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ゆりいろ☆ステップ  作者: アメカワ・リーチ
ゆりいろ☆ステップ①
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02-1

02



 自国の若きツートップの登場に会場は一段と大きな盛り上がりを見せる。

 グランプリシリーズ日本大会、NHK杯。

 開催六カ国のうちもっとも盛り上がる大会のが、このNHK杯である。比較的人気がないショートプログラム──勝敗が決まるのはフリースケーティングだからだ──であってもチケットが完売してしまうほど。日本におけるスケート人気がどれほどのものかが伺える。

 本日の種目は女子シングル、フリープログラム。

 合計十二人の選手が出場し、そのうち二人が日本人。共に第二グループだ。

 一人はもちろん、私白石裕樹。

 そしてもう一人は────

『三木楓さん、日本!!』

 大きな歓声。

 三木楓。

 私の日本における最大のライバル。

 年は私と同じ、十六歳。

 こういってはなんだが、今まであまり目立った存在ではなかった。

 現在でも、ディープなスケートファンでなければ知らない人も多いだろう。それもそのはず、数年前まで彼女はまったくたいしたことない平凡な選手だった。

 確かにジュニアではそこそこの部類に入るが、シニアと競うことが出来るレベル──もちろん私やユリカはそうだった──ではなかった。

 しかし。

 この二年、彼女は急激に力をつけてきた。

 フィギュアスケートでは珍しい遅咲きの選手。

 世界ランキングは過去三年の結果の集積なので、今のところ私の方が格上とみなされているが、いまやその実力は私に勝るとも劣らない。

 今年、世界選手権の日本代表出場枠が一つしかないことを考えれば、目下最大のライバルと言っても良いかもしれない。

 昨日行われたショートプログラム、彼女は自分の力を思う存分見せ付けた。

 暫定一位は私だったものの、得点差は僅かだった。

 勝負は今日のフリー次第。

『六分間練習は終了です』

 最終グループの六分間練習が終わりを告げる。

 一番滑走、つまり三木楓以外の選手はいっせいにリンクから引き上げていく。

 ちなみに私は最終滑走。

「三木楓、かなり調子がよさそうですね」

 私はリンクに戻るなりディビィスコーチにそういった。

「かなり調子を上げてきてるな」

「やっぱり最初のコンビネーション、トリプルルッツに戻します」

 私はその決意を伝えた。

 スケートのジャンプは六種類。

 トウループとサルコウが一番簡単。ループが普通で、フリップとルッツがやや難しい。アクセルが最高難度だ。

 今シーズン、私はトウループの練習に多くの時間を割いている。そのため、本来得意のルッツジャンプの調子があまりあがらなかった。

 事前に申請した演技構成では、最初のコンボを、普段取り入れている最高難度の三回転三回転トリプルルッツ+トリプルトウループから、難度を下げた、一番簡単な三回転三回転に変更していたのだ。

 が、彼女の好調ぶりを見るに、そんな“手加減”が許される状況ではなさそうだ。

 彼女も最高難度の三回転三回転を持っていて、そして昨日彼女はそれをきっちりと決めてきたことを考えると、なおのこと手加減は出来ない。

 勝ちに行くための作戦。

「そうだな。だいぶルッツの調子も取り戻したようだし、そうしたければそうするといい」

「はい」

 コーチと話している間に、会場に三木楓の名前がコールされる。

 会場は上位選手が登場する第二グループの開始、そして地元選手の登場にいっそう沸き立つ。

 私はそれをリンクの裏で画面越しに見つめた。

 たぶん珍しい部類に入るけど、私は自分の演技の前に他の選手の演技を見てしまうタイプだ。

 自分は自分、他人は他人と割り切るために一切他の選手の演技は見ず、自分の調整に当てるのが一般的だ。

 私はメンタルに自身があるからというのもあるけど、実はただ単に気になってしまうというのも大きい。

 オマケとして、相手の演技を見てこちらの演技を難しくしたり逆に簡単にしたり出来るメリットもあるので、別に悪いことではない。

『三木楓さん』

 自分の名前がコールされ、彼女は手を広げて会場に答える。

 そして彼女はリンク中央、指定の位置についた。

 情熱的で真っ赤な衣装。私やユリカに比べて、女性らしい力強さを持っている彼女にはぴったりな衣装だろう。

 演技が始まる。

 曲目はカルメン。

 強い女性、カルメン。これほど彼女にあった曲目もなかろう。

 力強い弦楽器の音から始まる。

 軽い振り付けから一転曲調は静かに、けれど緊張感をはらむ。それは観客の、そして彼女自身の心の映し鏡。

 冒頭に用意した、世界最高難度の技。この僅か一つのエレメンツで、彼女は昨日11点もの得点をたたき出した。

 トリプルルッツ+トリプルループ。女子シングル界では他に出来るものが居ない、彼女の伝家の宝刀。

 経験や実績に劣る若い選手が、トップを狙うのであれば、三回転三回転のコンビネーションは必須になる。

 そして、彼女のトリプルルッツ+トリプルループという組み合わせは、女子の行うトリプル+トリプルの中では最高難度。

 決まれば大きい。

 優勝争いに大きくかかわる重要なポイントになるのは間違いない。

 昨日彼女はこれを見事に決めて見せた。

 だが、今日はどうか────

 ファーストジャンプ、トリプルルッツ。

 僅かな踏み込みで華麗に舞い上がる。

「──ッ!!」

 彼女の顔が少しだけゆがんだ。

 ジャンプは問題なく成功────だったが、やや回りすぎてしまった。

 調子が良すぎた故のミスか、そこからセカンドジャンプにつなげるも、ここはトリプルではなくダブル。

 彼女の顔に悔しさがにじむ。

 そして私は少し安心した。

 トリプル+トリプルに比べるとトリプル+ダブルは大きく点数が下がる。

 ただ転倒ではないので致命的ではないし、女子シングルではトップ層であってもトリプル+ダブルが標準的であることを考えればさして大きなミスではない。

 その後も演技をそつなくこなしていく。

 残るジャンプもほとんどミスなく無難に決めていく。

 地元選手の情熱的な演技に会場は湧き上がり、最後の高速スピンで会場は弾けた。

 文句なしのスタンディングオベーション。間違いなく今日一番の演技だ。

「やるな……」

 そうつぶやかずに入られなかった。

 冒頭のジャンプこそミスがあったものの、全体のスピード感や演技の密度が一年前とは比べ物にならない。トップレベルにふさわしいものだ。

 世界選手権代表を争う上で、彼女が最大の壁になるのは間違いなさそうだ。




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