コーシとサキの親子遠足 2
すらりとした長身はそれだけで目を引く。
上質な黒いスーツを着こなし、隠しても滲み出る瞳の強さは、サキのしなやかさと合間って絶妙な色気が出る。
ターミナルを行き交う人々は、惚れ惚れとサキを見送った。
「サギだ…」
隣を歩くコーシは複雑な顔をした。
普段はだらしなく手足を伸ばして煙草を吸っているくせに、この見事に姿勢のいい姿はなんだ。
「バカだなコー。見知らぬ場所に行く時はこういう立ち振る舞いが断然有利なんだぜ?」
「そんなスーツまで着こなせるなんて知らなかった。どこで覚えてくるんだ?」
「周りの人をよーく観察する癖をつけるこった。どういう地位、立場、内面の奴がどういう格好しているのか。意識するだけで色々学べるぜ」
コーシは興味ない様子で相槌をうっていたが、その言葉は深く心に残しておいた。
コーシが街で買い揃えた服は、一応黒いジャケットとシャツ、足元は黒い綿生地のズボンだ。
コーシなりにまともな格好を選んだつもりだが、その服は若者らしくやや着崩し、ピアスとバングルはシルバーに統一している。
何より明るく揺れる金髪とライムグリーンの瞳がどことはなしにその雰囲気を華やかにさせていた。
サキは優雅に階段を降りると、上品に黒く光る鞄から二枚のカードを出した。
「これが認証カードだ。本来ならこれを手に入れられるのはかなり限定された者だけなんだが…」
一枚をコーシに渡すと、もう一枚を胸ポケットにしまう。
「まぁ、それなりの伝手で手に入れたから不具合はないだろう」
サキは市長の座に収まったハードハムとの繋がりもある。
おそらくこれもその辺りから無理やりもぎ取ったに違いない。
コーシは黙って受け取ると、やたら物々しい格子で仕切られた目の前の通路を見た。
この先は、未知の世界だ。
やや力の入ったコーシの肩をぽんと叩くと、サキは悠々と目の前のポストのような機械に、先程とはまた違うカードを通した。
重そうな格子が音を立てて左右に開いていく。
コーシは早まる鼓動をできるだけ無視しながら足を進めた。
「ここで全ての持ち物をチェックされている。針一つ持っていたらすぐアウトだぜ」
サキにつられて周りを見渡す。
だがどう見てもただの無機質な通路が十メートルくらい伸びているだけだ。
コーシはちらりと隣を歩くサキを見た。
サキが今完全に丸腰だということが、なんだか不思議だった。
通路を無事渡り終わると、かっちりと制服を着込んだ駅員が待っていた。
サキはコーシをその場に待たせると、何やら手続きをし始める。
コーシは少し先に見えるシャトルに気付くと、そっちへ歩いた。
このシャトルはコーシのいるシェルターからかけ離れた別のシェルターへと運んでくれる、唯一の交通手段だ。
鳥のくちばしのような形をしたシャトルの先端に近付くと、コーシはそれにそっと触れた。
「…いい顔してるな、お前」
滑らかな手触りを楽しんでいると、準備を終えたサキもこちらへ歩いて来た。
「なかなか格好いいだろ。ブルースワローっていうんだぜこいつ」
「青い…燕か。こいつらしいな」
サキは目を細めるコーシに微笑を浮かべると、シャトルの入り口を顎でしゃくった。
「コー、行くぞ」
「あぁ」
連れ立って中へ入ると、清潔で乗り心地の良さそうな椅子がいくつも羅列していた。
はっきり言って、コーシはこれだけでもう衝撃を受けた。
今だかつてこんなに綺麗な乗り物は見たことがない。
市街を走るお高い車のシートのように嫌味なところもなく、コーシは一発でこれを気に入った。
サキは指定された席に座ると長い足を組んだ。
「お前はここ。残念ながらずっと地下道を走るから外は拝めないけどな」
コーシは言われた通り窓側に座った。
シャトルの中にはコーシたちの他に五人の客がいるだけだ。
自分たちが最後だったようで、そう待たされることもなく出発の案内放送が流れた。
「四時間はかかるからな。適当に寛いどけよ。後で飯も運ばれてくるし、ここからならそのモニターで外の…他星の情報も得られる」
コーシの住むシェルター内では、外の世界の情報は極端なほど遮断されている。
下手に外の世界を周知されると、この汚染され住みにくい星を多くの者が捨てるからだろう。
コーシは情報誌を眺めているサキを見ると疑問が湧いてきた。
「サキはどうして以前別のシェルターに…F1シェルターに行こうと思ったんだ?そもそもなんで外の事に色々詳しいんだよ?」
サキは読んでいる情報誌から目を離さないまま口を開いた。
「レイビーにいた時に仲良くしてた奴がそこから流れてきた奴だったんだ。
並外れたエンジニアだと思ったら、F1シェルターから来たんだもんなぁ。そりゃ凄いわ」
サキの脳裏にヤリとウアラの顔が浮かぶ。
彼らから見たら、自分たちなんてサルくらいにしか見えなかっただろう。
もう一度アナウンスが流れた後、軽快なベルが鳴り響いた。
開いていた扉がゆっくりと閉まると、シャトルは音もなく滑り出す。
サキは情報誌を閉じると椅子に座り直した。
「加速中はそれなりに負荷がかかるぜ。短時間でグイグイスピードをあげて、時速二百キロまできたらタイヤが離れる。後は磁力で浮いて時速六百キロまで上がるからな。あのランプが消えるまで立ち上がるなよ?」
「サキ、俺はガキじゃないぞ…。アナウンスくらいちゃんと聞いてる」
コーシは不貞腐れた顔をしたが、なんだかこんな風にサキといるのはすごく久し振りな気がした。
F1までおよそ四時間。
サキとコーシは横並びに座りながら、たわいない話をしばらく互いに楽しんでいた。




