コーシとサキの親子遠足 7
ターミナルは見たこともない人の数で溢れていた。
「コー、こっちだ」
サキの声で我に返ると、コーシは出来るだけ平静を装って歩き出す。
腕を組み堂々と立つサキの姿は、こんな場所でも一際光る。
しかも沢山の視線を集めながらも、慣れたサキは歯牙にも掛けていない。
「すげー…神経だよな」
「ん?なんだよ、コー」
「別に…」
サキはシャトルの時と似たようなカードを手渡し審査門のくぐり方を説明した。
見上げるほど高い天井、無機質な中にも小粋なデザインが盛り込まれた壁。
使い方が検討もつかない溢れる機器類。
あちこちで使われている見たこともない素材。
ここにきてコーシはやや不安になったが、そんなことサキには絶対悟られたくない。
長い列に並び審査の順番を待つ間、なんとか要領を自分で掴もうと、何気ない顔を装いながら周りの動きをつぶさに観察した。
サキは黙り込んだコーシにそっと苦笑した。
はたから見たらふてぶてしく立っているだけのように見えるが、サキにはコーシがやや緊張していることがよく分かった。
「…変わらないな」
思わずひとり言をもらす。
コーシは昔から新しいことに取り組む時はまずとことん観察する。
なんでも適当にこなすように見えて、実はものすごくあれこれ熟考しているのだ。
順番が回ってくると、サキはさり気なく先に足を運びコーシのお手本になるように審査門に入って行った。
無事に審査が済んだコーシは一息つくと懐を漁った。
「あ…。煙草取り上げられてたんだっけ」
ここは火気厳禁だ。
審査ではコーシの煙草とマッチは一時お預かり品となってしまった。
がっくりと肩を落とすと窮屈さにため息をつく。
「おい、コー」
少し前を歩いていたサキが振り返り、大きな窓ガラスの向こうを顎でしゃくった。
つられて視線を向けたコーシは、それを見た瞬間固まった。
立ち止まった足は再びゆっくり動き出すとその速度を上げる。
とくんとくんと脈打つ心臓だけが耳元で鳴り響いた。
ガラス窓に軽く手を付いたコーシは、眼前に広がるその大きくて優美な機体に食い入るように見入った。
「…宇宙船…」
それは想像より遥かに大きな船だった。
膨らんだ飛行機のようなこの機体が、どうやって宇宙を飛ぶのかなんて想像も出来ない。
銀色のボディに赤いラインが散りばめられた船は、コーシには威風堂々と佇んでいるように見えた。
これが、今から星の向こうへ自分を運ぶ。
なんだか不思議な気分だ。
コーシが瞬きも忘れて見入っていると、サキが後ろから声をかけた。
「こいつはホープスター。半月かけて二つの星を回って帰るお手軽な旅客機だ。本格的に遠くへ行こうと思ったらこの倍以上の宇宙船になる」
「ホープスター…」
希望の、星。
今のコーシにとったら、なんだか自分にぴったりの船に思えた。
ガラス窓から動かなくなったコーシを、サキは一歩後ろから眺めていた。
我を忘れて目を輝かせているコーシの横顔を見るのは、本当に久しぶりだ。
心ゆくまで付き合ってやりたかったが、残念なから搭乗のアナウンスがそれを遮った。
「コー、行くぞ」
短く言うと、動こうとしないコーシを促す。
コーシは後ろ髪を引かれながらもその場をゆっくりと離れた。
「…サキ」
「ん?」
興奮した瞳のまま、コーシは珍しく少しだけ笑顔を見せた。
「すっげー、楽しみ」
こんなに心が踊ったのは、昔パワーレンチを手に入れた時以来だ。
サキは楽しそうに笑うと、コーシの背中を軽くはたいた。
「そうだな。期待は裏切らないと思うぜ?」
にやりと笑うと悠々と連結橋に向けて歩き出す。
コーシはさっきまでの憂鬱などすっかり吹き飛んで、軽い足取りでその後に続いた。




