第百一話
幼い顔を赤く染め、勇気を振り絞り。
「葵さん!
僕は、叔父さんよりも必ず魅力的な男になります!」
「え、律くん?」
あまりにも真っ直ぐな瞳に、葵は戸惑う。
「だから、叔父ではなく、僕と結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか!」
「え…………お付き、合い……?」
「はい!」
葵は驚きに目を瞬かせ、緋月と悠真は目を丸くする。
「却下だ」
律の言葉を予測できていた彰良だけが、瞬時に言葉を返した。
「叔父さんには聞いていません!
僕は、葵さんに聞いているんです!」
「葵先輩は、俺の妻になる人だ。
子供のお前が入る隙間はない。」
「っ……年齢は関係ありません!
僕はそんなことで諦めません!」
子供扱いされたことで、ムッとした表情で言い返す律。
無表情で拒絶する彰良。
「律、彰良」
目を丸くして律と彰良のやり取りを見守っていた緋月が声を挟んだ。
「……はい、お母さん」
「……何か?」
叱られるかと唇を噛みしめる律。
母親らしく律を諌めるつもりか、と彰良。
「律、好きな子には一直線!
それでこそ、私の息子だっ!
そして……彰良っ!
お前には、可愛い甥っ子の初恋を応援する気持ちはないのか?」
至極真面目な表情で告げた緋月。
「無い!
有る理由が無いだろうっっ!!」
緋月の言葉に彰良が瞬時に答える。
……少しでも、緋月に期待した己が馬鹿だった……!
「お母さん……!」
律の顔が喜びに輝く。
「……緋月?」
静かな声音が緋月の名を呼ぶ。
「すみません、間違えました。
とても失礼な私の言動をお許しください……!」
「彰良くん、緋月がごめんね。
あとで、よーく言い聞かせておくからね。」
穏やかに微笑んでいるのに、目がそれを裏切っている悠真。
悠真の静かな怒りを感じ取り、緋月は速攻で意見を翻した。
「ひっ?!
私は純粋に息子の恋路を応援しよ……」
「緋月、お口にチャックは出来ないのかな?」
「できまふっ!」
悠真の笑顔の圧。
私はミッフィーちゃん!と口元に指でバツ印を作る緋月。
「……お義兄さんも、大変ですね」
「…………もう、ニ十五年以上の付き合いだからね……」
諦めも付いたよ、とカラ笑いの悠真に、彰良は気の毒そうな眼差しを送る。
顔を見合わせてため息をつく彰良と悠真の背後。
「……律くん、ありがとう」
律の目線に合わせるためにしゃがむ葵の姿。
「葵さん……」
「でも、ごめんなさい。
私は犬飼く……彰良くんと結婚を前提にお付き合いしています。
だから、律くんの気持ちを受け取るわけにはいきません。」
ごめんなさい、と目を合わせ、頭を下げる葵。
「っ……分かっています。
叔父さんが、葵さんの特別であることは。
では、もし!
もしも、叔父さんと別れる事があった場合!
その時は、僕と結婚を前提にお付き合いしてください!」
一瞬だけ怯んだものの。
気持ちを切り替えて、律は言葉を続けた。
「律くん……」
「別れるなど有り得ない。」
ムスっとした表情の彰良が、律の背後から否定の言葉を放つ。
「叔父さんは黙っていてください!」
そんな彰良を、律がギロリと睨み吠える。
「ごめんね……彰良くんとは、ずっと一緒に居たいって思っているから……適当な約束はしたくないの」
「それならば、近い内に我が家に遊びに来て頂けませんか?
そのためにも、連絡先を教えて欲しいです……!」
困ったように微笑む葵に、瞳を潤ませた律が小首を傾げる。
「律くんのご両親が連絡先を伝えたり、伺うことを許可してくださるなら……私は、構わないのだけど……」
「葵先輩、連絡先を教える必要は有りません。
何か用事がある際は、叔父である自分を通せば良いだけのことです。」
「その叔父さんが、葵さんのことに関しては信用なりません」
再び火花を散らす彰良と律。
「律」
「……お父さん……」
それまで静かに成り行きを見守っていた悠真が口を開く。
「あまり立花さんを困らせてはいけないよ」
「……はい」
悠真の静かな声音に、律か肩を落とす。
「それに……恐らくだけど、立花さんは近い内に我が家にいらっしゃると思うよ」
「え……?!」
驚きと喜びに目を輝かせる律に、悠真は微笑む。
「そうだよね、彰良くん?」
「……はい。
近い内に、両親へ結婚相手として紹介するつもりです。」
その日取りも決めるつもりで実家へと帰っていた彰良。
予想外の出来事で、日取りを決めるどころでは無かったが。
「では、また会えるんですね……!」
「そうだね。」
子供らしく笑顔を浮かべる律に、悠真も微笑むのだった。




