コーシとサキの親子遠足 6
深夜に部屋に戻ったサキは、簡単に体を流すとコーシの眠るベッドの隣の寝床に転がった。
柔らかい布団も整った空調も体に全く馴染まないが、疲れた体を癒すにはちょうど良かった。
「遅せーぞ」
眠そうな声が隣からかかる。
「…起きたのか」
相変わらず寝てても気配に敏感なコーシに苦笑する。
これだからコーシの隣で眠ることは出来ない。
自分がいつものようにうなされたら、コーシはきっと気付いてしまうだろう。
「サキ…明日、朝はやいのか?」
目をこすりながらあくび交じりに聞くコーシに、サキは微笑した。
すっかり可愛らしさなんて抜けたと思ったが、寝顔だけは昔のままだ。
「明日は昼から出るぞ。ゆっくり寝とけ」
コーシは薄く目を開くと一つ頷いて寝返りをうった。
サキは煙草を取りだすと、ベッドの上で火を付けた。
寝息と共に規則正しく上下する布団を見つめていると、幼い日のコーシを思い出す。
コーシの存在に、救われていたあの日々を。
サキは壁にもたれると、目を細め立ち上る煙を黙って見つめながら夜を過ごした。
コーシがやっと起きたのは、外がふんだんに明るくなってからだった。
起きた瞬間、ここがどこだか分からずにぼんやりと座り込む。
とりあえず頭元に置いていた煙草を引き寄せると一服しようとした。
「あーー!!コーシ!!そんな所で火使っちゃだめじゃない!!」
寝室を覗き込んだスワカがコーシに突撃して来た。
「…昨日のガキか…」
スワカを見ると、コーシはやっと昨日のことを思い出した。
「そうだ、今日は…」
コーシは飛び起きるとサキを探した。
「あ、コーシ!?」
布団と共に転がされたスワカは慌ててコーシの後を追った。
サキは大きな窓ガラスの前にいた。
すでに昨日とは違うスーツに身を包み、階下を眺めながら煙草をふかしていた。
「よぉ、コー。お前の着替えはそこだぜ」
クローゼットの扉にかけられた服を顎でしゃくる。
「…俺の?」
「あぁ。流石に今日くらいはお前もフォーマルな方がいいだろ。F1でも宇宙に出る奴なんて上流階級の者ばっかだぜ?」
「んな堅苦しいもん着れるかよ」
どう見たってサキと変わらぬ上質なスーツだ。
七五三のように服に着られるなんてまっぴらだった。
サキは喉で笑うとコーシの前に立った。
「俺が見たててオーダーメイドしたんだ。動きやすい素材だしお前の目の色に合わせて色合いも決めたんだぜ。まぁ着てみろよ」
「…サキが?」
コーシは尚更不安な顔になったが、そこまで言われたら袖くらい通さなければいけない気もする。
渋々スーツを取ると、奥の部屋に引っ込んでいった。
スワカはサキの元に寄ると手を伸ばして抱っこをせがんだ。
「サキ。どうしてコーシはいつも不機嫌そうな顔をしているの?」
サキは煙草を消すとスワカを持ち上げる。
「あれがコーの地顔なんだよ。別にいつも機嫌が悪いわけじゃないぜ?」
「ふーん…。あれじゃあ人生の半分は損するわね」
さすが接客業のプロ。
心配そうに首を振る少女に、サキは声を立てて笑った。
身支度を全て整えると、コーシはやっと姿を現した。
若者らしい、だが決して安っぽくないスーツは、コーシの体にピタリと合っていた。
流石にいつものようにアクセはしていないが、やや着崩し髪は変わらずピンと立っている。
「…これでいいかよ…」
相変わらず不機嫌に言うと、サキは満足そうに頷いた。
「あぁ。悪くない」
サキの腕でスワカは目を瞬いた。
「…うん。コーシ意外に似合ってる。でもさぁ」
コーシを指差すとスワカは声を潜めてサキに言った。
「あれじゃあナンバーワンホストみたい」
サキは目を丸めると思わず吹き出した。
「おい、聞こえてるぞ!」
コーシは膨れツラでソファにどさりと座ると煙草に手を伸ばした。
いつもなら絶対こんなに大人しく言うことなど聞かないが、ここはコーシにとっては未知の世界で、頼れるのはサキだけだ。
自由のきかないストレスと戦いながら、コーシはただひたすら憧れの宇宙に出る為に我慢を重ねていた。
「これで、宇宙が思っていたよりもしょぼいもんだったら…暴れるぞ俺は」
物騒なひとり言をつぶやきながらも、その瞳に期待を滲ませ、コーシは窓から空を仰いだ。




