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その恋、賭けですよね? ~天然で無防備な彼女を、執着系彼氏が全力で囲い込もうとしたら周囲も癖が強すぎました~  作者: ぶるどっく


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第十話



 鮭の上に散らばったピーマン、人参、玉葱、エノキ。


 ふわふわの卵が浮かぶスープ。


 すりゴマが和えられたモヤシ。


 炊きたての白米。


「鮭のちゃんちゃん焼きっぽいもの、モヤシの和え物、卵スープ……なんだけど」


「…………」


 無言の彰良の周囲に花が飛ぶ。


「えっと……いただきます」


「いただきます……!」


 一時は二度と味わうことがないと覚悟した葵の手料理。


 たっぷりの野菜と鮭を一切れ。


 大きく一口。


 野菜と鮭の旨味を味噌が優しく包み込む。


 白米を口に頬張れば、熱いけれど白米の甘みがちゃんちゃん焼きの塩気を調和する。


 熱いスープとふわふわとした卵。


 モヤシの和え物もシャキシャキとした食感に、すりゴマと調和した酸味がさっぱりと。


「…………美味しい?」


「っ?!」


 クスクスと笑う葵の声に我に返る。


「あ……」


「うん、いつもの彰良くんって感じだね」


「葵先輩の料理が美味しすぎるんです……!」


 葵の料理を食べる度に、気が付けば皿を空っぽにしていた彰良。


「ありがとう……彰良くん。

 あのね、おかわりあるから……たくさん食べてくれると嬉しいな。」


「…………」


 照れ臭さから、そっぽを向いてコクリと頷く彰良の仕草に笑ってしまう。


 会社では見ることがない理知的な彰良の子供っぽい仕草。


「……笑わないでください」


「うん……ごめんね。

 でも、やっぱり彰良くんは可愛いと思うの」


「…………可愛いは、大好きでは誤魔化されませんから」


 少しだけ拗ねたような声音。


 ……何時までも年下扱いで可愛いは……嫌だ。

 

「じゃあ……私の作ったご飯を美味しいって食べてくれる彰良くんが……大好きです」


「っ?!」


 照れたように微笑む葵の率直な言葉。


 彰良の頬に熱が集まる。


「なんっ……?!

 いき、なりっ……どうされたんですかっ?!」


 声が上ずる。


 あの葵が……!

 

 異性や恋愛に対して経験など皆無な葵が……彰良に大好きなど……!


「(……そう言えば……何故か駅が待ち合わせ場所で…………服装も、図書館でも……!)」


 葵の変化に今更気が付き、衝撃を受ける。


「……変、かな……?」


「っ……変というか……」


 困惑が先に立つ。


「変、とは言いませんが……何か、心境に変化というか……」


 一瞬、華乃の姿が浮かぶ。


 だが、華乃の介入にしては違和感を覚える。


「……実は……」


 彰良の反応を見て、苦笑した葵が口を開くのだった。





 時は遡って、土曜日の朝。


「きゃぁぁぁぁっっ!!

 葵ちゃんっ! 久しぶりっっ!!」


「ひ、日向お義姉さん、ご無沙汰しています」


 彰良との待ち合わせ時間に間に合うように。


 朝一番の電車で実家へと向かった葵。


 実家の敷地内に有る二世代住宅。


「これ、大したものではありませんが……」


「んもうっ!

 葵ちゃんが来てくれるだけで嬉しいのに、気を使わなくてもいいの!」


 葵と同じくらいの背丈。


 柔らかな春の日差しのような雰囲気。


「あの……電話でも言いましたが、今日はお願いがあって……。

 出来れば、兄達には内緒でお願いしたくて……」


「……うん……そのことなんだけど…………ごめんね……」


 頬を掻きながら、申し訳なさそうな表情を浮かべる日向。


「…………葵」


 日向の背後より現れた大柄な影。


「っ……あぅ……菖司兄さん……」


 彰良と同等か、それ以上の体格。


 スキンヘッドに、薄い眉毛の下に鋭い眼光。


 引き結んだ唇。


 丸太のように太い腕を組み、威風堂々と立つ男。


「こらっ! 菖くん!

 可愛い可愛い葵ちゃんが心配だからって、そんな顔をしないの!」


「むっ……いつもと変わらん。」


「変わってる!

 葵ちゃんに彼氏が出来たからってヘソを曲げないの!」


「…………すまん」


 相変わらずな兄夫婦。


「ふふ……」


 思わず笑ってしまう。


「さぁさぁ!

 葵ちゃん、時間がないわ!

 バッチリお義姉さんがデートコーデしちゃうから!」


「あぅ……あ、ありがとうございます……」


 菖司を押し退けるように葵をリビングへと通す日向。


「それで、初デートなのよね?」


「……デ、デートって思ってるのは……私、だけかも……」


 しれなくて……と自信なさげな葵に、日向が微笑む。


「あらあら?

 昨日の電話で聞いた話だったら、デートで間違いないわ」


「…………む。」


 嬉しそうに微笑む日向の横で、ムッスリとした顔の菖司。


「葵ちゃん……お相手の方は、好意のない女性や恋人じゃない女性を簡単に誘う方かしら?」


「いえ……多分、違うと思います。」


「葵ちゃんは、お相手の方が大好きなんでしょう?

 ……その、男の人だけど一緒にいたいって思える程度には。」


 言葉を選んで日向は問い掛ける。


 葵の兄である菖司とは幼馴染ゆえに、葵のことも幼い頃から妹のように見守ってきたのだ。


「……彰良くん、は……安心するんです。」


 恥ずかしそうに俯きながら、葵がぽつりぽつりと語り出す。


「菖司兄さんとも、紫苑お兄ちゃんとも、桐兄とも……違う安心感というか……」


 彰良を思い出すだけで……胸が温かくなる。


「……私が怖がるから……大丈夫になるまで待ってくれるんです。

 私の大丈夫な気持ちを大切にしてくれて……」


 葵を宝物のように扱って、守ってくれる。


「……彰良くんとなら……前に進める気がするんです……」


 日向と菖司は目を見開く。


 花開く日を夢見ることなく、蕾のまま枯れ果てる覚悟だった葵。


 恋も、愛も……すべてを諦めていた妹。


「そう、なのね……そっか!

 葵ちゃん! そんなに素敵な人なら、絶対にデートよ!

 デート以外の選択肢なんて皆無よっ!」


 可愛い義妹の恋が心から嬉しい。


「いーい、葵ちゃん?

 ぜーったいに、その素敵な彼氏さんを逃がしちゃ駄目!

 何だったら、押し倒して既成事実を作っちゃいなさいっっ!!」


「きせっ?!」


 日向の言葉に葵は顔を真っ赤に染め上げる。


「日向、葵にはまだはや……」


「早いわけないでしょうっ!

 こんなにも可愛くて、素直で、純粋無垢な葵ちゃんよ?

 その葵ちゃんが大好きで、私たちに頼っちゃうことを選べる相手よっ!

 ぜーったいに逃がしちゃ駄目よ!

 そう! 女は度胸!

 可愛くて、素敵な葵ちゃんの魅力でイチコロにしちゃうのよっ!!」


「ひ、日向お義姉さん……」


「少なくとも!

 好きって思った瞬間に、ちゃんと好きって伝えること!

 言わなきゃ始まらないし、伝わらないからね!」


 人差し指を立てて、興奮した様子の日向の恋のレクチャー。


「が、頑張ります……」


 顔を真っ赤に染め上げた葵は、そう返すだけで精一杯だった。


「葵ちゃんの素敵な彼氏さんをメロメロにしちゃおう大作戦!」


 きゃあ!と黄色い声を上げる日向に背中を押される形で、彰良との待ち合わせに向かうことになったのだった。


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