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ユリカの後の選手も会場に百合の香りが蔓延する中、健闘はしたものの、しかし彼女には何歩も及ばず。
私とユリカが違うグループだったのはラッキーだったかもしれない。
製氷作業を挟むことによって、観客もようやく気分を切り替えられる。
それでも会場にはいまだに百合の香りが残っている。いや、逆にそれ以降の選手がたいしたことなかっただけにそう思ってしまうのか。
「白石祐樹さん」
コールとともに、最高の演技を待ちわびた観客たちが歓声をあげる。
いま、観客は若干の物足りなさを感じている。だからここで、ユリカ以上、少なくとも同等の演技をして彼らを満足させなければいけない。
そして、観客は私にそれを期待している。
それが出来ると期待している。
私自身もそう信じている。
…………。
……。
その自身が、私の神経を研ぎ澄まさせていく。
“百合色に染め上げ”られたアイスリンクを、私が溶かしてみせる。
彼女が“庶民の陽気な街の酒場”を表現したのなら、私が表現するのは“高貴な人々の優雅な舞踏場”。




