第十一話
目を丸くして固まる彰良。
照れたように苦笑する葵。
「…………」
「えっと……さすがに、押し倒すとか、既成事実とかは……無理かなって。
……彰良くんも、困るでしょう……?」
「っ………?!」
「でも、お義姉さんから"彼氏さんをメロメロにしちゃおう大作戦!"と言われて……。
メロメロに出来たか報告するまでがお仕事よ、と報告義務が発生しているという……」
彰良から視線を外し、恥ずかしそうに葵は微笑む。
「だから、せめて好きって思った瞬間に好きを伝えることだけでも…………頑張ろうかと思いまして」
「…………自分……俺は、困りません」
「え……何が……?」
真っ直ぐな眼差し。
低くなった声。
「俺は……告白した時も言いましたが……俺は葵先輩のことをずっと……女性として見ている。」
二人で奥多摩湖に行った時も。
彰良の部屋で二人で過ごした時間も。
「……恋人になった、今だから……言いますが、俺の方がずっと、葵先輩と既成事実を作りたかった。」
「み゛っ?!
あ、あああ、あきらくんっ?!」
彰良の告白に、葵は動揺する。
「言ったでしょう。
俺は、葵先輩に触れたくて堪らない。
俺だけを見て欲しい。
…………葵先輩の全部を奪いたかった、と。」
「う、えっと…………言って、ました……」
焦る。
どうして良いのか、分からない。
「葵先輩は……異性が苦手だから、嫌がることはしたくない。
だけど、いつかは……と思ってる。」
遠慮しつつも、飾らない言葉で彰良は考えを伝える。
「…………彰良くんとなら……それ、も……含めて、覚悟を……前に進むって、決めたもの」
誤魔化そうと思えば、告げる必要のない事実。
しかし、誤魔化すことなく伝える彰良の誠実さ。
「……真っ直ぐに嘘をつかないから、彰良くんはすごいね。
だから…………私も、大好きな彰良くんと頑張りたいよ。」
正直に言えば、恥ずかしい。
怖い気持ちもある。
だけど……彰良とならば、頑張れる。
「…………葵先輩が……嫌じゃなければ、少しずつ触れても……良いですか……?
怖かったり、嫌なときは教えてください。
絶対に無理強いは、しませんから……」
「……うん」
お互いに心を伝え合う。
二人で一緒に前に進みたいから。
「あと……俺も、葵先輩に好きを伝えて……もうちょっと、積極的に行こうかと……」
「……お、お手柔らかにお願いします……」
照れる。
恥ずかしくて、恥ずかしくて。
お互いに無言になってしまう。
だが……それは、決して嫌な沈黙では無かったのだった。
夕食を食べ終わり、皿洗いまで済ませたあと。
「……あ……そうだ、彰良くん」
「はい」
「以前、彰良くんから着替えにって用意してくれた服とかの代金……えっと、これで足りるかな?」
バックから厚みのある封筒を取り出し、彰良へ差し出す。
「葵先輩、自分は……」
「受け取ってください。」
普段の葵とは違うキッパリとした物言い。
「……彰良くんは、私に結婚を前提にって言ったでしょう?
だからこそ……夫婦になるなら、お金のことはきちんとしといた方が良いよって。
私も……彰良くんに気後れしたり、遠慮したくないから。」
「っ……わかり、ました」
彰良との未来を考えているからこそのケジメなら……受け取る以外に選択肢はなかった。
「……受け取ってもらえて良かった……」
緊張が緩む。
彰良とは対等で有りたいからこそのケジメ。
「葵先輩、今回は恋人になる前のことだったので……受け取ります。
ですが……これから先は、恋人で……夫婦になる未来まで考えているから、自分がお金を出しても返すのは無しでお願いします。」
「うっ……でも……」
「言ったでしょう?
葵先輩を甘やかすって」
満面の笑顔。
葵の心臓が跳ねる。
「……十分に甘やかしてもらってます……」
「そうでしょうか?
まだまだ足りないと自分は考えています。」
笑顔の影に、色気が香り始める。
「……俺が隣にいることが、まだ当たり前になっていないでしょう?」
うっそりと微笑む。
瞳の奥に燻る欲が際立つ。
「っ……」
口をはくはくと動かし、音にならない。
顔に熱が集まる。
「ね?」
「あっ彰良くん!
急にっ! 反則だと思う!」
林檎のように赤く染まった両頬を抑え、潤んだ瞳で葵は睨む。
「積極的に行くと言いましたから……」
覚悟してくださいね、と微笑む。
その微笑みすら、色気と甘さを感じてしまう。
「うぅ……」
何かを言い返したいのに、何を言っていいのか分からない。
頭が熱を持って役に立たない。
「……そ、そうだ……!」
話題を変えよう……!
「彰良くん……!」
「……どうしました?」
「部屋着が兄のお古の服ってどう思う?!」
「は?」
羞恥心から逃れるために、落とされた爆弾。
彰良は一瞬意味が分からず、聞き返すのだった。




