満足させなさいよ……!」


「仰せのままに、俺の奥さん」


「っっ……?!」


 顔を真っ赤にする可愛い女を、桐也はシーツの海に沈めていくのだった。


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