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ゆりいろ☆ステップ  作者: アメカワ・リーチ
ゆりいろ☆ステップ①
44/56

06-7

 ♪


「私、四回転やる」

「本気か?」

 コーチはやや不安そうな顔で聞き返してきた。

 コーチが不安を表に出してどうする、と思う反面。

 無理も無い、そうも思ってしまう。

 確かに、前回全日本選手権で一度決めているとはいえ、試合での挑戦はその一度きり。

 しかも世界の舞台で試したことは一度も無いのだ。

 その一度目が、世界選手権。冒険を通り越して、無謀の域かもしれない。普通はそんなバカなまねはしない。

 二流の選手が一流の選手に勝つために、背水の陣で挑むならまだわかる。万が一にという可能性をかけて、そして成功させる選手だっている。

 けれど、私の場合それには当てはまらない。

 四回転をはずしたプログラムを練習どおりやっても──ユリカの出方次第だが──十分勝機はある。

 それでもあえて成功率が圧倒的に低い四回転を組み込むのは、ハイリスクローリターンかもしれない。

 でも、

「うん。もう決めた」 

 私は決心していた。

「確かに、今のプログラムのままでも十分“攻めてる”プログラムなのはわかってる」

 ただでさえ、個々の技の難度を上げてきてる。

 今でも十分難しいプログラムだ。

「冒険なんかしないでに、堅固にやっていくってのも一つの作戦だとは思う」

 けど。

「私は絶対にユリカに勝たないといけない」

 そう。

 この試合絶対に<・・・>負けられない。

 二人の実力は拮抗している。

 現状では、ベストを尽くしたとしても、勝てるかは五分五分。

 それじゃだめなんだ。

 今のプログラムは完璧にしても勝てるかどうかわからない。

 四回転を成功させれば絶対に<・・・>勝てる。

「絶対にユリカに勝ちたい」

 私の決意だ。

 そして、それを蛮勇で終わらせない。その自信がある。

「確かに、四回転の成功率もかなり上がってきてる。スケーティングの調子もかなり良い。俺は無謀とは思わないが……」

 そうは言っても、やはり前例の無いことだ。

 いままで誰も成し遂げなかったこと。

 四回転トウループを、世界の舞台で決めた女子はいない。

 男子でさえも、跳べる選手が限られているジャンプなのだ。

 それが証拠に一昨年の世界選手権のチャンピオンと、前回のオリンピックの金メダリストは四回転を回避している。

「絶対に勝ちたい」

 私はそれを繰り返した。

 すると、コーチは私の肩に手を置いた。

「そこまでいうのなら、止める気は無い。可能性は低くはないだろ」

 “低くは無い”という言葉から、コーチの本音が伝わってくる。つまり“高くは無い”のだ。

 けれどそれで十分だ。

 逆に言えば、それなりに可能性はあるとコーチは本気で思っている。

 もともと世界で誰もやったことがない試みなのだ。確率が高いほうがオカシイ。

 ここからは、舗装されていない道。いや、スケートなのだから製氷されていないリンクというほうがしっくりくる?

 なんにせよ、未知の領域だ。

 しつこいが、四回転トウループを国際大会で成功させたものはいない。

 決まれば点数はでかいが、失敗すればとりかえしが付かなくなるかもしれない。そのジャンプの失敗だけですめば良いが、体力を消費して他のエレメンツも総崩れ…………崩壊のヴィジョンを描くのはたやすい。

 けど、

「私は絶対決める」

 あえてそう断言する。

「ああ。それにその“攻める”気持ちは、きっとジャッジにも──観客にも伝わる」

 コーチはこういう場面で慰めのためにウソを言ったり、話をごまかしたりしない。だから信頼が置けるし、その言葉が肯定的であれば、自信になる。私がコーチを信頼する理由の一つだ。

「決めよう。そして観客を驚かせてやろう」

 コーチの最後の後押しに、私は力強く頷いた。



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