06-4
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私のショートプログラム。
曲目は仮面舞踏会<マスカレイド>。
“仮面舞踏会”を題材にした楽曲の中でもっとも高い評価を受ける作品で、ソ連の三巨匠の一人アラム・ハチャトゥリアンの代表作の一つだ。
曲の始めはピアノの連弾から。
大金を失った公爵。
主人公の賭博師が、男から、公爵の失った金を、見事なテクニックで取り戻すシーン。
私はそのストーリーにあわせて、ここに最高難度のコンビネーションジャンプを組み込んだ。
すなわち、トリプル+トリプル。
女子では冒険の類に値する技。
けれどユリカが既にそれを決めている以上、私には失敗も躊躇も許されない。
ストーリー的にも、ここで失敗しては後の話に繋がらない。
さぁ、観客を驚かせてやろう。
ファーストジャンプは最高難度の種類。それだけでも難しいトリプルルッツだが、私はその前にプラスアルファを入れる。
足を前後に開き、真横に滑っていく。ムーブズインザフィールドの一種。スプレッドイーグルの変形、イナバウアーだ。
さらに私はそれをただ行うだけではなく、上体を後ろに反らす。
いわゆるレイバックイナバウアー。
前々回の五輪の金メダリストの得意技で一躍有名になった難度の高いイナバウアーだ。
そして、そこから直接──トリプルルッツ!!
着氷、
成功。
だけど、
まだ終わらない。
「ワンモア!!」
トリプルトウループ!!
完璧に“のった”感覚。
────滑らかなランディング。
イナバウアーそれ自体は得点にならないが、それから直接ジャンプを行うことによって、そのジャンプに“加点”を狙う。
今のジャンプはクリーンに決めたことによってプラス1点。
さらにイナバウアーから直接入ったことによってプラス1点。
もはや技を決めるだけでは勝てない。
“もう一歩先”を狙っていく作戦。
ただでさえ難しいトリプル+トリプルのコンビネーションを、さらにイナバウアーから直接行うのは、かなり勇気がいることだが、彼女に勝つためには必要だった。
大きなリスクもあるが、その分、大技の成功は、私をそして会場をぐっと演技に入り込ませた。
二つ目のジャンプ、ステップからのトリプルフリップ。
難なくきめて、刹那、曲調はさらに暗いものに変わる。
詐欺師は、妻が公爵に浮気しているのではないかという疑いをもつシーン。
静かな曲にあわせて、スパイラル、スピンと穏やかに、けれど着実に要素を決めていく。
そして、演技終盤、ダブルアクセルを境に、自体は急転。
詐欺師は妻を刺し殺してしまう。
その激情を表現した激しいストレートラインステップシークエンス。さまざまな種類のステップ、ターンを重ねて、60メートルを一気に駆け抜ける。
殺人の現場に、公爵と賭博をして詐欺師にお金を取り返された男が現れる。彼は妻の無実を証明するのだ。
本当は裏切ってなどいない貞淑な妻を殺してしまったことに気がついた賭博師はただただ悲しみに暮れるしかない。
絶望に頭を抱えて、ただ叫び声を上げるように、最後のエレメンツ、高速アップライトスピン。
もっと!!
もっと!!
もっと!!
限界までッ!!
回転速度を上げて、知覚を超えて行く────
気がふれ賭博師。
奇遇にも復讐に成功した男の、薄気味悪い笑みが舞踏会を締めくくる────




