01-5
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「疲れたぁー」
「疲れたねー」
一日の練習が終わって、ほっと一息つく瞬間。
やはりシーズン直前ということも会って、練習は普段にもましてハードだ。
基本的にスケート選手に休みはない。例え一日でもリンクを離れると、感覚を取り戻すのにとてつもない時間がかかるからだ。
スケート選手なら一流に限らず二流の選手でもそうだが、スケート靴を持たないで飛行機に乗ったことがないなんて、まったく珍しい話じゃない。
たとえ、三が日でも、お盆でも、練習する。それが当たり前。
スケート選手の超人離れした技術は、実は積み重ねたトランプタワーでしかない。ちょっとしたことで全てが崩れてしまうことだって、よくあること。
慣れているといっても辛い日々だ。
友達が皆修学旅行に行って居る間も練習。
友達が彼氏と遊園地に行っている間も練習。
友達が里帰りしている間も練習。
そんな努力があってようやくリンクに立てる。
それだけ努力しても、ようやく三流といったところだ。
スケートを続けるためには努力だけでは足らない。莫大なお金と才能、そして運が加わって初めて一流選手としてトップを争うことができる。
貴族の中の貴族以外は戦うことさえ許されない。そんなシビアな世界。金メダルを狙うというのはそういうことだ。
私がそんな厳しい毎日を乗り越えられるのは、ひとえにユリカという存在があるから。
同じリンクに所属し、種目が同じで、共にトップ選手。必然一緒に居る時間も多い。
朝起きるのが辛かったことなんてない。だって目覚めればユリカに会えるから。
一緒にご飯を食べることを考えて、午前の練習を乗り切って、一緒に家までしゃべりながら帰ることを考えて午後の練習をがんばる。
体重が数キロ落ちるほどハードな試合だって、試合の後にユリカと一緒に現地でデートすることを考えれば何てことなかった。
自分がトップ選手になれたのは、ユリカがそうだったからに過ぎない。ユリカの背中を追いかけた結果に過ぎない。
スケートは好きだ。
それは間違いない。
けれど。
スケートとユリカを切り離したとき、本当にスケート自体を好きでいられるかと聞かれたら、私は首を振る。
「試合、近づいてきたね」
「うん」
グランプリシリーズ。六カ国で行われる六つの大会。
トップ選手はそのうち二つに出場でき、成績が上位の六人が最後に行われるグランプリファイナルに出場できる。
今年は二人とも別々の大会に派遣された。
私は日本大会とフランス大会。
ユリカはアメリカとロシアだ。
ちなみに今年のグランプリファイナルは日本で行われる。それだけに日本人最高位にある私と、日本人の血が混じるユリカには大きな期待が寄せられている。
「ファイナル、絶対に出場してみせる」
ユリカはその決意を示した。
絶対に。
その言葉の裏には血のにじむ努力、そして決意。前者は私も持っている。けれど後者は私は持っていないものだった。
「そうだ、来年のファイナルは大阪開催だね! 通天閣とかいけるかな?」
私は、なんとなくスケートの話題を考えるのをやめたくなって、話を変えた。それ以上考てもあまり良い気分にはならないだろうから
「どうかな。時間があれば行きたいけど。おいしいたこ焼きくらいは食べられるといいね」
「本当は京都行きたいけど、絶対無理だよね」
「それはさすがに無理だよね。京都開催を待たないと」
「いつかなぁー京都開催。もう長崎は飽きちゃった」
日本で行われる大会、特に全日本なんかは長崎開催が多かったりする。もちろん、ユリカと行くのであれば、場所なんてどこだったいいんだけど。
「京都は無理だけど、来年は世界選手権フランスだし楽しみだね」
「まだ二人で行ったことないもんね。絶対行こうね、エッフェル塔」
「うん」
話は膨らむ。
試合の関係で世界中色々なところにいけるのはある意味魅力かもしれない。もちろんあまり旅行に割ける時間はないけど、特にシーズンがその試合で終わる世界ジュニアや世界選手権の後は旅行を満喫できる。毎年試合が終わった次の日から色々なところをユリカと一緒に旅するのがお約束になっていて、一年で一番のお楽しみだ。
決して楽な日々ではないけど、ユリカと居れば辛くはない。




