日常風景
たまには書きたい平和な日常風景です。
M-Aとカヲルはこのままかわらなさそうです…。
M-Aとサキは相変わらずおしどり夫婦です。
南区を落としてから一年、サキはやっと走り回る日々から少しゆとりが出始めた。
こなさなければならないことはまだまだ山のようにあるが、とりあえず無理やり一日休みを取る。
早朝に寝ぐらに戻るとまずは熱いシャワーを浴びた。
愛用の石鹸を惜しみなく使い身も心も洗い流す。
温まった体を適当にタオルで拭い、下だけ着るとそのままリビングへ出た。
テーブルの上にタイミングを測ったかの様に冷えた水が置いてある。
サキは苦笑するとそれを一気に煽りソファに腰掛けた。
煙草を引き寄せ火を付けると、やっと安らかな気分に落ち着いた。
「服着てから寝ろよ、サキ」
部屋の奥から寝不足気味のコーシが顔を出した。
「よぅ、コー。お前また夜中まであれいじってたのか?」
「うん…。パソコン触ってたらつい時間忘れるんだ」
手にしていた空のコップを流しに置くと、コーシはサキのグラスも同じようにした。
「いつもわざわざ水用意しなくてもいいんだぜ?」
「…何も考えてなかった…。癖かな…?」
「お前そういうところサナに仕込まれてるよなぁ」
コーシは眠そうに前髪をかくとサキの隣に座った。
「サキ…」
「ん…?」
「…はらへった…」
言いながらサキの膝にこてんと頭を乗せて目を閉じる。
珍しくそんなことをするコーシの頭に手を置くと、じんわりとその熱が伝わってきた。
「コー…お前ちょっと熱あるんじゃねえか?」
「ん…最近だるくって…水しか飲んでない…」
目を閉じたままポツポツと言うコーシにサキは眉を寄せた。
すぐにコーシを抱え上げるとベッドに運ぶ。
「知恵熱っぽいな。お前何でものめり込んだら離れられないからなぁ。ちょっと待ってろ。なんか飯作ってきてやるよ」
「サキ…」
コーシは怠い頭を軽くふった。
「だーいじょいぶだって。心配せずにお前は寝てろ」
意気揚々と部屋を出るサキに、コーシは絶望的な顔で伸ばした手をぱたりと落とした。
なんでも器用にこなすサキだが、壊滅的に下手なものがある。
それが料理だ。
元々あまり食には関心がない分、手を加えていない素材を丸かじりしても全然へっちゃらなサキである。
そんなサキがキッチンに立てばどうなるかは火を見るよりも明らかだ。
「さて、体に優しいものといえば…焼くより煮るだな」
鍋に水を入れて食材を放り込む。
それを火にかけるとソファに座り煙草を引き寄せた。
サキこそここのところゆっくり睡眠をとっていない。
お湯が沸くまで軽く休憩して待つつもりだったが、知らぬ間にその瞼はゆっくり落ちていた。
M-Aは玄関を開けた時から嫌な予感がしていた。
扉を開くともわりと異常な湿気に顔を撫でられ、部屋の奥からぐらぐらと煮立つ音が聞こえてくる。
「ま、まさかサキ…」
急いで細い廊下を抜けると案の定火をかけっぱなしの鍋と、ソファに寝そべるサキの姿があった。
「サキーーーー!!!お前は台所に立つなとあれほど言われとるやろうが!!!」
急いで火を止めるとサキを揺すり起こす。
「…んだよM-A。お前、いつこっちに戻ってきたんだ?」
「昨日から戻っとるわ!!コーシはどないした!?あいつの方がよっぽど食えるもん作るやろ!!」
サキは体を起こすと無意識に灰皿に乗せていた煙草を取り続きを吸った。
「あいつなら今へばって寝てる。連日パソコンいじっててろくに休んでなかったみたいだな。微熱もあるし飯も食ってない」
「…ほんでお前が一肌脱いだんか。優しーのぉ。ってアホか!!それなら尚更コーシの仕事をこれ以上増やしてやるなや!!」
水浸しの床を指差すと、M-Aはあまり見たくない鍋の中を覗き込んだ。
「…一応聞くが、これはなんや?」
サキは煙を吐きながら頭をかいた。
「見たら分かるだろ。…煮物だよニモノ」
M-Aはがっくりと肩を落とした。
サキが選んだ鍋は一番大きなサイズで、その中に皮も剥いていない半分に切っただけの大根と芋と人参が浮いていた。
お湯は既に半分以上は蒸発し、芋から出た土で濁っている。
「この野菜が風呂入ってるみたいな奴が煮物やと?」
「…煮てるじゃねーか」
M-Aはため息をつくとまだ上半身裸のサキを振り返った。
「どーせお前もろくに寝とらんのやろ?早よ服きてそこで寝とれ。俺が適当なん作っといたるわ」
「なんだよ。俺がやるって…」
「やかましわ。ごちゃごちゃぬかすんやったらこの床拭かすぞ!!」
「…」
サキは煙草を揉み消すと言われた通りにソファに転がり直した。
「服着ろて。風邪引くぞ」
「まぁ、後で着るさ。体が火照ってしょうがねーんだ」
てきぱきと水浸しの床を拭くM-Aの背中を見ながらサキは少し笑った。
「今日はえらく調子が良さそうじゃないかM-A。そういや昨日は中央区のどこにいたんだ?」
M-Aはタオルを絞ると鼻を鳴らした。
「お前そういうところは鋭いよな」
「酒場の宿泊施設か?それとも…」
「カヲルんとこや」
悪びれもせず言うと、M-Aは適当な食材を選び始める。
サキは頭の上で腕を組むと目を細めながら天井を見つめた。
「あんまりいじめてやるなよ。中央区に来なくなっちまうじゃねーか」
「俺が匙加減間違うと思うか?」
「どーせ朝には叩き出されたからこっちに来たんだろ?」
M-Aは舌打ちすると乱暴に食材を切り刻んだ。
「あいつもなー、そろそろ折れてもええと思うんやけどなぁ」
「カヲルは変わらないと思うぜ。…お前もな。お前だって分かってるんだろ?」
「まぁ、な。でもまぁそんな関係でも悪ないしな」
M-Aは鍋に食材と調味料を放り込むと、また次の食材に手を伸ばした。
その間にサキはソファにかけていたシャツに手を伸ばすと、横になったまま袖を通す。
「わざわざそんなややこしいことしなくても女には困らねーだろーに」
「ほっとけ。こっちにかて事情があんねん」
「なんだよ。そんなに夜の相性がいいのか?」
「おぉ。見せてやりたいくらいええ女になるぞ」
堂々と言い放つと今度はフライパンに火をかけた。
軽快な音と共にいい香りが立ち込める。
つられたようにコーシが部屋からふらふらと姿を現した。
「M-A…来てたのか。いい匂いがするからおかしいと思ったんだ…」
「おぅ、コーシ。珍しく熱出たんやってな。後で部屋に食いもん持っていくから大人しく部屋で寝とれ」
「うん…」
安心したように頷くと部屋に戻っていく。
サキは不納得な顔で煙草を引き寄せた。
「なんだよお前ら。俺だって本気になれば飯くらい作れるって」
「絶対本気になるなよ?家が燃えてまうぞ!?それくらいならお前は通ってくれそうな女作れ。その方が確実や」
サキは少し考える顔になったが、首を振った。
「ここに女は連れ込まねーよ。コーが真似したらどうすんだ」
「アホか。あいつはもうすぐでやっと十歳やぞ。何を真似るねん」
皿にどっさりと炒め物を乗せると、M-Aはそれをサキの前のテーブルに置いた。
「お前はこれや。たっぷり食え。今日も一日忙しいんか?」
「いや、今日は久々に無理矢理休みにした。明日からまた南区へしばらく行くしな」
「南区か。ちょうどええわ、俺も行く」
「おぉ。コーはカヲルにでも任せるかな…」
「そうしろ。あいつなら飯も抜群に美味いしコーシも言うこときくやろ」
深皿に汁物を注ぐとスプーンを放り込む。
「コーシに食わしてくるわ。お前も適当に食っとけ」
サキは美味そうに湯気を立てる飯を一口摘まむと、リビングを出ようとするM-Aの背中に声をかけた。
「…すっげー美味い…」
M-Aは振り返ると呆れたようにサキを見返した。
「これくらいなら簡単なもんやぞ」
「M-A…。嫁になって…」
「アホか!!俺をスラム中走らせとんのはお前やろうが!!お前のためにここに通えるか!!」
悪態をつくとブツブツ言いながら部屋の奥へ消えていく。
こっぴどく振られたサキは苦笑しながら箸をつけた。
「…美味いな…」
静かな部屋に一人つぶやく。
なんだかんだ言っても愛情がたっぷり詰まったM-Aの男飯を、サキは最後までゆっくり堪能していた。




