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06-6
ショートプログラムの後、インタビューと記者会見を終えた私の前に、私の〝来期からのコーチ〟が現れた。
「こんにちは、ロマノフコーチ」
あえてそう呼びかけると、彼は笑いながら返事をした。
「私はまだコーチじゃないぞ」
「明日から私のコーチです」
その揺るぎない眼差しを、私は跳ね返すようにまっすぐ見つめる。
「ショート終わって二位。悪くは無いが良くも無い」
「ええ、そうですね」
確かに、ショートの時点で、僅かにとはいえ負けてしまっている現状を考えれば、フリーで確実に勝てると断言するのはおかしいかもしれない。
でも……。
「私には四回転があります」
私だけのエレメント。ユリカも持っていない技。
そして今の私には、それを大舞台で成功させた実績がある。
「その自信が二十四時間後には溶けてなくなってしまわないよう祈るよ」
「……では、また明日。コーチ」
ややケンカ腰な会話に聞こえるかもしれないが、そうじゃないのはすぐ分かった。
彼の笑い、その意味は純粋に私に対する期待。彼は自分の新しい〝生徒〟の演技を────四回転を楽しみにしている。




