第二十六話
シーザーサラダ、ローストチキン、ドリア、パスタ三種類。
ミモザサラダ、アクアパッツァ、牛肉のグリル、カルパッチョにパエリア。
「お兄ちゃん……頼み過ぎなんじゃ……」
「そうかな?
男が三人いるから足りない気がするけど?」
「……余ったら食べるから問題ない。」
量だけでなく値段も気にして焦る葵。
逆に足りない気がすると首を傾げる紫苑と桐也。
「華乃」
「ありがとう……だけど、好みドンピシャで渡される皿が憎いわ」
「三年も一緒にいれば、好きな女の好みくらい覚える」
「……アンタ、そういう所よ。」
微妙に負けた気持ちになる。
「はい、彰良くん」
「……ありがとうございます」
「私の好みになってしまって、申し訳ないけど……」
「……自分は、好き嫌いは無いので問題ありません」
手渡された皿を見詰める。
……取り敢えず乗っている料理名を頭に入れておく。
「…………」
そんな二組の恋人達を、ニコニコと見守る紫苑。
「ところで……」
食事がある程度進み、落ち着いた時頃合いを見計らって紫苑が口火を切った。
「彼氏くん、一昨日はガラス越しに凄い顔をしていたけど、今日は普通なんだね。」
素敵な笑顔。
「……一昨日は、挨拶もせずに失礼しました。
葵さんにも、失礼な勘違いをして……」
「気にしなくていいよ。
葵に渡していた防犯ブザーが鳴らなかったから、無体な真似はしていないみたいだしね。」
「っ?!」
動揺する。
目の前の優しげな風貌の男は、あの日の彰良の行動を予測していた……?
「えっ……お兄ちゃん、防犯ブザーって何の話?」
「ん?
土曜日に葵に渡したよ。
ほら、紐を引っ張るとか、ボタンを押すって説明した小さな機械。」
「あ……ああ、あれのこと……って、防犯ブザーだったの?!」
目を丸くして驚く葵に、クスクスと紫苑は笑う。
「うん。
葵がボタンを押したりしたら、警察に連絡が行くんだ。
それに、GPS付きだから位置情報も兄三人に届く仕組みだよ。」
「紫苑お兄ちゃんの考えは昔から不思議だけど…………私、あんまり夜は出歩いたりしないよ?
それに、人気のない場所とか、山登りとかもしないし……?
防犯ブザーを使うタイミングって、私にはあんまり無い気がするけど……」
「あはは……そうだね、うん。
あの日はね、店の外に怖い顔をして、今にも襲いかかりそうな怪しい人影が有ったから。」
意味ありげに彰良をチラリと見る。
「…………」
彰良は言葉を返せず、自覚もあるため否定もできない。
「そうだったの……私はパティスリーを出たあとすぐに彰良くんがいてくれたから……。
……だから、怪しい人が近寄って来なかったのね。
あの時、迎えに来てくれていてありがとう、彰良くん。」
「…………いえ……」
好意的に受け取り、葵は感謝と笑顔を向ける。
彰良は真正面から受け取ることが出来ず、目を逸らしてしまう。
「桐也は、聞きたいことはないの?」
「……俺は、いい。
ある程度のことは把握している。」
華乃に嫌がらせ半分、照れ隠し半分で山盛りにされた桐也の皿。
「……葵を泣かせて、追い詰めたそうだが……二度目はない。
次にやりやがったら、山に埋めてやる。」
黙々と山の高さを低くする桐也は、興味なさげに鼻で嗤う。
「……はい。」
殺意のギラつく桐也の瞳。
彰良は静かに頷き返し、深く頭を下げる。
「珍しいね……桐也が殴り掛からないなんて。」
紫苑が目を丸くする。
普段の桐也ならば、葵を泣かせた奴を前にすれば……言葉よりも先に拳が出る。
「……俺の変わりに殴ってくれた女がいるからな。」
華乃を見る。
「何のことですかぁ?
可愛い私がそんなことするはずないでしょうに。」
「そうね。
華乃ちゃんは、可愛くて、優しい女の子だもの。
ああ、でも……何年前だったかしら……?
怪我をしていた時とは、だいぶ雰囲気が変わった気がするわ」
「え゛っ……葵、先輩……」
目を見開き、言葉にならない。
「あれ……言ってなかったっけ……?」
キョトンと首を傾げる。
「華乃ちゃんが、彰良くんとお付き合いする切っ掛けを作ってくれた……あの夜。
あの時に言っていた言葉が気になってて……ずっと考えていたの。」
葵は、驚きに固まった華乃へ優しく微笑む。
「引きこもっていた私が、少しずつ……家から出ることが出来るように、なって……。
確かに、一度だけ怪我をしてアザだらけの金髪の女の子を助けたことがあったなって。」
「っ……」
「私は華乃ちゃんと……華乃ちゃんが入社してくる前に出会っていたのね。」
「あお、い……せんぱ……っ……」
不良だった頃の華乃の姿を思い出してなお……笑顔を向けてくれる。
「うぅ……葵先輩っ!
やっぱり大好きですぅぅぅっっ!!」
「私も、華乃ちゃんが大好きよ。」
胸に飛び込んできた華乃を優しく抱きとめる。
優しい微笑みを浮かべながら、葵は華乃を抱きしめ返すのだった。




