四年後の再開
この三人トリオも頑張りました。
ど真面目なウォヌは何年経っても変わらないようです。
しかしまだグレーゾーンなのか君は…
商業区の一番南の酒場で、コーシは煙草を咥えていた。
ここではうるさく言う奴がいないからとマッチを手で転がしながらのんびり辺りを見回す。
昼間の酒場は閑散としていて、コーシの他に二、三人の男が酒を煽っているだけだ。
「…おっせーなぁ」
火を作ると煙草に寄せる。
コーシがゆっくりと煙を吸い込んでいると、突然ものすごい勢いで店の扉が開いた。
「コーシ!!!お前何やってるんだよ!!お前はまだ十二だろ!?」
飛び込んできた二十歳過ぎくらいの男がコーシから煙草をもぎ取るとすぐに火を消した。
「…よぉシアンブルー。久々だな。ってか遅せーぞお前」
「この馬鹿野郎が!!煙草なんて十年早えーんだよ!!」
「お前までM-Aみたいなこと言うなよ。M-Aなんて自分のこと完全棚上げですぐがみがみとうるせーのなんのって…」
シアンブルーはコーシの襟首を掴み上げると大いに嘆いた。
「四年前はまだあんなに可愛げがあったのに…。なんだよ…すっかりスラムの男に染まりやがって…。でかくなりやがったなぁおい!!ウォヌが見たらショックうけんだろうなぁ…」
「お前はあんま変わらないなシアンブルー。で、ウォヌは?」
「店の外だ。また女に捕まってるよ」
シアンブルーが言ったと同時に店の扉が再び開いた。
「シアンブルー、場所を変えるぞ」
「なんだよウォヌ。撒ききれなかったのか」
慌ただしく入って来た男に、コーシは目を見張った。
「ウォヌ…?随分雰囲気変わったな」
「…コーシ!!」
互いにたっぷり数十秒は相手を観察する。
ウォヌは短かった髪がだいぶ伸び、元々整った精悍な顔つきは男らしさを増している。
僅かに残っていた子どもっぽさは完全に抜け、仄かな野生味のある大人の色香を感じさせる。
はっきりいって、かなり上等な部類に入るいい男だ。
その男が、コーシを見て完全に固まっている。
シアンブルーは堪えきれずに吹き出すとウォヌの背中をばんばんと叩いた。
「だから言っただろー?コーシも男臭くなってるに違いないって!そうショックをうけるなよ!」
「…うるさい。そんなこと、分かってる」
ウォヌは気を取り直すとコーシの前に立った。
「久々だなコーシ」
変わらぬライムグリーンの瞳を見つめると、感慨深気に目を細める。
コーシは立ち上がると、だいぶ視線の近くなった友を見上げた。
「久しぶり。元気そうだな」
背が二周りも伸びようと、華奢な体つきではなくなろうと、ピアスの数が増えようと、その仕草は間違いなく見覚えのあるものだった。
三人が旧友との親交を温めていると、閉じていた店の扉が荒々しく開いた。
「ウォヌ!!見つけたわ!!」
三人の女が飛び込んでくるとずかずかとウォヌに歩み寄る。
ウォヌは辟易した顔で眉を寄せると、ちらりとコーシを見た。
女の一人がその豊満な体をずいと乗り出してウォヌの腕に絡みついた。
「ねぇ、ここのところずっと私たちを避けてたでしょう?寂しかったんだから。やっと今日外に出て来たんだから相手くらいしてよ」
残りの二人も負けずに絡みつく。
「本命がいるなんて、嘘なんでしょう?」
「そんなにいい体してるのに女を作らないなんて勿体無いわよ」
容姿自慢の女たちだけあって、三人はそれぞれ中々魅力的だ。
コーシは目を丸くするとウォヌを見上げた。
「…何が不満なんだよ?」
「あのなぁ…」
げんなりしたウォヌはコーシの腕を掴むと思い切り引き寄せる。
女たちを振り切ると、コーシを背中越しに抱いた。
「これが俺の、本命だ」
酒場の空気が思い切り凍った。
女たちはもちろんのこと、シアンブルーも、当のコーシも完全に凍りついた。
ウォヌは一人平然とコーシを抱いたまましつこい女たちを冷たく見据えた。
「分かったら帰れ。もうまとわりつくな」
初めに進み出た女がぷるぷると震えながら首を振った。
「う、嘘でしょ!!そんな適当なことでごまかされないんだから…」
「初めに唇を奪ったのはもう四年も前のことだ」
「ウォヌ!!!!」
コーシが焦りに顔を染めながらウォヌの胸ぐらを掴んだりするもんだから、なんだか変な信憑性が生まれる。
女たちは涙ぐむと陳腐な捨て台詞を来吐きながら、来た時同様勢い良く店を出て行った。
「…悪い」
「悪りーーーよっ!!!こっちまで変な噂の的になるじゃねーーかっ!!!」
既に他の客の視線を集めてることに気付いたコーシはとりあえずウォヌから手を離した。
シアンブルーは頭をかきながらテーブルを指差す。
「ま、とりあえず落ち着けよ。酒…水でも頼むか?」
コーシはどさりと椅子に腰掛けると不貞腐れた。
「なんでだよ。別に昼でも酒でいいじゃねーか」
慣れた手付きでマスターを呼ぶ。
ウォヌは席につきながらも顔をしかめた。
「お前…もうそんなもんにまで手出してるのか」
「早すぎるだろ!!昼がどうとかじゃなくて年齢の問題だ!!」
ウォヌに乗っかってシアンブルーが言うと、コーシは面倒そうに背もたれに体重を乗せた。
「何バカ真面目なこと言ってんだよ。ここはスラムだぜ?お上品なこと言いたいなら街へ行けよ」
シアンブルーはテーブルに突っ伏すと、適当な酒を注文したコーシに険しい視線を向けた。
「お前…お前まさか、…女は?」
コーシは目を見張るといたずらっぽく笑った。
「この前初めて誘われたよ。さすがに驚いた」
「コーシいぃぃ!!!!!」
コーシはけらけら笑うと手を振った。
「コドモが趣味の、いい歳した女だったからな。さすがにお断りした。女はまだ。実はサキから手厳しく止められてる」
シアンブルーは目をしばたかせた。
「…へぇ。意外だな。そんなこと言うのか」
「うん。十四までは待てだって」
「充分早いわ!!!」
運ばれた酒を一息にあおると、シアンブルーはウォヌを見た。
「おい、一人で安心した顔してねーでお前も何か言ってやれよ」
コーシは二人を見比べると頬杖をついた。
「昔も思ってたけど、シアンブルーってどうやってウォヌの表情見分けてるんだ?俺には全部無表情にしか見えない」
「いや分かるだろ?ほら、眉間のシワが一本多かったりするし」
「…全然分かんない…」
コーシがちびちびと酒を傾けながら眉を寄せる。
ウォヌは低く笑うと自身も酒に口を付けながら言った。
「コーシ、酒はそんな顔して飲むものじゃないぞ。無理してるならやめとけ」
「…まだ味に慣れないだけさ。煙草だってやっと慣れてきたんだ。酒もそのうち美味くなるさ」
シアンブルーがコーシのグラスをひったくろうとしたが、コーシはひょいとそれを躱す。
「俺のことより、そっちはどうなんだよ。まさか本気で俺のこと本命とかぬかしてんじゃないだろ?」
シアンブルーはため息交じりにコーシを見た。
「んなわけねーだろ。こいつ二年前からそれはそれは可愛らしい彼女がいるんだぜ?」
「…おいシアンブルー…」
ウォヌは眉を寄せたが、シアンブルーはへらへらしながら右手を振った。
「コーシにならいいじゃねーか。実はそのことは俺しか知らねーんだ。さっきの見てたら分かるだろ?
こいつ今尋常じゃなくもてやがるからな。
ククナにとばっちりがいかないようにひた隠しにしてんだよ」
コーシは興味を持つと身を乗り出した。
「隠し通せるもんなのか?南区の女じゃないのか?」
「正解。市街の子だ。それがまたいい子でさぁ。何よりその瞳がお前とそっくりな緑…」
ウォヌはおしゃべりなシアンブルーの口をさっと塞ぐと軽く睨んだ。
「いい加減にしろシアンブルー」
シアンブルーはウォヌの手のひらをどけると口を尖らせた。
「いいじゃねーか。俺だって他に誰にも言えなかったんだから!!」
「だめだ」
コーシは変わらない二人を眺めると楽し気にグラスをまわした。
「なんか…。いいよなお前らは」
中央区にもそれなりに親しくしている者はいる。
だがあそこの連中は皆コーシのことをサキのおまけ、もしくは七光りを存分に受けたラッキーな者として見ていることも知っている。
それを思うと南区の知り合いはコーシ自身をきちんと認めていることが分かる。
なんというか、取り囲む雰囲気に微塵も含みがないのだ。
「また南区にも足を運ぶよ。アークルたちも帰って来てるんだろ?」
シアンブルーは目を見開くと一つ頷いた。
「よく知ってるなお前。とりあえず前のテロ宣言したバカを全員取り押さえたから一時解放されてるみたいだぜ。
リーダーたちも大変だよなぁ。臨時で護衛兵として毎回駆り出されてんだぜ?」
「その代わりに南区の二割の食料はハードハムが持っている。悪くない仕事だとは思うがな」
ウォヌが冷静に返すとコーシも頷いた。
「案外あいつらの性にあった仕事かもしれないぜ?頭ごなしに押さえつけられてるわけじゃないらしいし」
空になったグラスを横へ置くと、コーシは大きく伸びをした。
「俺は夜までには中央区へ戻らないといけないんだ。商業区でも一周りするくらいなら付き合えるけど?」
ウォヌは頷くと立ち上がった。
「そうだな。ここまで足を運んだからにはそっちを視察でもするか」
シアンブルーも席を立つとにやりと笑った。
「後悔するぞコーシ。こいつを人混みに連れて行ったらいつも両手に余るくらい女が寄ってくるからな」
コーシはウォヌを見上げると冗談めかして手を出した。
「俺が手でも握っててやろうか?」
彼女がいると聞いていたもんだからすっかり安心して言ったのだが、ウォヌは真面目な顔をしてコーシの肩に手を乗せた。
「お前がいいなら、俺はいいぞ」
「やっぱコーシが本命っていうのはあながち嘘じゃないだろウォヌ!!!」
シアンブルーが爆笑しながら顔の引きつっているコーシの背中をたたいた。
「まぁ、お前はウォヌの初恋の君だ。しっかり守ってやれよ!!」
「なんだか全てがおかしくないか!?今の!!」
何年経っても変わらぬやり取りに、安心したような、複雑なような気がする。
店を出るとコーシは思い切り新鮮な空気を吸い込んだ。
「行くか」
「あぁ」
「そーだな」
何はともあれもう一つの居場所を失ってなんかいないことを確認したコーシは、軽い足取りで商業区に歩き始めた。




